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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣

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第16話 ふたつ目のあざ

【前回のあらすじ】

 ルチアのお目付け役として公爵家を訪れたベッティは、神殿でリーゼロッテの髪を切り落とした件で、ジークヴァルトに見つかることに恐れおののきます。リーゼロッテの底なしのやさしさに触れ、なんとかピンチを乗り切るベッティ。

 一方ルチアは、子爵夫人エマニュエルに身の上を打ち明けます。貴族として生きることをやさしく(さと)されるも、どうしても心を開ききれなくて。さらに悪い噂の絶えないカイとは距離を置くよう注意され、落胆と反発心を抱きます。

 気晴らしにと出かけた貴族街で、ルチアはとうとう逃げ出すことを決意。ベッティの裏をかき、三階の窓から脱出を果たすのでした。

 開け放たれた窓から、冷たい風が吹き込んでくる。雪と泥にまみれたブランケットのロープを握り締め、ベッティは口元に薄ら(わら)いを浮かべた。


「うふふぅ。ルチア様ぁ、このベッティを出し抜こうだなんてぇ、超絶いい度胸してるじゃありませんかぁ」


 血走った目は、完全に瞳孔が開ききっている。そんなベッティの横で、見張っていた店の男の顔がこれ以上なく真っ青になった。


「耳かっぽじってよぉく聞いてくださいますかぁ? 人生まだ終わらせたくなかったらぁ、この件は他言無用でお願いしますねぇ。もしひとりでも誰かに話したりしたらぁ、デルプフェルト侯爵家が問答無用で敵になると思ってくださいましぃ」


 必死に頷く男を置いて、ベッティは外へ飛び出した。まだ遠くへは行っていないはずだ。大事になる前に、(すみ)やかにルチアを回収しなくては。


 店の裏手の庭に出る。ブランケットを伝い降り、途中で近くの木に飛び移ったようだ。折れた小枝が散乱する雪の上に、真新しい足跡が残されていた。

 辿(たど)った先は石畳の通りが続いている。痕跡(こんせき)が途切れ、ベッティは辺りを見回した。自分がルチアなら、見つからないよう大通りは避けて行くはずだ。


(どのみちここから逃げだせっこないんですけどねぇ)


 この貴族街は高い塀で囲まれており、常に厳重な警備がなされている。出入り口は馬車止めのある一か所のみで、出ていくにも通行証を見せる必要があった。それに徒歩で行き来する者など滅多にいない。例えルチアが門までたどり着いたとしても、不審に思われ足止めされることだろう。


 真っ先に入り口のロータリーに向かい、ルチアが来ていないことを確かめた。門番にはうっかりはぐれたと説明し、もし赤毛の令嬢が来たら保護するようにと依頼した。外聞が悪いので口止め料をたんまり握らせてから、ベッティは貴族街へと引き返した。


 任務でのハプニングには慣れたものだが、原因が自分にあると冷静さを欠いてしまう。失態は時間が経つほどに複雑化して、対処が難しくなっていく。落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、迅速にやらねばならないことを整理する。

 くやしいが、カイには包み隠さず報告するしかない。保身のための嘘は何があっても許されなかった。これは一族から叩き込まれた掟で、任務の内容によっては仲間の命に係わることもあるからだ。


「ルチア・ブルーメ。絶対に逃がしませんよぅ」


 売られた喧嘩だ。デルプフェルト家の一員として、この勝負、真っ向から受けて立とうではないか。


 怪しい笑いを漏らしながら、ベッティは裏通りに向けて駆けていった。


     ◇

「ったく、せっかくの休暇だってのに、なんで妹の買い物につきあわにゃならんのだ」

「お兄様! ぶつぶつ言ってないでちゃんと運んでくださいな!」

「わーった、わーった」


 視界が(さえぎ)られるほど高く積まれた箱を抱えながら、ニコラウスはやれやれと息をついた。


「しっかし、こんなもん、店の者に屋敷まで運ばせりゃいいだろーが」

「だってすぐに使いたいんですもの。落としたりしたらわたくし泣きますわよ」


 前を行くイザベラは完全の手ぶらだ。こんなことなら従者のひとりでも連れてくればよかったと、ニコラウスはもう一度ため息をついた。


「うわっと」


 いきなり小さな異形の者が足元をかすめて、ニコラウスは石畳の上たたらを踏んだ。崩れそうな箱の動きに合わせ、前のめりに何歩か進む。不安定に積み重なったまま、箱はどうにかこうにか動きを止めた。


「あっぶねー。さすがオレ様、危機一髪」

「もう、お兄様! 乱暴に扱わないでったら!」

「今のはオレのせいじゃねぇ……ってイザベラ、お前にゃ異形の者は視えんか」


 ずれた箱の合間にできた狭い視界の中を、先ほどの異形が走り去って行く。恨みがましく目で追った裏路地で、小鬼はぴょんと誰かの肩に飛び乗った。


「ふぉっ!?」


 鮮やかな赤毛の令嬢と目が合って、おかしな声が漏れて出る。可愛らしい顔立ちに一瞬見とれるも、その姿に息を飲んだ。

 令嬢の髪は乱れ、濡れたスカートは泥だらけだ。派手に転んだのか、もしくは何者かに襲われたのか。そんな不穏な想像が、ニコラウスの頭を駆け巡る。


「あっ、ちょっと待って……!」


 怯えたように数歩後退(あとずさ)ったかと思うと、令嬢は異形を肩に乗せたまま暗がりへと駆けだした。事件の臭いを感じ取り、抱えていた荷物をニコラウスは素早く地面へと降ろした。


「イザベラ、お前はここで待ってろ!」

「えっ、いきなり何ですの? ちょっとお兄様……!」


 イザベラの叫び声を背に、令嬢を追いかけ裏路地に入る。建物の影に(ひろがえ)ったスカートが垣間見え、ニコラウスは急ぎそこを目指し走っていった。

 治安のいいこの貴族街で、白昼堂々暴力沙汰が起こるなど考えにくいが、あんな姿の令嬢を放っておけるはずもない。


「そこのご令嬢! 怖くないから逃げんでくれ!」


 声を張り上げるが、赤毛の令嬢は細い通りの遥か先を駆けていく。


(あれだけ走れりゃ大怪我はしてなさそうだな)


 淑女らしからぬ足の速さに驚きつつも、そうは言ってもニコラウスは現役の騎士だ。令嬢との距離を着実に詰めていった。

 あともう少しで追いつきそうになった時、令嬢が横道に駆け込んだ。そこを突き抜けた大通りで、ニコラウスはその姿を見失ってしまった。


「どこか店に入ったのか……?」


 随分と(はず)れの方に来たようで、あまり人気(ひとけ)のない区画だった。ほかに隠れられそうな場所もなく、店を何件か覗いてみる。だが先ほどの令嬢はどこにも見当たらなかった。


「ここが最後の店か。(はた)は……立ってねえな」


 貴族街ではそれぞれが扉の前に旗を掲げ、そこが何の店かを知らせている。旗が表に出ていないときは、その店が閉まっていることを示していた。

 念のためにと扉を叩く。しばらくすると耳障(みみざわ)りなドアベルの音を響かせて、フードを目深(まぶか)にかぶった若い男が現れた。


「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」

「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」

「ひとを?」


 胡散(うさん)臭そうな声で問い返される。怪しげな人間に怪しまれるのもなんだか心外だ。だがここはそういう趣向(しゅこう)の店なのだろう。薄い(こう)の匂いが漂ってきて、そう考えればフードをかぶった男も、いかにもな雰囲気に思えてくる。


「オレはニコラウス・ブラル、大公閣下直属の騎士だ。ここに赤毛の令嬢はやってこなかったか?」

「赤毛の令嬢……でございますか?」

「もしかしたら怪我をしているかもしれないんだ。供の者もつけずにいるところを見かけたから、心配になって追いかけてきたんだが」

「ああ……」


 小馬鹿にしたように、フードの男は鼻からかすかに息を漏らした。


「その令嬢は、肩に小さな異形の者を乗せていませんでしたか?」

「……確かに乗せていたな。彼女はやはりここに来たんだな?」

「いいえ」


 口元に笑いを含ませる男の態度にむっとして、ニコラウスは思わず語調を強めた。


「だったら何で知っているんだ」

「それは……」


 俯き加減の男は、いまだ笑いをこらえるように口を(ゆが)ませている。ここまでくると薄気味悪くすら感じてしまった。


「実は噂があるのですよ」

「噂?」

「はい、未練を残して亡くなった赤毛の令嬢が、夕暮れ時になると貴族街に姿を現すと」

「亡くなった令嬢が? どうして貴族街に現れるんだ」

「なんでも貴族街に向かう途中で、不運にも事故にあってしまったとか。死んでもなおやってくるなんて、よほどここに来たかったのでしょうね……」


 異形を見慣れている身としては、あの令嬢が死人とは思えなかった。だがおどろおどろしく話す男に、ニコラウスは若干たじろいだ。


「でもよかったですね。あなたのように令嬢を追いかけて、そのまま行方不明になった者もいるらしいですから……」

「そ、そんなことが起きたら大問題になっているだろーが」

「あくまでわたしはそういう噂を耳にしたというだけですので。それで、貴族の旦那様。占いはご希望なさいますか?」


 咄嗟(とっさ)のことで言葉が出ない。返事をしあぐねていると、男はフードの頭をゆっくりと下げた。


「ご用がなければお引き取りを」


 閉められた扉の前で、ニコラウスはなんとも(きつね)につままれたような顔をした。


     ◇

 ハンドチェーンに飾られた輝石をしゃらりと鳴らしながら、クリスティーナは薄いヴェールで髪と口元を隠した。


「この姿も久しぶりね」

「まったく……買い物がしたいと言うから連れてきたのに、どうしてここで(まじな)い師の格好を」

(まじな)いではないわ、宿世(すくせ)の占いと言ったでしょう。良いじゃない。貴族街の聖女がいなくなったと、社交界ではちょっとした話題になっているそうよ? たまには店を開けておかないと」


 一度言い出したら何があっても聞き入れないのは、王女だった時から変わらない。それを一番よく分かっているはずのアルベルトは、くすくすと笑うクリスティーナを前に諦めの顔をした。

 仕方なさそうにしながらも、アルベルトは慣れた手つきで順に一本一本、蠟燭(ろうそく)に火を灯していく。不規則に揺らめく炎は、壁のいたるところに影を落としはじめた。


 部屋の片隅に掛けられていた黒いマントを、おもむろにクリスティーナは手に取った。王女時代にお忍びで来るたびに、ヘッダがここで身に着けていたものだ。


「あの子は本当にいなくなってしまったのね……」


 (すみれ)色の瞳を伏せ、布地に指を滑らせる。


「これからはアルベルト、あなたの仕事よ」


 差し出されたマントを、アルベルトは言われるでもなく自ら羽織った。背伸びをして手を伸ばすと、身をかがめ頭を下げてくる。


(たけ)が短いけれどちゃんと着られそうね。ヘッダのように目深(まぶか)にかぶらなくては駄目よ? こういうのは雰囲気が大事なのだから」


 笑いながらフードをかぶらせると、アルベルトは呆れたように息をついた。


「雰囲気うんぬんではなく、ヘッダ様はお顔を隠すためにかぶっていただけでしょう?」

「またそんなふうに言って。ほんと、つまらない男。たまには気の()いた冗談でも披露(ひろう)したらどうなの?」


 たのしげに言ったクリスティーナの目の前が、突如(とつじょ)光の(うず)に包まれた。押し寄せる映像(ビジョン)の波に、(あらが)うこともできずに飲み込まれていく。


 誰かに呼ばれたような気がして、クリスティーナはふと目を覚ました。お気に入りの縫いぐるみを胸に抱え、深夜の子ども部屋をひとり出る。

 誘われるままにたどり着いたのは、今まで来たこともない王城の奥深くだった。冷え冷えとした廊下で、クリスティーナは先にその場にいたイルムヒルデに問いかけた。


「おばあさま、ここでなにをなさっているの?」

「クリスティーナ、なぜあなたがこのような場所に……」


 人気(ひとけ)のない廊下に声が反響する。祖母の横には、赤ん坊を抱えたひとりの令嬢がいた。お(くる)みからはみだした鮮やかな赤毛が、クリスティーナの目に飛び込んでくる。


「その子はだぁれ?」


 不思議に思って首をかしげたあと、クリスティーナは(そば)にあった大きな二枚扉に目を向けた。


「呼んでる」


 歩み寄って小さな手をかざす。青龍のレリーフが(すみれ)色に輝き、扉はひとりでに開いていった。


「青龍が呼んでいるわ。おばあさまも、そこのあなたも……」


 ふたりを促し、自らも扉をくぐる。部屋の奥には、大きな(さかずき)に泉が湧いていた。こぽこぽと静かに水音を立て、その(ふち)から絶えず清水を溢れさせている。


「その子を近づけて」


 指し示すと、戸惑いながらも令嬢は赤ん坊を(はい)の泉に近づけた。

 静かだった水面(みなも)から、(まばゆ)い光が溢れ出る。洪水のように跳ね踊る光の(うず)を前に、赤ん坊が無邪気な笑い声を上げた。同時にクリスティーナの顔からすっと表情が消え()せる。


 プラチナブロンドの髪が舞い上がり、菫色の瞳はどこか虚空を見つめた。纏いつく光の輝きが、掲げた手のひらから白く放たれる。


(なんじ)、リシルの名を受け、異形の者に命奪われし定め。もしくは、オーンの名を授かりて、ラスと対をなす、星に堕とす者となる」


 感情を乗せない声が、うわ言のように言葉を紡いでいった。泉に同じ文言(もんごん)が浮かび上がっては、繰り返し光の渦に消えていく。


「異形に命を……? イルムヒルデ様、この子は一体どうなると言うのですか?」


 青ざめた令嬢が、助けを求めるようにイルムヒルデの顔を見た。同様に色を失くしたイルムヒルデは、ただ首を振り返す。


「託宣は龍の意思……誰ひとりとして、授かった宿命から逃れることはできないわ」

「そんな……ではこの子が異形に殺されるのを黙って見ていろと言うのですか!?」

「許して、アニータ。わたくしにはどうすることもできないのよ」


 言葉を失った令嬢の腕の中、赤ん坊はうれしそうに手を伸ばした。(くう)を切った小さな手のひらの向こうで、光の文言(もんごん)が泉から溢れ続ける。


「リシルの定めを回避したくば、ラスの対となるオーンの宿命を行け……」


 ()うように両手を掲げ、クリスティーナは天井を仰いだ。子どもとは思えない重い声音が、なおもその口から紡がれる。


「時が満ち、ラスと出会うその日まで、リシルは神殿に足を踏み入れること(まか)り成らん。時が満ち、ラスと出会った(あかつき)に、オーンの定めと成り替わり、リシルは新たな道を行くであろう……」


 光の渦が広がって、目の前の何もかもを埋め尽くしていく。誰かに肩を揺さぶられ、クリスティーナは一瞬で正気を取り戻した。


「アルベルト……」

「クリスティーナ、もしかして夢見の力が?」

「いいえ、違うわ」


 眉間に指を当て、深く息を吐きだしていく。今視えたのは遠い過去の記憶だ。クリスティーナ自身、ずっと忘れ去っていたはずの。


「そんな記憶(もの)をわざわざ呼び起こすだなんて……。夢見の力が失われた今も、青龍はわたくしを使い走りにする気でいるようね」


 言いながら見据(みす)えた先の扉のドアベルが、がららんと耳障(みみざわ)りな音を立てた。突然飛び込んできた赤毛の令嬢を前に、アルベルトがクリスティーナを後ろ手に(かば)う。令嬢の肩にいた小さな異形が、アルベルトの刺すような視線から(のが)れるように、スカートの影にぴゅっと隠れた。


「大丈夫よ。あなたはきちんと顔を隠していなさい」


 アルベルトの前に出ると、クリスティーナはヴェール越しに令嬢に微笑みかけた。息を乱した令嬢は、驚いたように扉まで後退(あとずさ)る。


「ようこそ、宿世(すくせ)の占いへ」

「宿世の占い……?」

「ええ、ここは導かれた者のみが辿り着く占いの館。何を占いましょうか? 貴族のお嬢様」


 戸惑った顔の令嬢が背にした扉が、外から誰かに叩かれた。(おび)えたように振り返り、次いで令嬢はすがるようにクリスティーナを見た。


「あの、わたし知らないひとに追われてて……」

「その姿もそいつのせいで?」


 鋭く問うたアルベルトに、赤毛の令嬢は慌てて首を振った。


「いえ、これは木から降りたときに……」

「木から?」

「はい、どうしても逃げ出したくて」


 令嬢の返答に、クリスティーナは涼やかな笑い声を立てた。


「なんだかたのしそうね。わたくしもやってみればよかったわ」

「またそのようなことを……」


 アルベルトの呆れ声に重なって、再び扉が叩かれる。


「追い返しなさい」


 令嬢の手を引いて部屋の奥に導いた。かわりにアルベルトを扉へと向かわせる。

 衝立(ついたて)の陰に隠れて、クリスティーナは聞き耳を立てた。不安げな令嬢は、じっと息をひそめている。


「占いの館へようこそ、貴族の旦那様」

「う、占い!? あ、いやオレは客じゃなくてひとを探してて」


 ところどころ聞き取れないが、アルベルトが突拍子(とっぴょうし)もない話をしはじめる。続けられる受け答えが可笑(おか)しすぎて、クリスティーナは漏れそうになる笑いをなんとか押し殺した。死んだことにされた赤毛の令嬢は、どうにも複雑そうな顔をしている。


「ご用がなければお引き取りを」


 最後に低く言って、アルベルトは素早く扉を閉めた。鍵をかけ、クリスティーナの元に戻ってくる。


「馬鹿真面目なあなたにしては、なかなか上出来だったのではない?」

「気の()いた冗談を披露しろと言ったのはあなたでしょう? 自分で言っていて、笑いをこらえるのに苦労しましたよ」


 いつもの軽口の後、令嬢に視線を向けた。彼女の出で立ちは、見れば見るほどひどい有様に思えてくる。


「先ほどの男には、本当に何もされていないのね?」

「はい。あのひとはただのお節介……あ、いえ、親切なひとなだけだと思います」

「そう、ならいいわ」


 クリスティーナが頷くと、令嬢は深く頭を下げてきた。


「助けていただきありがとうございました」

「それであなたはどこに行くつもりなの?」

「え?」

「貴族街から出たいのでしょう? ついでだから行きたいところに連れていってあげるわ」

「本当に?」


 渋い顔で会話を聞いていたアルベルトから、クリスティーナはマントをはぎ取った。それを令嬢の肩に掛けると、フードを目深にかぶらせる。


「あなたは今からわたくしの付き人よ。誰にも顔を見られないように、ね?」


 素直にうなずいた令嬢を引き連れ、入り口のロータリーへと向かう。そのまま馬車に乗せ、貴族街の門を出た。

 しばらく王都の街並みを進むと、令嬢が早々に降ろしてほしいと言ってきた。


「本当にこんな場所でいいの?」

「はい、ここからなら辻馬車も拾えると思うので。このマントも、本当にありがとうございました」


 もう一度頭を下げると、令嬢は足早に馬車から離れていった。街並みに溶け込んで、その姿はすぐ見えなくなる。


「……行かせてよかったのですか? 彼女はルチア・ブルーメでしょう?」

「分かっているわ。すべては龍の思し召しよ」


 アルベルトの問いかけに、クリスティーナは静かに瞳を伏せた。


 龍の定めた結末だ。それを変えることは誰ひとりとしてできはしない。いずれ辿りつく未来を、例えすべて知っていたとしても。


「だとしたらそこまでは、せめて自分の足で歩みたいじゃない」


 かつてのクリスティーナがそうであったように――。



 自分たちに訪れた奇跡の光を、彼らもまた享受(きょうじゅ)できるようにと、今はただ祈るしかなかった。


     ◇

 フードを目深にかぶり、ルチアは雑踏(ざっとう)の中を歩いていた。下町の雰囲気にほっとする。ようやく帰ってこれた。そんな気分だ。


「よう、べっぴんさん。きれいなおべべ着てどこ行くんだい?」


 酔っぱらいに突然二の腕を掴まれた。もらったマントも(すそ)からはみ出しているスカートも、確かに平民にそぐわない上質なものだ。フードをめくられまじまじと顔を覗かれる。


「なんだ、あんた見事な赤毛だなぁ」

「ちょっとやめて!」


 周囲の注目を浴び、ルチアは男を振り切って駆けだした。


(辻馬車に乗る前にこの格好をなんとかしなくちゃ)


 服を買うにはお金がいるが、ルチアは銅貨一枚持ち合わせていなかった。ブルーメ家に行ってから、まったくお金を目にしていない。欲しいと思う前にすべてが与えられ、貨幣など生涯手にしない貴族も多いらしい。


(これを売るしかないわよね……)


 少し気が引けるが、ここまで来たらもう後には引けない。今日買ってもらったネックレスを、忍ばせてきたポケットの中でルチアはぎゅっと握り締めた。

 金貸しは街に一軒くらいはあるものだ。そういった店は物を買い取って金に換えてくれたりもする。大きな通りを歩いてみるが、なかなか目的の店は見つからない。


 新しい街に来たときは、母のアニサはちょっとした買い物をして、そこの店主からいろいろと情報を聞き出していた。だが買い物をするにも、今のルチアには金がない。堂々巡りにため息が出た。買う気もないのに邪魔だけすると、店の人間はいい顔をしないものだ。

 仕方なく、道行く人間を呼び止めようとした。だがルチアが声を掛けようとすると、よそ者を見る目つきで距離を取られてしまう。


「お嬢さん、お困りかい?」

「道に迷っているなら案内するぜ?」


 まずいと思ったときにはもう、ガラの悪そうな男たち数人に囲まれていた。関わると(ろく)なことがない部類の者たちだ。


「別に困ってないわ」

「まぁまぁ、そう言うなって。お嬢さんみたいな人間のひとり歩きは危険ってもんだ」

「迷子なら家まで送ってやるよ。何、父親からたんまり謝礼をもらうから遠慮はいらねぇ」

「大きなお世話よ、そこを通して!」

「もしかしてこいつ、家出してきたんじゃねぇのか?」


 顔を見合わせた男たちがにやにやと笑った。


「そいつは好都合だ。行くとこないんだろう? オレたちに任せりゃいいとこ連れて行ってやるぜ」

「ひひ、こんな上玉(じょうたま)、高く売れそうだ」

「馬鹿野郎、バラしてどうすんだ! お嬢さん、なんも怖いことねぇから安心してついてきな」


 手首をつかまれ無理やり連れていかれそうになる。不穏な空気を察知して、道行く者は全員そそくさと通り過ぎていった。


「離して!」

「いっ! このアマっ」


 不躾(ぶしつけ)な腕に噛みついて、ひるんだ隙に勢いよく駆け出した。


「おい、あっちだ!」


 執拗(しつよう)に追ってくる男たちを振り切るために、やみくもに住宅街の裏路地を走る。窓からのぞいていた住人は、関わりたくないとばかりにこぞって戸を締め切った。

 袋小路に来てしまい、ルチアは息も絶え絶えに身を縮みこまらせた。ごろつきどもの怒鳴り声は、少しずつこちらに近づいてくる。


(一体どうしたらいいの……!)


 もう走るのも限界だ。逃げ道を失って、絶望のあまり何も考えが浮かばない。


「そこのあんた、こっち来な! ほら、早くっ」


 近くの民家の扉から、若い女に手招きをされる。考えるよりも早く、ルチアはそこへと掛け込んだ。

 入るなり素早く扉が閉められる。女の横に大男が立っていて、ルチアは一瞬(おび)えた顔をした。


「大丈夫、心配いらないから。お前さん、あとは頼んだよ」

「おう、任せとけ」


 女に手を引かれ、部屋の奥へと連れていかれる。その瞬間、扉が乱暴に連打された。


「おい、ここに身なりのいい若い女が来ただろう」

「はぁ? 知らねぇな」

「隠すとためにならねぇぞ! 痛い目に合いたくなかったらさっさと女を出せ!」


 怒声が響き、ルチアはびくりと体を震わせた。そんなルチアの手を、女がやさしく握ってくる。女は妊娠しているのか、よく見るとお腹が少し膨らんでいた。このままでは関係のない若い夫婦に、迷惑をかけることになってしまう。


「あの、わたし出ていきます」

「しっ、黙って。いいからあのひとに任せときな」


 制されてルチアは口をつぐんだ。息をひそめ、女とともに扉の様子をうかがった。


「ひとんちでうるさく騒ぎやがって。こちとら熊と素手でやり合ったこともあんだ。痛い目見たいのはどうやらそっちのようだなぁ?」


 ぼきぼきと(こぶし)の鳴る音がする。ごろつきたちの(ひる)む様子が気配で分かった。


「きょ、今日のところは勘弁してやらぁ」

「へっ、おととい来やがれってんだ」


 逃げるように去って行く男たちに毒づくと、大男は扉を閉め素早く(かんぬき)を掛けた。


「あんた、怪我はないかい?」

「はい、助けてくれてありがとうございました……」


 危機が去った安堵から、半ば放心状態になる。ふと夕食のおいしそうな匂いが鼻をついて、はっと我に返った。早くしないと日が暮れて辻馬車がなくなってしまう。


「あのっ、服を! 服を交換してもらえませんか!?  これ、ちょっと汚れちゃってるけど、洗えば大丈夫だと思うから」

「服を?」


 突然の申し出に女は目を丸くした。


「わたし、行きたいところがあって、でもこの格好じゃ目立ってしまって……」

「それであの男たちに狙われたってわけか。あんた、いいとこのお嬢さんなんだろう? 家の人に迎えに来てもらった方がいいんじゃないのかい?」


 慌てて首を振る。連れ戻されたりしたら、きっとあの世界から二度と抜け出せなくなってしまう。


「……実はわたし、里親のところを飛び出してきちゃって」

「やっぱり家出か。そんなこったろうと思ったよ。逃げ出したくなるほど嫌な里親だったのかい?」

「いえ、すごく良くしてもらってたんですけど……あのままあそこにいたら、好きでもないひとと結婚させられそうで……」

「なんだいそりゃ。貴族でもあるまいし、ひどい話だねぇ」


 同情の瞳で女はルチアに服を用意してくれた。貴族街でもらったマントも上質すぎるので、薄いコートと交換してもらう。人目を引く赤毛を隠すためのスカーフも、女は快く譲ってくれた。


「行く前になんか食べてくかい? 大したもんは出せないけどさ」


 テーブルにはふたり分の食事が並んでいる。ブルーメ家で用意されるものよりも、ずっと粗末で質素なものだ。それでもあたたかな家族の食卓に思えて、胸の奥がぎゅっと痛んだ。


「……早くしないと辻馬車がなくなっちゃうから」

「そうかい。じゃあ、気をつけて」


 ふたりに見送られ玄関を出る。振り返り、ルチアは深々と頭を下げた。


「たくさんありがとうございました」

「ああ、本当に気をつけて。あたしたち、親の反対を押し切って一緒になったんだ。だから逃げ出したいあんたの気持ちもよく分かるよ」


 仲睦まじく並ぶ夫婦は、互いを見つめ微笑み合った。せり出したお腹に手を当てて、女は甘えるようにもたれかかる。大男はその肩を愛おしそうに抱き寄せた。


「がんばんな。あんたにもしあわせになれる場所がきっと見つかるよ」


 これから行く先に、本当にそんな場所などあるのだろうか? 明るい未来など描けなくて、上手く言葉を返せない。もう一度頭を下げてから、ルチアは裏路地を駆けだした。


 街の中心部に戻り、教えてもらった店でネックレスを現金に換えた。かなり足元を見られてしまったが、時間もなかったため諦めるより仕方がない。お金を手にできただけでも良しとしなければ。


 切り替えて辻馬車を探す。辻馬車は同じ方面に行く者が乗り合うため、安く移動できる平民の交通手段となっている。貴族のような立派な馬車ではなく、(ほろ)のついた荷台に人が乗り込むものだ。こんがり亭のある街に行く馬車はそれなりに数があるので、すぐにでも見つかるだろう。


(あ! あの男たち……)


 人波の中に先ほどのごろつきたちの姿を認め、ルチアは身を固くした。姿が違うので見つかることはないと思うが、慌てて反対方向へと足を向けた。

 気になって振り向くと、ごろつきのひとりと目が合ってしまう。その男は狙いを定めたハンターのような顔をした。ほかのごろつきたちも引き連れて、まっすぐルチアを目指し歩いてくる。


 常習的に若い女を狙っているのかもしれない。ルチアが駆け足になると、男たちも同じ速度で追ってきた。

 互いに声をかけ合って、男たちはルチアを追い込もうとしてくる。道行く人間は誰も助けようとしてくれない。前方に今まさに出発しそうな辻馬車が見え、ルチアはそこへ向かって全速力で駆け出した。


「待って! わたしも乗ります!」


 加速していく馬車に必死に追いすがる。中にいた男が、ルチアの腕をひっぱりあげてなんとか馬車へと乗せてくれた。


「あ、ありがとうございました」

「ああ、間に合ってよかったね」


 込み合った席を詰めてもらって、ルチアも座ることができた。ほっと息をつき周囲を見回す。乗り合わせた者たちはみな、疲れた顔をして黙りこくっていた。居心地悪くがたごとと揺れる馬車に、冷たい隙間風が吹き抜ける。


「今から家に帰るのかい? わたしたちは里帰り中でね」


 先ほど助けてくれた男に声を掛けられる。その横には、眠る子供を膝に乗せた女が寄り添って座っていた。


「いえ、わたしにはもう家族がいないから……」

「ああ、それは悪いことを聞いたね」


 バツが悪そうに男は、ぐっすりと眠る我が子に視線を落とした。


「もう、あなたったら。そうやって誰彼なく話しかけるから」

「まったくだ、これからは気をつけるよ。君も、本当にすまなかったね」

「わたし別に気にしてませんので」


 助けてもらった恩もある。それにルチアが天涯(てんがい)孤独(こどく)なのは、この男のせいという訳でもないだろう。ただ幸せそうな家族を目の前にすると、重苦しい苛立ちが抑えようなく腹の奥からこみ上げる。


(どうしてわたしには何もないの?)


 帰る家。一緒に食卓を囲む家族。やさしく抱きしめてくれるひと。

 誰もが当たり前のように持っている。無条件に安心して過ごせる、そんな居場所を。


「でも、だったら新しく作るしかないわね」

「作る? 何を?」


 ふいに女に言われ首を傾げた。


「新しい家族をよ。わたしもあなたと似たような立場だったから」

「新しい家族……」

「そうよ。わたしもいろいろあったけど、好きな人と結ばれて今はこうやって幸せになれたの。だからきっとあなたにもどこかでいい(ひと)が待ってると思うのよ」


 いい(ひと)と言われ、真っ先にカイの顔が浮かんだ。だがその考えはすぐに打ち消した。逃げ出してきた今、貴族の彼とどうこうなれるはずもない。


「あら、いやだ。わたしの方が余程お節介ね。余計なこと言って悪かったわ」

「いえ……」


 会話が途切れた馬車で、ルチアはまだ平民だった頃にこんがり亭で過ごした日々を思い出していた。ダンとフィンは本当に親切にしてくれて、あのふたりならルチアの家族になってくれるだろうか。


(駄目よ。わたしがいたら、きっとふたりに迷惑をかけてしまう……)


 ルチアを(かくま)っていることが分かったら、ブルーメ家から何か処罰を受けるかもしれない。今さらのように、こんがり亭に行くのもためらわれてしまった。


(そう言えば、この馬車でこんがり亭まで行けるのかしら……)


 闇雲に乗った馬車だったことを思い出す。


「あの、これはどこへ向かう馬車ですか?」

「なんだ、知らなくて乗ったのかい?」


 呆れつつも、男は行き先を教えてくれた。それはこんがり亭とはまったく別方向の街だった。


(どうしよう……)


 まもなく日が沈む頃合いだ。夜遅い辻馬車は数も少なく、旅の危険度も上がってくる。今夜のところはその街で宿を探すしかないだろう。


 降り立った街は思った以上に小さくて、宿屋は一軒も見つからなかった。かと言って雪が積もるこの季節に、野宿するのは自殺行為だ。

 途方に暮れていると、夕日に照らされる街並みにルチアはふと既視感を覚えた。


(ここ、この前カイと来た場所だ……)


 こんがり亭からの帰り道、この場所で辻馬車を降りてカイの別宅へ歩いて向かった。街の外れから一本道だったので、行き方はまだ頭に残っている。


 日が傾きかけた雪道を、ルチアは足早に進んだ。行くほどに、ふたりで歩いた日のことを思い出す。あの時ルチアは解放感から先へ先へと歩き、カイはのんびりと後ろをついてきた。同じ道なのに、今は不安で仕方がない。


(確かこの辺りで襲われたんだわ)


 森の中に入り、屈強(くっきょう)な男たちに囲まれた場所まで辿り着く。あの瞬間、自分から金色の火花が放たれて、吹き飛んだ男たちは雪の上を人形のように転がった。

 今、その名残(なごり)は何もない。新雪がきれいに降り積もっているだけだった。


「ベッティが言ってたように、ぜんぶ夢だったのかしら……」


 一緒にこの場にいたカイだけが、本当のことを知っているはずだ。襲ってきた男たちは幻だったのか。それと、カイがルチアに口づけたことも。


 甘い感触が蘇って、ルチアは無意識に唇を指でなぞった。自分の願望が、あんな夢を見させたのだろうか?


(今さらそんなこと考えて何になるっていうのよ!)


 すべてを振り払うように、ルチアは一本道を駆けだした。ほどなくして建物が見えてくる。家に明かりは灯っていなかった。

 ふいに庭の茂みで何かが動いた。驚いて歩みを止める。それは大きな犬のようで、すぐに茂みの奥に消えていった。


「あの、誰かいませんか?」


 本格的に日が沈んできて、暗がりの中で扉を叩いた。幾度かノックするものの、人が出てくる気配はない。カイはここを別宅だと言っていた。普段は使っていないのだから、誰もいなくて当然だ。


「はは、馬鹿みたい」


 もしかしたらカイに会えるかもしれない。そんな期待を抱いていた自分に気づく。


(カイがいたら連れ戻されるに決まってるじゃない。自分から逃げ出してきたくせに、何むちゃくちゃなこと思ってるのよ)


 辺りはすっかり暗くなり、来た道も目視(もくし)できなくなっている。おまけに雪がちらついてきて、今から街に戻るのも無理な状況だ。

 ルチアは寒さでぶるりと身を震わせた。走って汗をかいたので、急速に体が冷えてくる。このままここにいても凍え死ぬだけだ。


(どこか雪をしのげるところを探そう)


 軒先(のきさき)納屋(なや)のような場所がないか、ルチアは家の周りを見て回った。途中、窓から薄暗い部屋を覗くと、暖炉には小さく火種が灯っていた。強まった雪風が刺すように冷たくて、暖かそうな部屋の中が余計に恋しくなってくる。


「あっ!」


 目を凝らすと、暖炉の前に大きな犬が丸くなって眠っていた。先ほど庭で見かけた犬だ。家には誰もいなさそうなので、犬がひとりで出入りできる専用の扉があるのかもしれない。


 犬が消えていった雪の茂みを進み、暗がりで慎重に家の壁を探る。


(あった……!)


 庭木に隠れた低い位置に、中へと続く通路を見つけた。()つん()いになってそこを進む。胸とおしりがつっかえつつも、ルチアはなんとか家の中に入ることができた。ようやく安心できるところに辿り着き、その場にぺたりと座り込んだ。


 ほっとするのも束の間、低いうなり声が響いた。はっと顔を上げると、先ほどの犬が鼻先にしわを寄せすぐそこに立っている。

 近くで見ると思った以上に大きくて骨太(ほねぶと)な犬だ。長い耳に短い足、垂れ下がった(まぶた)愛嬌(あいきょう)があると言えなくもないが、今はものすごく怖い顔になっていた。


「わ、わたし、怪しい者じゃないわ」


 犬相手に言って通じるはずもない。(うな)られ続け、対峙(たいじ)しながら後退(あとずさ)っていく。下がった分だけ犬も歩を進めてきて、ルチアは壁際に追い詰められてしまった。


 吠え声とともに犬が大きく飛びかかってくる。とっさに()けて、暗い家の中を逃げ回った。あちこち物にぶつかりながら、追われるまま、先にあった階段を駆け上がる。

 見つけたドアを開け、入りこめないようにと素早く閉めた。しばらくカリカリとドアをひっかいていたが、くうぅんとひと鳴きするとようやく犬は静かになった。


「た、助かった……」


 気が緩むのと同時に、どっと疲れが押し寄せる。決死の脱出から始まって、一日で何度も追いかけ回された。乗り心地の悪い辻馬車のせいもあって、足からおしりから体中が悲鳴を上げている。


 薄暗い中を手探りで進み、テーブルにあった小さなランプに火を灯す。明るくなった部屋を見回すと、散らかり放題の有様だった。床の至るところには本が乱雑に積まれ、テーブルの上も読みかけの本や書類で埋め尽くされている。


「美味しい紅茶の淹れ方……?」


 そのうちのひとつをぺらぺらと(めく)る。走り書きがたくさんしてあって、この本の持ち主は随分と勉強熱心のようだ。

 濡れたコートを脱ぎ、一脚だけあった椅子の背もたれに掛けた。赤毛を隠していたスカーフをはぎ取ると、ようやくの思いで腰かける。


「やだ、あなた、またそんなところにいたの?」


 おしりの下から這い出てきた小鬼は、ぴょこんと机に上に飛び乗って、うれしそうに何度か頷き返した。

 そのとき、ぎゅるるとルチアのお腹が派手に音を立てた。普段なら、今頃は目の前にご馳走が並べられている時間帯だ。


「途中で何か買っておけばよかった」


 予定ではとっくにこんがり亭に辿り着いているはずだった。再び腹の虫が鳴り、衝動的に飛び出してきたことを、今さらながら後悔し始める。


(何、弱気なこと言っているのよ。もうあそこに戻るなんてできないんだから)


 不満を訴える腹に手を当て、空腹をごまかすように何度かさする。夕暮れ時の下町では、夕食の支度のにおいがあちこちから漂ってきていた。母アニサとの食事風景が思い出され、ルチアは唇をぎゅっと噛みしめた。


 ブルーメ家での食事はとても寂しかった。子爵との席は遠く、交わす会話などひとつもない。どんなに贅沢な食べ物が並べられていても、アニサと囲んだ温かな食卓とは比べ物になるはずもなかった。


「そうか……わたし、貴族が嫌なわけじゃなかったんだ……」


 きっと自分は寂しかったのだ。ブルーメ家では誰も“ルチア”を見てくれなかった。子爵家の令嬢として、事務的に接してくる使用人たち。義父となったブルーメ子爵にしても、イグナーツからの援助のために、ルチアを受け入れただけの話だろう。

 ただ欲しかっただけなのだ。下町で会った者たちのように、慈しみ合える居心地の良い居場所が。本当のルチアを見てくれる誰かが。

 その考えに至り、すとんとルチアの中で()に落ちた。


 失ったのなら新しく作ればいい。辻馬車で言われた言葉を思い返す。他人の持つものを(うらや)むばかりで、そんなことは思いつきもしなかった。


「頑張れば、あそこでも新しく作れたのかな……」


 扱いに戸惑いながらも、それでもブルーメ子爵はやさしく接してくれた。そう思うと、安易に贅沢な生活を手放したことが、なんだか急に馬鹿らしくなってきてしまった。

 今さら悔やんでも後戻りはできない。それは分かっているのに、疲れと空腹が相まって、負の感情がとめどなく押し寄せる。



「はぁ……わたし、ほんと何やってるんだろう……」


 テーブルにつっぷして、ルチアは今一度、大きくため息をついた。


     ◇

「今回の失態はぜんぶ油断したわたしの責任ですぅ。ほんとうにすみませんでしたぁ」

「はは、ベッティを出し抜くなんて、ルチアもなかなかやるね」

「笑いごとではありませんよぅ」


 ベッティの手には、ルチアが身に着けていた服と貴族街で買ったというネックレスが握られている。どうやって貴族街から出ていったのか、ルチアの辿(たど)った痕跡(こんせき)は驚くことに下町で見つかった。証拠の品を買い戻すのに、さすがのベッティも難儀したようだ。


「民家で服を交換してからネックレスを売ってお金に換えたようですぅ。気になったのはこの黒いマントなんですがぁ、こちらはルチア様のものではないんですよねぇ。恐らくルチア様を貴族街から連れ出した人物の所持品ではないかと思われますぅ」

「ふぅん? 貸してみて」


 手に取るまでもなく上質な仕立てのマントだ。裏地を隈なく探り、さりげなく施された刺繍に目を止める。


「これは……」


 この刺繍は、どう見ても王家の者が着る衣装にのみ施される文様だ。手引きをしたものが王族の誰かならば、ルチアが何者なのか確実に知っていたはずだ。あまり執拗に詮索すると、(やぶ)(つつ)いて蛇が出る可能性もある。


「この件は後回しでいいや。で、ルチアの足取りはどこまで確認取れてるの?」

「辻馬車に乗ったのは確実なんですがぁ、肝心の行き先がまだつかめていない状況でしてぇ」

「そっか。ルチアが行きそうなところと言ったら、まずはこんがり亭かな? ひとまずベッティはそっちを確認してきて。オレはちょっと別件で用事があるから、それが済んだらまた合流する」

「承知いたしましたぁ」


 落ち込んだ様子のベッティの頭を、いい子いい子と何度か撫でる。


「ほかの人間も動かしてるし、すぐに見つかるよ」

「カイ坊ちゃまはルチア様が心配じゃないんですかぁ?」

「うん、まぁ、何かあってもルチアが選んだ道でしょ」


 授かった託宣を果たすまで、ルチアが死ぬような目に合うことはない。もしも飛び出した先で異形に殺されたとしたら、それは龍の導きでしかないのだろう。


「フーゲンベルク家への対応はどういたしましょうかぁ? 今日のところはルチア様の気分が悪くなったからと先に帰ってもらったのですがぁ……」

「ジークヴァルト様にはうまいこと言っといたから。ベッティはまず今できることをして」


 ベッティと別れ、カイは馬を駆り隠れ家へと向かった。現在捜査を進めている件で、読み返したい資料がいくつかあった。

 自分の対となる託宣に関しては、手掛かりすらなくここのところ空振り続きだ。貴族の中で龍のあざを持つ者が新たに見つからない以上、市井(しせい)から探し出すしか道はない。

 ハインリヒの時でさえ、見つけられたのはルチアひとりだ。途方もない話だが、どれだけの労力と時間がかかろうとも、絶対に探しあてるつもりでいるカイだ。


(対の相手だと気づかないまま、星に堕とされるのだけは勘弁だしな)


 カイが託宣を果たして禁忌(きんき)の異形になるためには、誰かの託宣を(はば)む必要がある。その誰かこそ、今探しているオーンの名を受けた者だ。

 それと知らずにうっかり託宣を阻んで、うっかり星に堕ちるなど、情けなさすぎて泣くに泣けない。

 自分の意思をもって託宣を阻み、自分の意思をもって星に堕ちる。そのくらいの気概(きがい)がなければ、死んでも死にきれないと言うものだろう。


 現時点で分かっているのは、ルチアが生まれた年にオーンの託宣が降りたという事だけだ。すなわち目的の人物は、ルチアと同い歳だと言えた。今のところ、その年齢の平民をしらみ潰しに探すしか手立てがない。もっと効率よくするためにも新たな手掛かりが必要だった。


(せっかくなら美人でグラマーな()だといいんだけど)


 対の相手と言えど婚姻の託宣という訳ではないので、龍のあざを持つ者は男である可能性もあった。どうせ命を懸けるなら、野郎より美人のためにの方がいいに決まっている。


 もうひとつ、カイの頭を離れないでいる言葉があった。それは対の託宣を受けた者同士が肌を合わせると、ものすごく気持ちがいいのだと、イグナーツが以前言っていたことだ。

 それに、託宣の相手同士が互いの龍のあざに触れると、どうやら体が熱くなるらしい。


 カイのあざは内ももに刻まれている。ここに触れる誰かと出会える日は、あとどれだけ待てば来るのだろうか。


(見つけたのが女だったら、一度お相手してもらわない手はないよな)


 その気持ちよさがどれほどのものなのか、実に気になるところだ。ずっとそれを確かめたくて、むしろそちらが目的となっている(ふし)のあるカイだった。


 隠れ家に行く前に、諜報活動を引退した老夫婦の住まいに立ち寄った。この夫婦には家の管理とリープリングの世話を任せてある。そこで馬を預けると、カイは歩いて隠れ家へと向かった。

 敷地に入る手前でふと足を止める。続く一本道に、何者かの足跡が残されていた。


「誰かが訪ねてきたのか……?」


 降る雪でうっすらとしか確認できないが、大きさからすると子供か小柄な女のつけたもののようだ。戻ってきた痕跡はないので、まだ近くにいる可能性もある。この家の存在を知っている者はそう多くない。念のため、用心しながら進んでいった。


 建物の周囲にも足跡がつけられていたが、人がいる様子はなかった。見上げた二階の窓に、ほのかな明かりが揺れている。眉をひそめ、音を立てないよう慎重に扉を開いた。


 いつもなら、間髪(かんぱつ)おかずに飛びついてくるリープリングが出てこない。気配を探ると、階段上にいるのが分かった。

 普段二階には行かないようにと、リープリングには教え込んである。荒れた室内を見回してから、カイは気配を殺して階段を昇っていった。

 資料置き場として使っている部屋のドアの前で、リープリングはじっと伏せていた。カイの顔を見るなり、うれしそうに尾を振ってくる。


「しっ」


 騒がないようにおとなしくさせ、リープリングの頭を撫でた。曲者(くせもの)を追い込んで、逃げないようにと見張っていたのだろう。


「大手柄だね。このままここでじっとしてて」


 小声で言ってから、ドアの向こうの気配を探る。中にいる人間はひとりのようで、その覚えのある気配にカイは思わず目を丸くした。


「……リープリング。こんな時間に悪いけど、これ届けてきてくれる?」


 漏れそうになる笑いをこらえながら、(ふところ)から取り出した紙にペンをすべらせる。それをリープリングの首輪に仕込み、老夫婦の元に向かわせた。

 書いた内容は、ルチアを探し回っている者たちに、彼女が見つかったと知らせて欲しいと言うものだ。ベッティには隠れ家に来るようにとも書き添えた。


 ドアを開け、そうっと中に忍び込む。ルチアはテーブルにつっぷして眠っていた。そばにいた小さな異形が、近づくカイを威嚇(いかく)してくる。それを琥珀の火花で軽く弾くと、積み上がった本の影に隠れ、小鬼はぴるぴると震え出した。


 くーくーと寝息を立てる横顔を覗き込む。揺れるランプの炎に照らされて、ルチアの赤毛はいっそう鮮やかな光沢を放っていた。

 背後から囲うようにテーブルに手をつくと、カイはその耳元に唇を近づけた。


「ねぇ、ルチア。こんなところで何してるの?」

「ふぇっ」


 びくっと顔を上げたルチアが反射的に振り返った。触れそうな距離で、金と琥珀の瞳が見つめ合う。


「へ、あ、カイ、なんでここに……」

「なんでって、ここオレん()だし。それはこっちの台詞でしょ?」

「う、あ、それは」

「それは?」


 さらに顔を近づけると、閉じ込められた腕の間でルチアは小さく縮こまった。あうあうと言葉が出ないでいる様子をおもしろく観察していると、ルチアのお腹がぎゅうぎゅるぎゅるぅと盛大な音を立てた。


「ち、違うのこれはっ」

「はは、ほんと無計画に飛び出してきたんだ」


 図星を刺されたルチアが口をつぐむ。その唇に赤みがないのに気がついて、カイはルチアから体を離した。


「とりあえず、下に行こうか。ここじゃ寒いでしょ」

「でも犬が……」

「リープリングなら今はいないよ。さっきお使いに出したから」


 暖炉の火を大きくして、カイはルチアのために紅茶を淹れた。保存のきく焼き菓子とともに、テーブルの上にサーブする。


「こんなものしかないけど、どうぞ、召し上がれ?」


 頷くとルチアは素直に手を伸ばした。よほど寒かったのか、まずは紅茶に口をつける。


「あったかい……」


 ほっと息をつき、もくもくと菓子を頬張っていく。かと思うと手を止めて、向かいに座るカイの顔を居心地悪そうに見上げてきた。


「なに?」

「そうやってじっと見られてると食べづらいんだけど」

「いや、さっきまで顔色が悪かったからさ。でもひと心地ついたみたいで安心したよ」


 裏心なく笑顔で言うと、唇を噛みしめルチアは小さく俯いた。


「……迷惑かけてごめんなさい」

「そんなに今の生活嫌だった?」


 本格的に逃げ出したくなるほど思い詰めていたとは、カイにも思いもよらないことだった。ルチアがブルーメ家の養子となったのは、元はと言えばカイがハインリヒにそう上申(じょうしん)したからだ。あのときなぜそんなことを思ったのか、振り返ってみて自分でも不思議に思えた。

 ルチアが託宣を持つ者だと分かった時、ディートリヒ王はルチアを王族として迎え入れようとしなかった。そんな見放されたルチアに、(あわ)れみを感じたのかもしれない。彼女の理不尽(りふじん)な運命を知る者のひとりとして、せめて()(すえ)を見守ってやりたいと。


所詮(しょせん)、同病(あい)憐れむってやつだな)


 ともあれ、ルチアを貴族にしたのは自分の責任だ。ここは何とかしてやるべきだろうか。しかし王族の血を引く彼女を、手に届かない場所に置くのもまずいだろう。少なくともハインリヒはいい顔をしないと判断し、どうしたものかと思案した。


「ブルーメ家がどうしてもいやだって言うなら、オレがイグナーツ様に頼んであげてもいいけど」

「本当に?」


 こんがり亭あたりで面倒を見させれば、監視下に置くことはできるはずだ。下町に潜入する配下の者を増やすことで、ルチアの身の安全も確保されるに違いない。


 そこまで考えを巡らせて、カイは内心苦笑した。この少女に対して、なぜ自分はここまでのことをしようとするのか。

 元々ルチアを任されたのはイグナーツだ。ラウエンシュタイン家に王の勅命書一枚持って行けば、彼がいなくとも(しか)るべき対処を取ってくれるだろうに。


「いたっ」


 顔をしかめ、ルチアは無意識にさすっていた足から手を離した。確かめるようにスカートの位置をずらし、布を落とすと同時に再び顔を(ゆが)ませる。


「怪我してるの? 見せてみて」

「だ、大丈夫。ちょっと擦りむいただけだから」

「駄目だよ。化膿(かのう)でもしたらあとが大変だ」


 膝をつき足を手に取ろうとすると、ルチアは慌てて立ち上がった。


「大丈夫だってば」


 逃げるルチアを暖炉の前で捕まえる。膝裏を(すく)い上げると、有無を言わさず毛足の長い絨毯(じゅうたん)の上に足を延ばして座らせた。


「傷を見るだけだから」

「あ、ちょっと!」


 痛がっていた足を掴み、膝下までスカートをまくり上げる。(すね)にできた痛々しい擦り傷を見つけ、カイは懐からハンカチを取り出した。


「とりあえず応急処置しとくけど、あとできちんと診てもらおう」

「そんな大げさにしなくっても……」

「悪いと思ってるなら、ひとの言うことちゃんと聞こうか?」


 語調を強め、ひとの悪い笑みを向ける。言葉に詰まったルチアは、諦めたのかおとなしく足を預けてきた。


「ところでさ。ルチアはどうやってこの家に入ったの?」


 丹念に汚れを(ぬぐ)いながら問いかける。できるだけ痛くないように処置はしているが、会話していた方がルチアも気が紛れるだろう。


「それは、その……探してたら壁の下に通路があったから……」

「リープリング用のあれを通ったの? はは、よくおしりがつっかえなかったね」

「そっ、そんなに大きくないもの!」


 ハンカチを巻き付けたところで、頬を膨らませたルチアが手を振り上げてきた。届かないようにと、笑いながら掴んだ足を持ち上げる。バランスを崩したルチアは、そのまま見事に後ろに倒れ込んだ。


「きゃあっ」


 下着が見えそうな勢いに、やりすぎたと咄嗟(とっさ)に手を離す。スカートがずり下がった内ももに、丸い文様(もんよう)のようなあざが見えた。

 その瞬間、カイのすべての思考が停止する。


 体を起こし、真っ赤になったルチアが素早く足を隠した。スカートの(すそ)を握りしめ、羞恥で潤んだ瞳を向けてくる。

 表情なく、カイは再びルチアの足を掴んだ。無遠慮にスカートをまくり上げ、もう一度あざを確かめる。


「ちょ、ちょっと、なに、やめてよカイ」

「はは、ははは……!」


 ルチアの抵抗を無視し、内ももの肌を凝視する。そこにある龍のあざは、見紛(みまご)うことなく自分のものと鏡写しを形どっていた。

 これこそがずっとずっと探し求めていた、ラスの対となるオーンの託宣を受けた者の(あかし)だ。


「カイ……? ねぇ、手、離して?」


 様子のおかしいカイに、困惑を通り越してルチアは不安げな表情をした。歓喜の瞳で身を乗り出し、ルチアにぐいと顔を近づける。


「ルチア! 気持ちいいことしよう!」

「え、なに言っ」


 続く言葉を飲み込むように、カイはルチアの唇を塞いだ。勢いで絨毯(じゅうたん)の上に組み伏せる。驚きで押し返そうとする手のひらも、あざを撫でるとあっさり力を失った。

 燃え盛る暖炉の炎に照らし出されながら、(たく)みに動くカイの手が、抵抗も許さずルチアの肌に這わされる。


「あっや、カイ、やめ」

「大丈夫、怖くないよ」


 ルチアが(おび)えるたびに、太もものあざに触れた。同時にカイの持つあざも、耐えがたいほどの熱を持つ。


(くそっ、なんだよこれ、気持ちよすぎる……!)


 軽く触れただけなのに、想像以上の快楽を感じた。

 ルチアからも甘い吐息が漏れて出る。その瞳の奥に(ひそ)む輝きは、恍惚(こうこつ)と言うにふさわしい。


 数えきれない女性たちと関係を持ってきたカイだ。手慣れたはずの行為に、どうしようもなく気が()いた。

 これまでの相手は経験豊富な夫人ばかりだ。初めてのルチアに手心を加えなくてはと思うのに、抑えようのない衝動が支配する。


 互いの感覚を分け合っていることを、カイは頭の(すみ)で理解した。それもほんの一瞬のこと、まるで制御が()かないまま、快感と愉悦(ゆえつ)で何もかもが埋め尽くされていく。



 あり得ないほどの至福に包まれながら、飽くことなくカイはルチアを好きに翻弄し続けた。


【次回予告】

 はーい、わたしリーゼロッテ。隠れ家で目にした光景に、言葉を失ってしまうベッティ。ブルーメ家のタウンハウスに戻されたルチア様は、カイ様の言葉を信じて待つしかできなくて……?

 次回、6章第17話「甘やかな沈黙」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!

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