第2話「ヒミコの後光」
「イヨ。隙間を呼んでおくれ。」
ヒミコは何かを思いついたらしく、イヨに隙間を呼んでくるように言った。
「隙間さんなら、芝刈りに言ったまま戻っていませんが。」
イヨがそう言うと「まだ戻ってないのか、相変わらずのろまなやつだねぇ。じゃ、戻ったら直ぐに私のとことに来るように言っておくれ。」
しかし、隙間の尊はなかなか戻ってこなかった。
いつまでも隙間の尊が戻ってこないので、ヒミコは怒って直ぐそばにあったリンゴを握りしめると、「何やってるんだよ隙間の馬鹿は。」そう言って外に向かって思いっきりリンゴを投げつけた。
「あ痛っ。」
外から隙間の尊の声が聞こえた。
ヒミコは思わず吹き出してしまった。
「こういうときだけタイミングの良いやつだね。イヨ、隙間が戻ったよ。とっとと連れてきな。」
隙間の尊はヒミコに何か怒られると思い、おそるおそるヒミコの前に来た。
「ヒミコ様、なんか用かな。」
「おい、隙間、お前の後光はどこから出ているんだい。」
「それなは背中からだけど。」
「じゃ、ちょっとこっちに背中を向けて後光を出してみな。」
隙間の尊は後ろを向くと後光を出した。
「あーそこから出ているのかい。わかったよ。外に行って風呂でも沸かしてきな。」
隙間の尊は何が何だか分からなかったが、ヒミコに聞くと怒るので、素直にお風呂の準備をするため外に出た。
「イヨ、村に行って、人が丁度隠れるくらいのツイタテを作ってきな。」
そう言うとヒミコは、どんなツイタテを作るか、イヨに細かく指示した。
「ヒミコ様、ツイタテなどをどうするのですか?」
「そんなことは後で分かるから、とっとと行って作ってもらってきな。」
イヨは村へ行って村人達にツイタテを作らせると、社に戻ってきた。
ツイタテには頭ぐらいの大きさの穴が開けてあった。
「イヨ、隙間を呼んできな。」
イヨはヒミコの言うまま隙間の尊を呼んできた。
「おい、隙間、あのツイタテの後ろに立ちな。」
すると隙間の尊はツイタテの後ろに回り、穴から顔を出した。
「何やってるんだよ、そこは頭を出すところじゃ無いよ。後ろを向いて立つんだよ。」
「わかった。」
隙間の尊はそう言うと後ろを向いて立った。
「もっと背中をツイタテにくっつけるんだよ。」
「これでいいかい。」
「よし。じゃ、後光を出してみな。」
隙間の尊が後光を出すと、ヒミコはツイタテの前に立って、イヨに「どうだい。」と聞いた。
イヨはやっと卑弥呼の意図に気がついて、「はい、ヒミコ様が後光に包まれています。」と言った。
「イヨ、夜になったら村人を社に集めな。隙間、もう良いよ。夜まで仕事してきな。」
隙間の尊は何が何だか分からなかったが、言われるままに外に行って薪割りを始めた。
(ヒミコ様は何するつもりなんだろうな・・・)
夜になると、村人達が集まってきた。
ヒミコは隙間の尊を社の中へ呼ぶと、「いいかい、隙間、今から村人達の前で私が演説をするから、私が『これがその証だ』って言ったら後光を出すんだよ。分かったかい。」
「後光を出すんだな。わかった。」
「イヨは、ドアを開けたら、隙間の横に座りな。隙間が後光を出し忘れたらいけないからね。それから演説が終わったら直ぐにドアを閉めるんだよ。」
ヒミコは二人に指示を出すと、隙間をツイタテの後ろに立たせて、イヨにドアを開けるように言った。
ドアが開くといよいよヒミコは演説を始めた。
「皆のもの良く参った。今日は皆に報告することがあって来てもらった。」
「先日、私の夢枕に神様がお立ちになった。そして神様は私にこう言ったのじゃ。」
『私はヒミコを神の使いと決めた。そして、これからはヒミコに神の加護を与える』
「そういうことであるから、これからは、もっと私を尊ぶように!そうすればお前達にも神の加護が分け与えられるだろう。」
村人から「うぉーー。」と歓声が上がった。
「では、私が神の加護を受けた証を皆に見せよう。」
「これがその証だ。」
ヒミコが合図の言葉を言ったが、隙間の尊は食べ物のことを考えて直ぐに後光を出さなかった。
ヒミコはムカッとしたが、落ち着いてイヨを見た。
イヨは慌てて隙間の尊に小声で、「隙間さん後光、後光。」と言った。
隙間の尊は慌てて後光を出した。
後光が出ると、村人達は大いに驚いて膝をつき頭を垂れた。
村人の間で、「後光だ」「ヒミコ様が神になられた。」と小声で言っている声が聞こえた。
ヒミコ間満足げに頷くと、両手を広げ、「村人達よ、お前達にも神の加護が与えられた。これからも我をあがめ、しっかりと働くが良い。」
そう言うとヒミコはイヨにドアを閉めさせた。
ドアが閉まると村人達は驚きの表情のまま家へと帰っていった。
一方ヒミコは「ふぅー」っと息を吐くと、隙間をキッと睨み付けた。
「隙間!お前は何で直ぐに後光を出さないんだい。ボーッとしたやつだけど、肝心なところでボーッとしてるんじゃ無いよ。」
「ヒミコ様ごめんなさい。腹が減ったんで食い物の事を考えてたら出すのを忘れちまったんだ。」
隙間の尊は申し訳なさそうにしょぼんとした。
ヒミコはため息をつくと、「まぁ良い。なんとかうまくいったから、今日は褒美になんかうまいもんでも食わしてやるよ。イヨ、なんか食わしてやんな。」
隙間の尊は、「ヒミコ様、有り難う。」と言ってぱっと明るい顔になった。
イヨは隙間の尊にニッコリ微笑むと、いつもより豪勢な夕食を隙間の尊に出してあげた。