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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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20-4

     ◇

 その日、リーゼロッテは白いハンカチに刺繍を刺していた。ジークヴァルトにプレゼントするためだ。


 前に渡した刺繍入りのハンカチは、ジークフリートのために作ったものだった。それをジークヴァルトに大事に使われていると思うと、リーゼロッテは良心の呵責を感じずにはいられなかったのだ。


(新しくプレゼントして、前のは返してもらおう)


 そう思ったリーゼロッテは、空いた時間をみては刺繍を刺していた。小鬼の影響がないせいか、とても順調にすすんでいる。刺繍がうまく刺せないでいたのも、やはり異形のせいだったのだ。


 エラにも相談して黒い馬のデザインにしたのだが、エラ監修のもと、自分でもなかなかの出来栄えに仕上がってきていた。


 刺繍をすすめていた午後のある日、家令のダニエルがピクニックは明日行けることになった旨を伝えに来た。ようやく義父のフーゴの時間が空いたとのことで、明日は天気もよさそうなので、急遽決まったことを告げられる。


「まあ、うれしいわ」


 刺繍の手を止めたリーゼロッテは、ふと、ジークヴァルトにピクニックの日程が決まったら、手紙で連絡するよう言われていたことを思い出した。


 昨日も贈り物が届いたので、午前中にお礼の手紙を送ったばかりである。下手したら、あと数時間で返事の手紙が来るかもしれない。


 リーゼロッテは領地に戻ってからというものの、届いた贈り物のお礼の返事を夜に書き、翌日の朝に手紙を出して、その日の午後にその返事か新たな贈り物を届けられるという、無限ループにはまっていた。


 アデライーデもいることだし、些細なことは報告するまでもないだろうと、一度は手紙の頻度を減らしたのだ。だが、手紙を遅らせると何か問題があったのかと、ジークヴァルトから先に手紙がやって来るのだ。


 問題がないから報告しないのだが、それはそれで気になるらしい。いくら王命で自分の護衛に関与しているとはいえ、ジークヴァルトは過保護すぎやしないかとリーゼロッテは思っていた。


 一時期は、普通の手紙の返事を出した直後に催促の手紙が届いて、その返事を書いて送っている合間に、前に出した手紙の返事が来るという、どれがどの返事なのか何が何やらさっぱりわからない、カオスな状況に陥ってしまった。


 仕方がないのでリーゼロッテはそれ以来、その日にあったことを日誌のように手紙に書いて送ることをルーチンワークとしたのだ。


(もはや手紙という名の交換日記だわ。ヴァルト様の返事は相変わらずそっけないけれど……でも返事は必ずくれるのよね)


 些細な報告には忙しいだろうから返事はしないでいいと書いても、「問題ない」などの一言二言の手紙が届く。届く贈り物はかなりの頻度で、気を遣わないようにやんわり伝えても、やはり「問題ない」との返事ばかりだ。


 筆まめと言えるような文章の返事ではないし、無駄なことを嫌うジークヴァルトの性格を考えると、王命だからとかなり無理をしているのだろうとリーゼロッテは思っていた。


(ピクニックの件も、報告しないと後がうるさいわよね)


 リーゼロッテは仕方なしに、今日中に手紙をもう一通書いて送ることにした。

 伝令を務めている使用人にはいつも申し訳なく思ってしまうのだが、時間外労働としてしっかり報酬は払うよう義父にはお願いしている。


 文机に向かい、手紙をしたため始める。ここのところは毎日書いているので、書き出しは社交辞令的な文面で、もはやテンプレート化していた。


(この世界にも前略、とか追伸、的な言い回しがあればいいのに)


 貴族の世界では、時節の挨拶からはじまり、まだるっこしい言い回しが常だった。いっそ電報形式でいいのではなかろうか、などど考えてしまう。


『アス、ピクニックニイク。ソノホカモンダイナシ』


(なんて簡潔なの。スマホがあればメールやメッセージアプリで済むのに。電話もないし、異世界はなかなか面倒だわ)


 そんなことを思いながら、手紙を書き始める。とりあえず、明日ピクニックに行くことになったこと、アデライーデに馬に乗せてもらう約束をしたことをしたためて、二通目ということもあり、短めに内容をまとめた。


 夕べは守り石を外して眠る日だったので、今日は少し寝不足気味だ。力を解放した日はいつもへんてこな夢を見るので、朝、目覚めてもあまり寝た気がしなかった。

 注意力が散漫になり、手紙の文章もいまいちうまく書けなかったが、時間もないので仕方ないとあきらめる。


 やはりテンプレート的に結びの文を書いて封をしたリーゼロッテは、急いで家令のダニエルに今日中に公爵家に届くよう手紙を託した。


(今日は刺繍もおしまいにして、早めに寝た方がよさそうね。興奮して眠れなくならないといいけれど)


 明日のピクニックのことで気持ちがいっぱいで、気もそぞろなリーゼロッテであった。

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