10.Boys side 第七会議室
騎士科の校舎にある通称第7会議室、別名懲戒室。
騎士科に在籍する生徒は、日常から騎士としての心得や態度を習得している必要があるため、規律違反などはもっての外、学生とはいえ相応の罰を受けることが多い。
「今回、呼ばれた理由は分かっているか?」
会議室の奥に佇むルカリオの瞳が怜悧に光っている。
「はい。俺の婚約者が、オーブリー様の邪魔を致しました」
ライリーは項垂れたまま話す。
「ふふっ、違いますよ。あなたは、俺ではなくオーブリー家の邪魔をしたのです。その辺りの意味、分かってますか?」
ライリーは、今気づいたように目を見開き固まった。
「オーブリー家のことは同じ伯爵家なら少しは聞いているだろう。仮にも、騎士を目指す身で、上の命令を正しく読み取れないのは致命的だ」
今回ルカリオは、その存在の性質上わざわざ命令に「オーブリー家の」と「家」を付けなかった。それくらい分かるだろうとの判断だったが、ライリーは軽く考えていたのだろう。
他の騎士科の生徒は、婚約者にもよくよく言い聞かせているはずだ。現に、少し噂くらいはしても直接シェリルに詰め寄ったりしていない。
「婚約者の気性の激しさも分かっていたはずです。それを踏まえて、どういった行動に出るか想像もしていなかったのなら、あなたは時に現場の指揮を執るべき騎士ではなく、言われたことをただただやるだけの民兵にしかなれません」
ライリーは返す言葉もなく、歯を食いしばるしかない。
「まあ、まだ学生という免罪符は残っていますし、折角なのであなたの婚約者には、自己犠牲の貴い精神を見せて頂きましょう」
セドリックの終始変わらない笑顔は、この場では恐怖以外の何物でもない。
「なっ、アンリエッタに何を……」
「あなたに選択の余地は無いですよ?彼女も、あなたに教えてもらえなかったせいで、我が家の邪魔をしたのですから。大丈夫です。まだ取返しの利く範囲なので、そんなひどいことにはなりませんよ」
暗に、次はないのだと仄めかされる。
「まあ、他の2名の子爵令嬢も扇動したことだしね」
今回、3人の中ではアンリエッタが家格的に一番上で二人はその取り巻きだった。
「では、ラヴァン侯爵令息様、お沙汰を」
「ライリー=モーガン伯爵令息、命令違反により一週間の停学及び領地にて謹慎を命ずる。領地にて、今後のことをモーガン伯爵とよく話し合って来い」
「かしこまりました」
震えそうになる声で了承し、頭を下げる。
「そう言えば、弟君はお元気ですか?モーガン伯爵家の御次男の評判はよく聞いています。とても優秀だと」
セドリックの言葉が追い打ちをかけ、ライリーは血が出そうになるほど下唇を噛みしめた。
ライリーが退室した後、淑女科の教師を通し三人の親達にも事情説明と、ライリーの処罰と同じ内容を学園から通達した。
学園には理事長をはじめ各科の教師が在籍し運営を行っているが、騎士科は特に別格だった。
この国の第一騎士団は血筋が物を言うため、第一騎士団長、副団長、諜報部においてはそれぞれ決まった家の者がその座についていた。
団長は圧倒的なカリスマ性を持つグレゴリオ家、副団長は美しさと強さを併せ持つラヴァン家、諜報部は有能で知略に長けたオーブリー家。
そのため、各家の者が生徒として在籍する際は学園も不可侵の騎士団の規律が優先される。この家の者達は、生徒でありながらも半分は騎士団に属しているのとほぼ変わらないのである。
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