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1.最推しとの邂逅

初めての投稿です。読みづらい点も多いかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。

「おや、それは今王都で評判の『レインボーマシュマロ』ですか?ふふっ、噂通りすごい色ですねぇ」

 中庭のベンチで、一人大きなマシュマロを抱え途方に暮れていた私の頭上から、涼やかな声が下りてきた。


 声の主に気付いて、ビクっと肩を震わせて私は顔を上げた。

「すみません。驚かせてしまいましたか」

 本当は悪いなんて全く思っていない感じで、好奇の眼差しを向けてくる男性は王立学園3年生のセドリック=オーブリー。

 淡い栗色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、いつも柔和な笑顔を湛える美しい容姿と、伯爵家の嫡男だが身分を問わず誰にでも丁寧に接する穏やかな物腰で、学園の誰もが憧れる存在だ。


「ちょっと、セディ。急に声を掛けて、ごめんね」

 セドリックの隣で、心底申し訳なさそうに声を掛けてくれた男性はルカリオ=ラヴァン。

 侯爵家次男で、光に輝く銀髪と濃い紫の瞳を持つ完璧な美貌の持ち主だが、必要以上に人を寄せ付けず学園の皆から憧れられてはいるが、観賞用になってしまっている3年生だ。


 そんな学園のツートップのような二人に声を掛けられ、私は固まってしまった。

 しかも、二人は私にとってただの憧れの人ではない。

 前世の推し、あらゆるアニメやゲームの中でも一番ハマった乙女ゲーム『魅惑の騎士と運命の恋』の最推しツートップ!!

 これまで学園では、周りの皆と同じように陰ながら見つめ、お姿を眺めるだけで至福!同じ世界、同じ敷地に存在できることを神に感謝!同じ空気を吸うだけで昇天!という勢いで生きてきた。

 そんな状態なのに直接声を掛けて頂けたなら、完全にキャパオーバーで私はフリーズしてしまった。


「大丈夫ですか?」

 気遣わし気にセドリックに顔を覗き込まれたら、顔は真っ赤になって湯気が出ているかもしれない。

 このまま気絶したいけど、それでは最推しに失礼。ここは全ての気力を総動員して対応させて頂く!

「は、はい。少し驚いて……失礼しました」

 ちょっと声が裏返ったけど、何とか話せた。

「そんな大きなマシュマロを見つめて、何かあったのですか?」

「あっ……えっと」

 そう、すべてはこのマシュマロなのだ。

「隣り、座っても?」

「どっ、どうぞ」

 三人掛けのベンチは、私の横にちょうど二人分空いていた。気持ち更に端に寄り、最推し二人に座って頂く。

 セドリックは相変わらず柔和な笑みを浮かべ、ルカリオはセドリックに呆れているのかやれやれといった表情で腰を下ろした。

 二人とも先輩なのに、強制されるような圧は無く心地よい空気間の中で、私は徐に事の経緯を話した。


 ここでようやく私のことだが、先輩二人のように貴族ではなく商人の娘だ。

 容姿も茶色のくせっ毛に茶色の瞳と平凡そのもの。髪の長さも貴族令嬢の様に飾ることも無いため、何かと作業をする時にまとめやすいセミロングだ。

 名前はシェリル=リント。王国内で食料品を扱う大手の商家の長女。といっても上に兄が3人もいるから、特に家業を手伝わないといけない訳でもなく、末っ子で唯一の女の子として家族からは溺愛されている。


 王立学園は主に貴族令息・令嬢が通う場所だが、一部裕福な商人の子女、何がしかの秀でた能力を持つ優秀な庶民が特待生で通っている。

 今日もこの中庭で、同じく裕福な商人の娘アリア=マーキスとお昼を食べていた。

 学園には食堂もあるが、ほとんどの貴族令息・令嬢が利用するので中庭が気楽なのだ。

 アリアは主に美容関係の品を扱うマーキス商会の娘で、家業が似ているし学園では数少ない庶民同士で仲良く過ごしていた。


 昨日も王都で流行りの『レインボーマシュマロ』の話になり、放課後予定が無かった私が30分ほど並んで二人分の『レインボーマシュマロ』を買ってきたのだ。

 そして、お昼休みに二人で開けて食べようとした時のこと……


「これが、噂の!シェリル、ありがとう!」

「ううん。まだ完売になってなくて良かったよ。でも、本当に大きいよねぇ。見た目も味も良いけど、カロリーだけは乙女の敵よね」

 はははっなんて、二人で大笑いするかと思ったのに、アリアの表情が一気に曇った。

「アリア?」

「シェリル、ごめん。せっかく買ってきてもらったのに何なんだけど……」

「大丈夫?何かあった?」

「昨日、放課後に用事があるっていったでしょ?」

「うん」

「実は、騎士科2年生のアルベルト=コーエン様に呼び出されて……」

「うん?」

「お付き合いすることになったのっ!」

「おおっ!」

 アリアは恥じらいながら一生懸命報告した。その幸せそうな姿に、私も嬉しくなる。

「良かったねぇ。おめでとう!!」

 私はにこにこしながら思わず拍手してお祝いする。

「うん!ありがとう。それでね、アルベルト様ってすごくスタイルがいいでしょ?ただでさえ騎士科の方って引き締まってすらりとされているのに、アルベルト様は特に素敵で……」

「うっ、うん?」

 だんだんアリアの様子がおかしくなってきた。これが恋は盲目というやつか。

 確かに、入学当初からアリアの騎士への憧れはすごかった。

「だから、アルベルト様の横に並んだ時に少しでも釣り合うようになりたいっていうか、いっそダイエットに励まないとって思って。マシュマロ、お金はきちんと払うから一口味見だけさせてもらって、あとはシェリルにあげる!」

「えっ……」

 アリアの気持ちは分かるけど、正直私もそこまでマシュマロが大好物な訳じゃないんだけど。このマシュマロ、直径10センチ高さ12センチあるんだけど。えっ、そんなのを2つも私消費出来る?消費したら、どんなカロリーよ。

 言いたいことは色々あるのに、根はすごくいい子なアリアの幸せそうな笑顔を見ていると何も言えないチキンな私。

「じゃ、シェリル。私この後アルベルト様の自主練を見に行く約束をしてるから。はい、これ代金ね。本当にごめんね。またゆっくり話そうね」

 そう言い置いて、アリアはスキップでもしそうな軽やかさで去って行った。


 そして、私の元には未開封のマシュマロとお互い一口ずつ食べたマシュマロが残り、茫然としていた私の目の前に冒頭のお二人がやって来たのだった。


お読み頂き、ありがとうございます。

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