表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/494

24-8

     ◇

「で、それは一体何なのだ?」


 ジークヴァルトが無表情で問いかけた。執務室の机に座って書類仕事をしていたが、さすがにその手は止まっている。


「何って、カークですわ。ヴァルト様もご存じでしょう?」


 リーゼロッテは、不思議そうにこてんと首をかしげた。ジークヴァルトは目線をずらすと、マテアスに同じ言葉をなげかけた。


「で、それは一体何なのだ?」

「何と言われましても、カークですねぇ。旦那様もご存じでしょうに」


 ジークヴァルトの眉間にしわが寄る。


「カークはちょっといじけていただけですわ。ですが、これから自分探しの旅に出ようと、勇気をもって足を踏み出してくれたのです」


 リーゼロッテはカークをかばうようにその手に触れた。ジークヴァルトの眉がぴくりと動く。


「わたくしが責任をもって面倒見ます。しばらくはわたくしの部屋にいてもらうつもりですし、粗相をしないようきちんと見ていますから」

「却下だ」


 ジークヴァルトの眉間のしわが深くなる。


(この流れはまずいわ。なんとか言いくるめなきゃ)


 今までの経験上、ジークヴァルトは理屈が通って道理に叶っていれば、無理強いをすることはない。プレゼンに納得すれば、リーゼロッテの要求が通ることが数は少ないが何度かはあった。

 それに、先ほどマテアスが言っていたではないか。可愛くお願いすれば、万が一にでも許可がおりるかもしれない。


(せっかく動いたカークを元の場所に戻すわけにもいかないし)


 カークがあの場所にいない方が、使用人たちも作業がしやすいだろう。

 ここはもうジークヴァルトの母心と過保護魂をくすぐるしかない。恥ずかしいが、みなのためにもひと肌脱ごうとリーゼロッテは心を決めた。


 リーゼロッテは祈るように胸の前で両手を組み、上目遣いでジークヴァルトをのぞき込んだ。


「ヴァルト様、お願いです。カークには守るものが必要なのです。守るべきものを見つけるために、カークはあの場所から動いてくれたのですから」


 リーゼロッテは懇願するように目を潤ませた。


「このままではカークはまた自分を見失ってしまいます。わたくしも見ていて、本当に、本当に、つらいのです……」


 少しだけ目をすがめたジークヴァルトをじっと見つめる。


(きいてるわ、この子供のおねだり作戦。ここはあざとすぎるくらいが正解ね)


 恥ずかしがっている場合ではないと、リーゼロッテは畳みかけるようにさらにジークヴァルトをのぞき込んだ。


「お願いですわ、ヴァルト様」


 今まで出したこともないような甘えた口調で、ダメ押しのように声を震わせる。名探偵の某少年を参考に、なんとか無邪気な子供を演じてみた。


 ジークヴァルトはふいと視線を逸らした後、舌打ちをしてからリーゼロッテに向き直った。


「ダーミッシュ嬢の部屋の前の護衛なら許す。守りたいというならそれで十分だろう」

「ええ? ですが、守るものはカーク自身がみつけなければ……」

「それ以外は却下だ。部屋の中に入れるのも禁止だ。守れないならその時は……」


 ジークヴァルトはゆらりと立ち上がりカークを見やった。


「容赦なく、消す」


 絶対零度の無表情に、カークはピーンと姿勢を正した。こくこくと頷くと、そそくさと執務室を出ていこうとする。


「カーク? 本当にそれでいいの?」


 振り返りもう一度こくこくと頷く。そのまま扉を抜けて出て行ってしまった。


「部屋の場所はわかるのかしら?」


 こてんと首をかしげたリーゼロッテの口元に、すっとクッキーが差し出された。いつの間にか目の前まで来ていたジークヴァルトが、無表情でクッキーを突きつけている。


 絶対に人前ではやらないでほしい。

 そう思いながらも、お願いを聞いてもらった手前、拒否することもできなかった。世の中は何事も等価交換なのだ。


 涙目になりながらリーゼロッテは、ジークヴァルトのその手のクッキーを、自らぱくりと口にした。


 その日から公爵家のリーゼロッテの部屋の前に、護衛のカークが貼りつくようになった。歴史あるフーゲンベルク家に後に長く伝えられる、リーゼロッテ伝説の幕開けであった。

【次回予告】

 はーい、わたしリーゼロッテ。力の制御の特訓をしていたある日、いきなり異形たちが騒ぎだして執務室がてんやわんやの大騒ぎに! 今度はわたしのせいじゃない? 守護者のジークハルト様も久しぶりに現れて、なんだか波乱の予感です! 

 次回、第25話「公爵家の呪い」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ