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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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22-4

     ◇

 ルカとジークヴァルトはお互いに剣を持ち、広い馬車道の真ん中で対峙していた。その周りをみなが囲むように見守っている。


 ふたりが手にしているのは模擬戦用に刃がつぶされたスモールソードだ。スモールソードは細身で軽く、力の弱い女性・子供に向いている剣で、剣術の稽古で愛用しているものをルカは今日も帯剣していた。


 ジークヴァルトは、普段は重く幅の広い長剣を使っているが、今回は同じ摸擬剣を渡された。ルカがピクニックの合間に手合わせをしようと、領地の護衛に持たせていたものだった。


(なんでこんなことになっちゃったの……)


 リーゼロッテはにらみ合うふたりを前に、祈るように胸の前で手を組んでハラハラしながらその様子を見守っていた。


 ルカは昔からリーゼロッテの婚約者の存在に、かわいい焼きもちをやいていた。以前はちょっとすねた顔をする程度だったのだが、リーゼロッテが王城から帰ってきてからそれが顕著(けんちょ)にひどくなった。

 ずっと公爵に対して塩対応だったリーゼロッテが、急な王城滞在からようやく帰ってきたと思ったら、ジークヴァルトにすっかり懐柔(かいじゅう)されていた。ルカにしてみればそんなところなのかもしれない。


 ルカは賢い子だ。

 王城での滞在がリーゼロッテの病気の療養のためだったことをわかっているし、いずれ姉が公爵家へ嫁ぐこともきちんと納得しているはずだ。


 伯爵家を継ぐ者として、ルカは小さいころから英才教育をうけてきた。公爵家を敵に回すような行いは避けるべきなのは、いかに九歳とはいえルカは重々承知しているだろう。


 しかし、ルカは今、ジークヴァルトに対してむき出しの敵意を隠そうともしていなかった。隙なく剣を構え、まるで親の(かたき)かのようにジークヴァルトと対峙(たいじ)している。


(あの可愛いルカがまるで鬼気迫るようだわ……)


 ジークヴァルトの強さがどれくらいなのかリーゼロッテにはわからなかったが、王太子付きの騎士を務めているくらいだ。そこら辺の騎士よりは腕は立つのだろう。

 刃のつぶされた模擬剣といっても、打ち所が悪いと打撲や骨折など怪我をすることもあり得るのだ。


(ヴァルト様、手加減してくれるわよね。どうかルカが怪我をしたりしませんように……)


 そんな落ち着きない様子のリーゼロッテを見て、アデライーデは小声でやさしく話しかけた。


「心配そうね?」

「アデライーデお姉様……やはりふたりを止めた方が……」

「ふふ、姫の立場はつらいわね。男同士、譲れない戦いもあるのよ。今は黙って見守ってあげて」


 不安そうなリーゼロッテをよそに、アデライーデは一貫して面白がっているようだ。


「ちなみにどちらを応援しているの?」

「それはもちろんルカですわ」


 リーゼロッテは即答した。


「ルカが怪我をしたらどうしようと思うとただ心配で……」

「多少の怪我はご愛嬌よ。それにあの子もなかなか負けてないと思うわ」


 リーゼロッテに笑顔を向けると、アデライーデは対峙する二人に視線を戻した。


 アデライーデはルカの剣術の稽古(けいこ)を何度か目にしていた。

 ルカの師匠はもう引退はしているが、平民出の実力でのし上がった騎士だった。そのため、ルカの学ぶ剣術は、貴族の坊ちゃんが教わるような形式美優先の型にはまったものではない。それは実戦で(つちか)った、紛れもない戦うための剣術だ。


 ダーミッシュ伯爵がなぜこの百戦錬磨の老騎士をルカの師匠に選んだのか、アデライーデは不思議に思ったくらいだ。


「この手合わせ、おもしろくなるわよ」


 アデライーデのその言葉に、リーゼロッテはますます不安そうな顔をした。

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