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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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21-2

 馬上は想像以上に視界が高く、リーゼロッテは思わず身をすくませた。馬が進むとリーゼロッテの横向きの体がジークヴァルトの胸に押し付けられて、その頬が騎士服の胸に当たる。


 騎士服からふわりとたった香りに、リーゼロッテの鼓動がどきりと跳ねた。

(ヴァルト様の匂いだ……)


 整髪料なのか衣類の洗剤の残り香なのか、ジークヴァルトからいつも感じていたその香りに、王城で過ごした日々が急速に脳裏によみがえる。


 つい半月前の話なのに、ほぼ毎日ジークヴァルトと一緒にいたことを思い出したリーゼロッテは、無性に懐かしさと気恥ずかしさを覚えた。


 手綱を握るジークヴァルトの腕に挟まれるように座っていたが、馬が進むたびに上下に揺れるので、リーゼロッテは落ちたらと思うと急に怖くなった。ジークヴァルトの騎士服をつかむ手に、知らず力が入る。


 それに気づいたジークヴァルトは、片腕をリーゼロッテの腰に回した。引き寄せるように腕に力を入れると、ジークヴァルトは足を蹴って馬を走らせた。


 軽やかに走る馬は全力疾走には程遠かったが、リーゼロッテにしてみれば初めての体験だ。ジークヴァルトの腕のおかげで安定感は増したが、やはり上下に揺れる馬上が怖く感じられた。


「力を抜いて馬の動きに合わせてみろ。怖かったらしがみついていればいい」


 ペンダントの守り石が、リーゼロッテの顔の前で踊るように跳ねている。何を思ったのか、ジークヴァルトは手綱を手にしたまま、跳ねる守り石を器用につかみとった。


「ふぎゃ」


 リーゼロッテの口から淑女にあるまじき声が出る。こともあろうにジークヴァルトは、コルセットでできたささやかな胸の谷間に、守り石をその指で押し込んだのだ。


(ななななんてことするのよ!)


 しかも守り石が押し込まれたのは、リーゼロッテの龍のあざがある場所だった。馬が揺れるたびに、胸の間で石も揺れる。守り石があざに触れるたびにリーゼロッテは、ジークヴァルトがあざに触れたときと同じような熱を体に感じた。


「ふ、ゃ」


 切なそうに息を弾ませて、リーゼロッテはジークヴァルトの背に手を回した。

 ぎゅっとしがみついたリーゼロッテが、ジークヴァルトの胸にその頭をぐりぐりと押し付ける。その行動に驚いたジークヴァルトは、あわてて馬の速度を落としてその足を止めさせた。


「怖かったのか?」


 めずらしく動揺したような声でジークヴァルトが問うと、リーゼロッテはしがみついたまま涙目でジークヴァルトを見上げた。


「いいえ、そうではないのですが、石が……」

 肌に触れて熱いのだ、とは言えず、リーゼロッテは上気した顔をジークヴァルトの胸に再びうずめ、切なそうにすり寄った。


「おい」


 普段と違うリーゼロッテの行動に、ジークヴァルトは困惑した。リーゼロッテが頭を押し付けるたびに、ジークヴァルトの体も熱を帯び、みぞおちを中心に耐えがたく熱が広がった。


 ジークヴァルトはリーゼロッテに触れるたびに、それなりに熱を感じてはいたが、ここまで強く感じることはなかった。リーゼロッテがそこを刺激するたびに全身が熱を帯び、ジークヴァルトはいつになく動揺した。


 慌ててリーゼロッテの肩をつかんで体から離すと、ジークヴァルトは馬から降り、次にくったりしているリーゼロッテを抱えて馬上から降ろした。

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