第3話「隙間の尊と大きな石」
「おい、隙間あんたそろそろ何か思い出したかい。」
隙間の尊が社に住み着いてしばらくたった頃に、ヒミコが隙間の尊に聞いた。
「あー、なんか色々持ち上げることが出来ることを思い出したよ。」
「ほう、そいつは面白いね。じゃ、外で試そうか。」
ヒミコ。イヨ、隙間の尊の3人は外に出ると、色々と試し始めた。
「まずはお前が浮くかやってみな。」
ヒミコに言われると、隙間の尊はなにかムニャムニャ言っていたが、ふわっと10メートルほど浮き上がった。
「おーい隙間。もっと高く上がれないのかい。」
ヒミコが隙間の尊に言うと、「これ以上は無理だぞ。」と答えた。
「そうかい、じゃ降りてきな。」
隙間の尊が降りてくると、今度は大きな石を持ち上げるように言った。
隙間の尊はまたムニャムニャ言ったと思ったら、大きな石がふわーっと浮き上がった。
石はさっきと同じで10メートルほど上がったところで止まった。
「じゃ、今度はあの石を横に動かしな。」
隙間の尊は言われるままに石を動かした。
「良しわかった、じゃ、あの石をこっちに持ってきて、そこに置きな。」
石がヒミコの目の前に置かれると、「隙間、あの上にイヨをのせておくれ。」と言った。
イヨは「えー、やめて下さい。」と言ったが、隙間の尊は「ごめんね。」と言うとイヨを石の上にのせた。
「今度はお前も乗りな。」
ヒミコは隙間の尊にも石の上に乗るように言った。
隙間の尊は言われるままにふわふわと浮かんで石の上に行った。
「次は石ごと湖の上に行って、石だけ下に落としな。」
イヨが石の上で騒いでいたが、隙間の尊はヒミコの言うとおり湖の上に行くと、石を落とした。
石はバシャーンと音を立てて湖に沈んでいったが、その時イヨも一緒に湖に落としてしまった。
「あ、イヨちゃんごめんね。」
隙間の尊は慌てて、湖でバシャバシャと溺れかけているイヨを浮き上がらせると、ヒミコのところまで運んだ。
隙間の尊がヒミコの前に戻ると、「何やってるんだろうね、この神様は。」と言ったが、それほど怒っているようでも無かった。
「ヒミコ様ごめんなさい。腹が減ってきたんで、うまく出来なかったよ。イヨちゃんもごめんよ。」
隙間の尊はヒミコに言い訳をし、横でゲホゲホ言っているイヨに謝った。
「仕方が無いねぇ。じゃ、5分やるから社で何か食ってきな。食ったら直ぐに戻ってくるんだよ。」
隙間の尊がご飯を食べて戻ってくると、ヒミコはもう一度同じ事をやるように隙間の尊に言った。
するとイヨが驚いた表情で泣きながら、「ヒミコ様、どうぞお許しを。」とヒミコにすがりついた。
「仕方ないねぇ。じゃ、私がやるよ。隙間始めな」
隙間の尊はヒミコに言われるままヒミコと石の上に乗ると、湖も上で石だけ落とした。
「うん、上出来だ。じゃ、元のところに降ろしておくれ。」
隙間の尊とヒミコはイヨの横に降りた。
「じゃ、石は湖からあげといておくれ。イヨ、帰るよ。」
そう言うと社に戻っていった。
隙間の尊はよく分からなかったが、ヒミコの期限が良さそうなので、気にしないことにした。
それから数日後、村人がヒミコの元にやってきた。
「ヒミコ様、実はよその村のものが邪馬台の森で果物を盗んでいるんです。なんとかなりませんでしょうか。」
「森の果物を盗んでおるのか。何とかしよう。」
村人が帰ると、ヒミコはイヨに言って隙間の尊を呼んでこさせた。
隙間の尊はヒミコの前に来ると、「ワシ、なんかやったのか。」と聞いた。
「何にもやっちゃいないよ。」
隙間の尊は安心して「あー良かった。またなんかやらかして怒られるのかと思ったよ。」
「いやね、最近邪馬台の森で果物を盗むやつがいるらしいんだよ。お前ちょっと行ってそいつらを追い出してきてくれ。」
隙間の尊は驚いた顔をすると、「えー、ワシ一人で行くの?怖いよ。」と言った。
すると卑弥呼が眉間にしわ世寄せて、「ヘタレとはいえお前も神様だろう、うだうだ言ってないで、とっとと行ってきな。」と怒鳴った。
隙間の尊は、一人で行くのが怖かったが、ヒミコはもっと怖かったので、とぼとぼと森の中に入っていった。
隙間の尊が森の中をさまよっていると、果物を盗んでいる数人の男達を見つけた。
隙間の尊は近づいていくと、「なぁ、あんたら。ここは邪馬台の森だかから、出て行ってくれないか。ヒミコ様が怒ってるんだよ。」と泥棒達に言った。
すると男達は、隙間の尊をまじまじと見ると、「何だお前、大きなお世話なんだよ。」と言うと、隙間の尊をぼこぼこに殴った。
隙間の尊は這々の体で逃げ出し、ヒミコに報告した。
「何だって、良しわかった。ところで隙間、お前腹は減っていないかい。」
「うーん、ちょっとすいてきたかな。」
「じゃ、急いで腹一杯飯を食いな。イヨ、何か用意してやりな。」
イヨが料理を用意すると、隙間の尊はムシャムシャと食べた。
(ワシがケガを戻ったから優しくしてくれてるのかな。)
隙間の尊が腹一杯食べると、「じゃ、行くよ。」と言って、この間浮く練習に使った大石のところへ行った。
「果物泥棒を懲らしめに行くよ。私を石の上に乗せな。」
隙間の尊は言われるままにヒミコを石の上に乗せた。
「あんたも乗るんだよ、ぐずぐずしてないでさっさと乗りな。」
隙間の尊が石に乗ると、ヒミコは、「じゃ、浮かせて果物泥棒のところに行きな。」
「ヒミコ様、この石を泥棒達の上に落とすのか?」
「はー、何言ってんだい。神の使いの私がそんなことするわけ無いだろう。泥棒の横に落として脅してやるだけさ。」
隙間の尊は人殺しは嫌だったので、ほっとすると、石を浮かせて泥棒達のところへ向かった。
泥棒達のところに着くと、ヒミコは、ヒミコの後に後ろ向きで座って、後光を出すように隙間の尊に言った。
隙間の尊が後光を発すると、泥棒達は大きな石が浮いているのに気がついた。
ヒミコは、「合図したら石だけ泥棒達の近くに落とすんだよ。」と隙間の尊に言うと、泥棒達に話しかけた。
「我が森を荒らす者どもよ、我は神の使いヒミコ。天罰を受けるがよい。」そう言うと、隙間の尊に「今だよ。」と言った。
石は見事に泥棒達の近くに落ちると大きな音を立てた。
慌てた泥棒達は今まで取った果物を放りだして逃げ出していった。
「隙間、果物を石の上に乗せな。帰るよ。」
そう言うと二人は再び石の上に乗って社に戻った。
「イヨ、泥棒は追っ払ったと村人に言ってきな。ヒミコ様が神の力で追っ払ったと言ってくるんだよ。」
イヨは直ちに村に知らせに行った。
「隙間、今日は良くやった。さっきの果物はお前にやるから全部食って良いぞ。」
「わー、ヒミコ様有り難う。」
(今日のヒミコ様は優しいな。いつもこうだと良いなぁ)
隙間の尊はそんなことを思いながら果物を腹一杯食べた。