表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/494

第19話 無知なる者

 アデライーデは、つくづくこのダーミッシュ家はおもしろいと思っていた。


 当主であるダーミッシュ伯爵はもちろんのこと、伯爵夫人のクリスタと息子のルカが無知なる者であることは知っていた。王の勅命がくだったときに渡された資料にあったからだ。


 だが、家令のダニエルから、メイドや料理人、庭師、出入りしている商家の者まで、ありとあらゆる人間が無知なる者だったのだ。


 無知なる者とは異形の者の干渉を受けない者たちのを指す。異形を視ることはできないが、異形もまた無知なる者に悪さは働けない。


(一体どうしたら、これだけの無知なる者を集められるのかしら?)


 ジークヴァルトもこれには気づかなかったのではないだろうか。


 リーゼロッテと接触を禁じられていた上、ダーミッシュ領は他の領地に比べて犯罪がほとんどない平和な土地だ。それなりに情報は集めていたようだが、そこに侮りはあっただろう。


(まったく使えない弟ね)


 リーゼロッテと会話をしていると、ほとんどと言っていいほど、彼女は異形の者や龍の託宣に関する知識がないようだった。


 アデライーデ自身は託宣を受けた身ではなかったが、フーゲンベルク家は長い歴史の中、繰り返し龍から託宣を賜わってきた。そしてアデライーデは、両親やジークヴァルトの抱える苦労を目の当たりにしながら育ってきた。


 使用人でも託宣のことを承知している者は少なからずいるし、異形に対する知識も浄化の力も、誰に教わらなくとも自然と身につく環境だった。


 リーゼロッテも本来なら、ラウエンシュタイン公爵家の令嬢として、同じような環境で育つはずだったろう。しかし、実際は無知なる者に囲まれ、世間と隔絶されてここまで来た。


 報告書を見てアデライーデは、蝶よ花よと育てられた世間知らずで我が儘な令嬢を思い浮かべたが、リーゼロッテはジークヴァルトにはもったいないくらい、素直で可愛いらしい令嬢だった。


 世間知らずなのには間違いないが、リーゼロッテには少ない情報で物事を理解する聡さがあった。妙に達観した、あきらめにも似た素直さが、アデライーデとしては気になるところでもあったのだが。


 彼女の今までの環境がそうさせているのだろうか? リーゼロッテは最近まで、異形に憑かれ、不自由な生活を送っていたと聞く。


 どちらにせよ、弟の不手際と言わざるを得ない。

 わかっていて放置していた父と母にも思うところはあったが、託宣を終えた者たちは、龍の意思でその口をはさめないのだと聞いたことがあった。


 アデライーデは、未来の義妹を一目で気に入った。ジークヴァルトにくれてやるには、もったいなさすぎる。

 母の苦労を間近で見てきたがゆえに、これからリーゼロッテにふりかかるであろう災厄の数々を想像すると、アデライーデはでき得る限り力になってやりたいと、そう思っていた。


 龍の託宣にまつわる忌まわしい出来事を、もう二度と引き起こしたくはない。自分も含め、ジークヴァルトも、父も母も、十分すぎるほどつらい目に合ってきた。


 当事者たちは放り出すことも叶わないのだ。そう思うと、自分の身に起きたことは過ぎたこととして飲み込むしかない。


 アデライーデはいつも通り自分にそう言い聞かせ、その隻眼(せきがん)をそっと伏せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ