前置き・科学とは、理論ではなく事実の積み重ね。
ニュートンが発見した「万有引力の法則」。「リンゴが木から地面に向かって落下するのを見て万有引力の存在に気付いた」という逸話で有名な、現代の科学社会の幕を開けるきっかけにもなった法則です。
この「リンゴが木から落ちるのを見て万有引力に気付いた」という逸話、実は多くの人に誤解されていると言ったらどう思いますか。……いやまあ、そもそもその逸話が本当なのかという問題もあるのですが。ですがもっと重要なことが、結構誤解されています。
ニュートンは、リンゴが地球に向かって落下するのを見て、「あらゆる物が地球に向かって落下する」ということに気付いたのではありません。そうではなくて、彼は「地球と同じように、月や他の天体にも引力がある」ことに気付いたのです。
ニュートンが発見した「万有引力」というのは、地球の重力の発見ではありません。それと同じような力が太陽や月、惑星にも働いていて、それが天体の周回軌道に影響を与えていることに気が付いたのです。
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天動説と地動説を語る上で、どうしても外せない一つの法則があります。「ケプラーの法則」、惑星や衛星が楕円軌道で周回しているというこの法則は、当時の天動説では正しく予測ができなかった惑星運動の法則を解明した、歴史の転換点になったとも言える法則です。
そんな、科学史にも残る極めて重要な「ケプラーの法則」ですが。この法則、「なぜ天体が楕円軌道で周回しているか」ということについては、一言も言及していません。天体の運動法則を観測の結果から公式化しただけの法則です。
その裏付けとなる理論は、ニュートンが万有引力の法則を発見するまでは、何もない状態でした。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という感染症が世間を騒がせることになったのは、2020年の冬の終わり頃でしょうか。まあ、実際には2019年の年末には世界初のクラスターも発生していますが、日本で大騒ぎになったのはダイヤモンドプリンセス号の後、感染が拡大し休校措置等が取られ始めた2月末あたりからだと思います。
感染症対策として、大規模イベントや移動の事実上の規制等、前例のない大規模な対策に世論は揺れました。これは世相なのでしょうね、賛否さまざまな意見がSNS上を駆け巡りました。
……まあ、特にTwitterによる拡散が強かったと思いますが、これをSNSに入れて良いのかどうかはちょっと疑問だったりします。あれ、コミュニケーションツールではなく、ただの拡声器のような気もしますから。
まあ、個人が好きに発信できる時代ですからね、あふれ出る情報が玉石混交というか、砂中にほんのわずかな砂金が混じっているような状態になるのも、仕方がないのかもしれません。
――ただ、ちょっと当時から気になることはありまして。
新型コロナウイルス感染症を語る上でちょくちょく付けられる「科学的」という言葉、皆さんは一体どんな意味で使っているのでしょうか。
例えば、「ケプラーの法則」には、その裏付けとなる理論が何もない状態でした。これは、「惑星や衛星といった天体がその法則通りに動いている」という事実をもって正しさを担保していまいた。
そして、その事実の積み重ねが「万有引力の法則」を生み出す元になったのです。
この2つの法則は、互いに補完しあっています。そして、その元となるのは、地球から天体を観測して得た、「星の動き」という事実の積み重ねです。
科学的な物の見方というのは、事実を積み重ねて、それを観察するところから始まるのだと思います。
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思うに、今SNSで出回っている主張は、先に結論があって、その結論に導くために都合の良い事実だけを拾いあげたような、そんな主張があふれているように思えます。
それはまるで、空にある天体がなぜ楕円軌道を描くのか悩んだ末に万有引力の法則を見つけたニュートンとは真逆の、非科学的な行為ではないでしょうか。
昨今の、新型コロナウイルス感染症に関する主張を見ていると、今の時代にとって科学とは何なのだろうかと、そんなことをつい思ってしまいます。