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そんなふたりの間に、白馬の大きな顔が割り込んできた。ジークヴァルトの肩越しに、その首を下げてすり寄ってくる。
「まあ、退屈にさせてしまったかしら?」
リーゼロッテがそう言うと、白馬はリーゼロッテに顔を近づけ、その髪をひと房くわえて持ち上げた。
「食べるな」
ジークヴァルトが白馬から髪を奪い返すと、整えるようにリーゼロッテの髪を梳いた。
「この馬はジークヴァルト様の馬なのですか?」
リーゼロッテはハンカチに黒い馬の刺繍をしていることを思いだしてそう聞いてみる。ジークヴァルトが今いちばん可愛がっているのが白馬ならば、デザインを変えた方がいいかと思ったのだ。
「これは領地の馬だ。足が速いので連れてきた」
「まあ、そうなのですね」
リーゼロッテは馬の顔をなでながら、何の疑問も持たずにそう答えた。
『速い馬』というのなら、ジークヴァルトがいつも乗っている青毛の牡馬の方がよほど足が速かった。その馬に乗ってこなかったのは、気性が荒いその馬ではリーゼロッテが怖がるかもしれないと思ったからだ。
夜勤明けで早朝公爵領に戻ってきたジークヴァルトは、夕べのうちに届いていたリーゼロッテの手紙を読んで、慌てて先ぶれの手紙を書いた。それを先に伝令に届けさせ、自分は公爵領のやるべき最低限の仕事を済ませて、すぐさまダーミッシュ領まで馬を駆った。
無意識に選んだ馬は、比較的足が速く、誰にでも人懐っこく性格の穏やかなこの牝馬だった。夕べは一睡もしていないが、早駆けの馬で四時間はかかる道のりを、三時間足らずで移動した。
ジークヴァルトもなぜそんな突発的な行動に出たのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、リーゼロッテを馬に乗せるのが、自分以外の誰かであることが、なぜだか無性に許せなかったのだ。
その衝動にかられ、気がついたらさらうようにリーゼロッテを自分の馬の背に乗せていた。本来なら、今日ダーミッシュ領に来る予定などなかったはずなのに。
今日やるべき仕事のほとんどは、従者のマテアスに押し付けてきた。今頃は書類の山に埋もれてジークヴァルトに悪態をついているだろう。
ジークヴァルトは自分の腕の中にいるリーゼロッテをじっと見やった。
彼女はいつでもあたたかく柔らかくて、ほのかにいい匂いがする。思わず手を伸ばしてしまう蜂蜜色の髪は、指どおりがよくいつまでも触っていられる。時折じっと見つめてくる大きな瞳は、いつ見てもエメラルドのように輝いていた。
(オレは一体何をやっているのだ……?)
麗らかな風が吹く花畑の真ん中でリーゼロッテの髪を梳きながら、ジークヴァルトはそんなことを思っていた。
【次回予告】
はーい、わたしリーゼロッテ。ジークヴァルト様にみなが恐れをなす中、剣の手合わせを申し込んだのは義弟のルカで!? 男同士の熱き戦いの行方はいかに? 俄然ルカを応援します!!
次回第22話「譲れない思い」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!




