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03、「望みの海」が映すもの

 二人は隣の部屋へ避難し、革袋の中から「望みの海」を引っ張り出した。小瓶に、紫の雲と黒い水が入っている。まず雲を取り出しじゅうたんに広げ、その上に水をそそぐ。見る見るうちに雲が広がり、水が増え、部屋いっぱいのプールになった。美紗(みさ)は頭に魔王を乗せて雲に寝そべり、水の中に目をこらす。


「誰を見る?」


 と尋ねる魔王に、


「あたしの色鉛筆を折った、にっくき主犯格、橋田(はしだ)真希(まき)の困ってるところ」


 黒い水がゆらめき子供部屋が映りだした。その中を行ったり来たりしている真希の姿が、次第に鮮明になる。


 ――ない、どこ行っちゃったんだろ、ない。


 ややくぐもってはいるが、声も聞こえる。


 ――岡野(おかの)くぅん、あたしの岡野くぅん。


 泣き出しそうな声で呼びながら、真希は戸棚の奥をひっくり返したり、引き出しの中身を床にぶちまけたり。


「そうそう、この馬鹿うちのクラスの岡野(おかの)孝史(たかし)ってやつが好きでね、林間学校だの社会科見学だのってたびに、写真撮って集めてるんだ」


「そんな愚かしいこと、美紗もするのか?」


「するわけないじゃん。あたしは誰も好きになったりしないもん」


 魔王は小さな手で美紗の髪を撫でる。


「よい心がけだ。この娘は大馬鹿者だな。くふふ」


「ほんと馬鹿だよ、くふっ」


 二人は声をあわせて笑う。今までこんな気の合うやつはいなかった、と美紗は嬉しくてたまらない。水の中の真希は、どんどん部屋を散らかしながら、同じところをぐるぐると回るばかりだ。魔王はすぐに飽きて、


「次は誰だ」


「橋野真希の影、芝崎(しばざき)明美(あけみ)の泣きそうなとこ」


 再びみなもが揺れ、映り込んだのはリビングの一角。戸棚で仕切った奥が、机と本棚の並ぶ明美のスペースだ。明美は几帳面なことに、引き出しの中身を一段ずつ机の上にあけ、念入りに何かを探している。そこへパートから帰ってきたらしい母親の姿が現れた。


 ――明美、米はといでくれたの?


 ――便箋がなくなっちゃったの。


 明美の焦った声に、美紗と魔王はくすっと笑う。


 ――去年の誕生日に、真希ちゃんがくれたレターセットなんだよ。


 美紗は、はん、と笑い飛ばした。

「脳みその入ってない子分かと思ってたら、こいつ真希に恋でもしてるわけ?」


「美紗も友だちからもらったプレゼントが、これほど大切なものか?」


「あたし友だちからプレゼントなんて、もらわないもん」


 魔王はまた美紗の髪を撫でた。


「美紗は賢いな。このレズビアン娘はまったく愚か者だ。くはは」


「ほーんと、馬鹿みたい。あはっ」


 二人はまた、同時に笑い声をあげる。


「次はうちの弟だよ。生意気なくせにガキだから、モンスターカードがなくなって絶対泣きわめいてる」


「モンスターカード?」


「モンスターの絵とパワーと攻撃方法が書いてあって、友だちと対戦するらしいよ」


 美紗の言ったとおり、黒い海にはべそをかいている男の子が映った。見慣れた美紗と弟の二人部屋――勉強机の下にまるまって、弟の夕樹(ゆうき)はしゃっくりを繰り返している。呆れたまなざしでそれを眺めながら、


「ねえ」


 と美紗は魔王に話しかけた。

「遠くから見て笑ってるだけじゃ、つまんなくない? 夕樹のそばに行って、からかってやりたいよ」


「賛成!」


 魔王は金色の目を輝かせた。


 二人は河童に荷物――みんなの大切なものをかつがせ、美紗と夕樹の部屋が映る海の中へ飛び込んだ。

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