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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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19-3

「わたしは石に力を込めるのは苦手なのよね。……それがないと困ることは何?」


 アデライーデの問いかけに、リーゼロッテは正直に答えた。


「ヴァルト様の守り石がないと、小鬼が見えませんし、追い払うこともままなりません。わたくし、自分の力をまだうまく扱えなくて……」


 恥ずかしそうに言うリーゼロッテに、アデライーデは笑顔で返した。


「リーゼロッテの今までの環境を思えば、それも仕方ないわ。わたしもそれなりに力を扱えるまで、子供の頃は苦労したもの」


 その言葉にリーゼロッテは意外そうな顔をした。


「アデライーデ様もですか?」

「ええ」とほほ笑む未来の姉に、リーゼロッテは親近感を覚えた。


 とはいえ、スタートラインが遅いリーゼロッテは、さらに苦労しそうだとは、アデライーデは言えなかったのだが。そこはそれ、本人にがんばってもらうしかなかった。


「そうね、とりあえず……日中はそのご立派な首飾りの守り石をつけて、眠るときは今まで通りペンダントをつけるというのはどうかしら? そのたいそうご立派な肩の凝りそうな首飾りは、室内ではメチャクチャ浮きそうだけど、それはヴァルトのせいだから、後でしばき倒すなり好きなものを買わせるなりするといいわ」


 アデライーデの言葉に、リーゼロッテは苦笑した。遠慮なく言い合える姉弟の関係が、自分とルカとはまた違った形でなんだか微笑ましい。


 そんなリーゼロッテに、アデライーデは言葉を続けた。


「それとも、首飾りからこの守り石だけはずしてペンダントに作り直す? やろうと思えば、すぐはずせそうだし」

「そんな、いけませんわ。せっかくいただいた首飾りですし」


 慌ててそう言ったリーゼロッテに、アデライーデは微笑んだ。


(ちゃんと喜んでもらえてるようよ、弟よ)


 社交デビューを控えた婚約者に贈るプレゼントとしては及第点だったが、その使い道で落第確定だ。


 だが、残念な朴念仁に育ってしまった弟にしては、頑張っている方ではないだろうか。アデライーデは、リーゼロッテの部屋を見回しながらそんなことを思っていた。


 リーゼロッテの部屋の調度品からは、ジークヴァルトの力が感じられていた。それなりにリーゼロッテを守ろうと努力していることは認めてやらなくもない。


 そんなふうに思う自分は意外と弟に甘いのかもしれない。ジークヴァルトに甘えられたことは一度たりとてないが、甘やかされた記憶ならアデライーデにもあった。


 そんなとき、リーゼロッテの部屋に家令のダニエルがやってきた。


「公爵様から、返事のお手紙が届いております」

「え? もう?」


 驚きながらもうれしそうに微笑むリーゼロッテをみて、アデライーデもつい顔をほころばせた。弟の無駄な努力が多少は実っているのかと思うと、次に会ったときにジークヴァルトをからかい倒したくなる。不遜な仏頂面がゆがむのを想像して、アデライーデはくすりと笑った。


「アデライーデお姉様?」

「なんでもないのよ。それで、ジークヴァルトは何て?」


 リーゼロッテは封筒を開いて手紙を読んでみた。ここ一カ月、毎日のように会っていたジークヴァルトと、再び手紙でやりとりしていることが、ちょっと気恥しく感じられる。


「首飾りの守り石をペンダントに作り替えるために、職人の方がこちらに来るよう手配してくださったそうです。それと念のために予備の守り石を送っていただいたようですわ」


 ダニエルが手にした箱を受け取って中を確認していみると、そこには普段身に着けているペンダントと同じくらいの大きさの守り石が、二つほど入っていた。

 どれも綺麗な青にゆらめいていて、リーゼロッテはほうとため息をついた。


「ヴァルトにしては気が利くわね」


 アデライーデの言葉に、なぜだかリーゼロッテはほっとした顔をした。


「あら、なぜリーゼロッテがほっとしているの?」

「いえ、ヴァルト様がこんなに早くにお返事をくださるとは思っていなかったものですから……」


 アデライーデがいじわるそうに笑うと、リーゼロッテはあわてたように顔を赤らめた。


 それを聞いたアデライーデは、ジークヴァルトの侍従が以前言っていた言葉をふいに思い出した。

 ジークヴァルトは子供の頃から、リーゼロッテからの手紙を心待ちにしているのだと。そのときは、まさかあのジークヴァルトがと思っていたのだが。


 アデライーデは思わず吹きだした。

 こうやって即返事を書いてしまうほど、ジークヴァルトはずっとリーゼロッテを気にしているということだ。


(あの朴念仁にも人並みの心があったのね)


 いつまでもくすくすと笑っているアデライーデを、リーゼロッテは不思議そうに見つめていた。

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