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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣

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第15話 危うげな心

【前回のあらすじ】

 王女の代わりとして、夢見の神事に向かったマルコ。何事もなく(つか)かれた泉に安堵した矢先に、意識を失ってしまいます。直後、マルコの別人格の少女モモが表に現れて。

 一方、桃色の茶会に招かれたリーゼロッテは、ジークヴァルトとともにティール公爵家へ。その席で貞子紳士を見かけるも、生霊貞子の姿が消えていることに驚きます。代わりに紳士に纏わりつく黒髪の異形の女性。それが貞子であり、亡くなった紳士の妻だと知ったリーゼロッテは、彼女を天に還すため紳士とダンスを踊ることに。

 最後の願いを叶えてあげたくて、異形の彼女に体を貸すリーゼロッテ。それがジークヴァルトの逆鱗に触れ、帰りの馬車で気まずい雰囲気になってしまいます。

 しかしジークヴァルトの本心を知り、自分の軽率な行動を後悔したリーゼロッテは、求められるまま揺れる馬車の中でジークヴァルトと深く口づけるのでした。

 まるでコソ泥でも働きに来たかのように、ベッティはフーゲンベルク家の敷居をそろりとまたいだ。俯き加減で目線を下げつつ、先を行くルチアに付き従う。


 ブルーメ子爵家での侍女の任務は続行中だ。今回の公爵家訪問は、年明けまでの長期滞在が目的となっている。その間どうやって無事安全に乗り切るべきか。ルチアのお目付け役よりも、むしろそっちの方がベッティにとっては死活問題となっていた。


 出迎えが家令のマテアスひとりなのを確認し、広いエントランスで内心安堵(あんど)の息をつく。ルチアの背後に静かに控え、存在感のない侍女を徹底的に装った。


「ルチア・ブルーメ子爵令嬢様、ようこそおいでくださいました」

「……また、お世話になります」

「長旅でお疲れのことでしょう。早速お部屋にご案内いたします」


 マテアスの先導で迷路のような廊下を進む。案内などなくとも、屋敷の間取りはすべて記憶しているベッティだ。しかし気づかれなかったのをいいことに、黙ってあとをついていった。


「のちほどリーゼロッテ奥様の元へお連れ致します。あいにく(あるじ)は執務が立て込んでおりまして。時間が取れ次第、後日挨拶していただくことになると思いますので、どうぞご承知おきください」


 そのまま一生、書類の山に(うず)もれていてくれ。ベッティはひとりほくそ笑む。


「こちらのお部屋でございます。前回よりも広めの客間をご用意させていただきました。ルチア様が退屈なさらないようにとの奥様のお計らいですので、どうぞごゆるりとお(くつろ)ぎください」


 扉を開け、マテアスが振り返った。


「中で侍女長が待っております。必要なことがございましたら、何なりと彼女にお申し付けください。……おや? お付きの侍女はベッティさん、あなたでしたか。わたしとしたことが、すぐに気づかずに失礼しました」

「い、いぃえぇ。わたしなどルチア様を陰でお支えする一介の侍女、いっそ存在ごと忘れてもらって結構ですぅ」


 そのまま気づかずにいればいいものを。舌打ちをこらえつつ、愛想笑いをふりまいた。自分がここに来たことを、マテアスがわざわざ公爵に告げることはないはずだ。そうは思うものの、万が一があっては厄介だ。


 いつジークヴァルトと顔を合わせることになるのかと、戦々恐々としてしまう。

 何しろあの日、雪積もる神殿の森で、ベッティはリーゼロッテの長い髪を切り落としてしまった。いくら彼女を逃がすためとはいえ、容赦なくバッサリいったのは少々やりすぎだったかもしれない。


(あれだけ見事な髪を切られて、さすがのリーゼロッテ様も怒ってるかもですよねぇ)


 彼女のことだ。あからさまには態度に出したりはしないだろう。しかし一緒に逃げると嘘をつき、馬に乗せて暗闇の中をいきなり放りだしたのだ。恨み言のひとつやふたつ腹の中で抱えていても、何の不思議もない話だった。


(それよりも公爵様ですぅ)


 髪とは言え、大事なリーゼロッテを傷つけられたのだ。どんな報復が待っているのか、想像するだに恐ろしすぎる。


 龍が目隠しをしてくるせいで、黒幕神官レミュリオの名は誰にも告げられないでいる。なぜあの時リーゼロッテの髪が必要だったのか。明確に理由を説明できない現状で、公爵の怒りの矛先(ほこさき)がこちらに向いたとしたら。


 考えただけでも身震いが起こる。リーゼロッテのためとあらば、ベッティを人知れず闇に葬るくらい平然とやってのけるに違いない。


「ルチア様、お待ちしておりました」


 客間に入ると奥からエラが現れた。ゆったりとした服装で、お腹が少しせり出して見える。


「ではエラ、あとは頼みます」

「はい、マテアス。お任せください」


 エラと微笑み合うと、マテアスは出ていった。ベッティが得た情報では、貴族籍を抜けたエラを速攻でマテアスがゲットしたらしい。


 エラ争奪杯の頂点に輝くのは、マテアス以外いないだろう。初めからそう踏んでいたベッティは、エラを落とすのは誰だという賭けで、穴馬のマテアスに一点張りをしていた。一番人気はエーミールだったため、おかげで大儲けできてほくほく顔のベッティだ。


 出迎えたエラに、ルチアは小さく頭を下げた。


「すみません、またお世話になりに来ました」

「謝る必要などございませんよ。冬の間お話し相手ができたと、リーゼロッテ奥様もおよろこびになられていますから」


 今回ルチアは年をまたいで公爵家に滞在予定だ。

 国の最北に位置するブルーメ子爵家は、真冬になると積雪の多さで領地から出ることに難儀する。王家主催の新年を祝う夜会に招待されているため、ルチアだけは王都にとどまることになった。

 だがタウンハウスにひとり置くのも心配だという事で、フーゲンベルク家で面倒を見る手はずとなったというのが事の次第だ。


「そう言えば侍女長って、確かロミルダって人じゃなかったでしたっけ? エラ様がなったんですか?」

「リーゼロッテ様がフーゲンベルク家に嫁がれたのを機に、侍女長はわたしが引き継ぎました。それにルチア様、わたしは貴族籍を抜け平民となった身です。今後はどうぞエラと呼び捨てになさってください」

「えっ、貴族ってやめられるんですか!?」

「父が王に爵位を返上したのです。一代限りの男爵位でしたし、もともと父が他界すれば平民に戻る運命でした。わたしの場合、平民に戻る時期が早まっただけと言えます。子爵家のご令嬢であるルチア様は、貴族から平民になるのは難しいでしょう」

「そう、ですか……」


 先回りするようにエラにくぎを刺され、ルチアは残念そうに俯いた。察するに、ルチアが王族の血を引くことを、エラも承知していそうだ。いずれルチア自身も誰からか知らされるだろうに、なぜかカイはそれを告げる気はないようにベッティには思えた。


「のちほど奥様の元へお連れいたします。それまではごゆっくりなさってください。ベッティも何かあったら遠慮せずに言ってくださいね」

「あのぅ……」


 ためらいがちに声をかけると、出ていこうとしていたエラが笑顔で振り返った。この様子なら、髪を切った犯人がベッティであることを、リーゼロッテはエラに告げ口してはいないのだろう。

 もし真実を知っていたら、リーゼロッテ命のエラが黙っているはずはない。侍女長となった彼女までもが敵に回ってしまったら、公爵から逃げ切ることは如何(いか)にベッティでも難しくなる。

 胸の内でリーゼロッテに感謝しながら、エラに包みを差し出した。


「ちょっと遅れちゃいましたがぁ、ご結婚のお祝いですぅ」

「まぁ、ありがとう、うれしいわ」


 中にはエラに似合いそうな髪留めが入っている。仕事中でも使えるようにと華やか過ぎない実用的なものを選んだ。結構いい値段がしたが、賭けで得た儲けを考えるとむしろ安すぎる買い物だ。


「でもこれからはあまり気を遣わなくて大丈夫だから」


 すまなそうにエラは受け取った。他家に世話になる場合、待遇を良くしてもらうために、使用人に対して賄賂(わいろ)を贈るのが当たり前になっている貴族社会だ。


「わたしはマテアスさんとのご結婚をぉ、心より祝福したいだけですのでぇ。超・絶っ! おめでとうございますぅっ!」

「そ、そう? それはありがとう」


 戸惑い気味のエラの両手を取って、嘘偽りない祝辞を贈る。エラ争奪杯でひと財産築けたのは、マテアスが頑張ったと言うよりも、数いる候補の中からエラがマテアスを選んでくれたからだ。もう足を向けて眠るなど一生できない。エラ様様なベッティだった。


「さぁてぇ、ルチア様、今お紅茶()れますねぇ」


 エラが出ていって、手持ち無沙汰にしているルチアをソファに座らせた。


「ねぇ、たまにはわたしが淹れるわ」

「ルチア様がお淹れになるとぉ、超絶渋くなるのでご遠慮くださいましぃ。こんな高級なお茶葉(ちゃっぱ)を台無しになさるおつもりですかぁ?」

「だったらわたし、荷解(にほど)きを……」

「そちらはわたしがすべていたしますぅ。ルチア様は移動でお疲れなんですからぁ、どうぞゆっくりしていてくださいませねぇ」

「そんなに疲れてないから大丈夫よ」

「でしたら刺繍(ししゅう)などなさってはいかがでしょうかぁ? ブルーメ家のお屋敷から一式持ってきておりますよぅ」

「わたしが刺繍苦手なの、あなたも知ってるでしょう? ほかにないの? 床掃除でも窓拭きでも何でもいいわ」

「ルチア様にそんなことをさせたらわたしが叱られますぅ。(じき)にリーゼロッテ様に呼ばれますからぁ、今日のところは令嬢らしくおとなしく座っててくださいませぇ」

「そんなこと言ったって、結局は明日も明後日も何もやらせてくれないじゃない! 何度も言ってるけど、わたし令嬢なんかじゃないわ! 退屈すぎてもううんざりなの!」


 苛立ちをぶつけられ、ベッティはふむと思案顔をした。猫をかぶらなくなってきたのは、ルチアが心を開きはじめている証拠だろう。


「リーゼロッテ様がぁ市井(しせい)で流行りのご本などもたくさん用意してくださったみたいですよぅ。このお部屋はお庭の眺めもいいようですしぃ、小さいですが日当たりのいいサロンもついてますぅ。ブルーメ家のお部屋のようにぃ、窓際でお花を育てるのもいいかもですねぇ」


 令嬢がたしなめる範囲のことを並べ立てるが、ルチアは不満そうに口を引き結んだ。生まれたときからこの生活ならば疑問のひとつも持たないだろうが、市井育ちのルチアは制限だらけの毎日に鬱憤(うっぷん)が爆発寸前となっている。


「ねぇ……本当に貴族ってやめられないの?」

「そうですねぇ。ぶっちゃけ方法はなくもないですがぁ、きっとルチア様には無理ですよぅ」

「なんでよ。方法があるならちゃんと教えて」

「いちばん手っ取り早いのはぁ平民と結婚することですねぇ。そうすれば嫌でも貴族の籍から外されますからぁ」

「平民と結婚……」


 考え込むようにルチアは押し黙った。時に貧乏貴族が、商家のような資金繰りのいい庶民と縁を結ぶこともある。だがそんな円満結婚は(まれ)な事例で、ほとんどが駆け落ち・勘当の波乱コースだ。


(あんまり悪知恵を吹き込むのはマズいかもですねぇ)


 あとでカイに叱られそうだ。この冬の間に贅沢三昧させて、貴族万歳な意識改革を徹底的に施すべきだろうか。


「ですがルチア様は旦那様が決めたお相手とぉ、ご結婚なさることになるでしょうねぇ。いいじゃないですかぁ。貴族でいれば食いっぱぐれることもないですしぃ、一生楽して暮らせますよぅ」


 なぜそこまで頑なに貴族の立場を嫌がるのか理解ができない。父親があの異様なデルプフェルト侯爵でなかったら、ベッティも今ごろ貴族令嬢の立場を満喫していたに違いない。


 はっとしてベッティは廊下に出る扉を見やった。遠く耳をそばだてる。異変を感じたルチアが、つられるように身を固くした。


「何? 急にどうしたの?」

「誰かがこちらにやってくるようですねぇ。ちょっと慌ててる感じの足音がしますぅ」

「え? 別に何も聞こえないわ」


 同じように聞き耳を立てるも、ルチアは(いぶか)しげな顔となる。しかしそこはそれ、ベッティは凄腕諜報員。耳の良さはいつもカイに褒められるし、見知った人間の足音を聞き分けるなど朝飯前だ。


(あの歩き方は……)


 慌てていてもとても優美な足取りだ。常人の耳では、無音で歩いているように感じるだろう。


(みずか)らこっちに出向くってことはぁ、やっぱり相当怒ってるってことですよねぇ)


 さすがの彼女も怒り心頭のようだ。処罰のひとつくらいは覚悟して、ノックをされる前に扉を開き、ベッティは訪問者を迎え入れた。


「リーゼロッテ様ぁ、わざわざこちらにご足労いただくなんてぇ、超絶お急ぎのご用事ですかぁ?」

「ベッティ!」


 体当たりの勢いで、リーゼロッテはベッティに抱きついてきた。一瞬殴られるのかとも思ったが、このしがみつきようはまるで戦場から帰還した恋人を迎える抱擁(ほうよう)だ。


「ベッティ、ベッティ、ベッティ、ベッティ……!」

「はいはい、わたしはベッティですよぅ。いったい全体どうなさったんですかぁ?」


 両肩に手を添えて、困惑しながら顔を覗き込んだ。目を真っ赤にしたリーゼロッテは、ぼろぼろと大粒の涙を(こぼ)している。


「怪我はもういいの? どこか痛むところはない? あの日ベッティが大怪我を負ったって、わたくし後からそう教えられて」


 しゃくりあげながら、リーゼロッテはベッティの頬に手を添えた。あたたかい癒しの力が、ふわりとベッティを包み込む。


「もうどこも痛くない? カイ様は大丈夫っておっしゃっていたけど、お願いよ、隠さないで本当のことをちゃんと教えて?」


 ベッティはポカンとなって、唇を震わせ懇願してくるリーゼロッテとしばし見つめ合った。吸い込まれそうな緑の瞳を凝視したまま、次第に笑いがこみ上げてくる。


「く、くふふぅ」


 自分はまだまだ、リーゼロッテを見くびっていたようだ。彼女の人のよさは底抜けどころか底なしだ。あの程度のことでリーゼロッテが怒るなどと、どうしてそんなふうに考えていたのだろうか。


「ベッティ……?」


 笑い止まないベッティを前に、泣き顔のリーゼロッテが小首を傾けた。


「確かにアイツに痛い目には合わされましたがぁ、今では見た通りピンピンしておりますぅ」

「本当に? わたくし、ベッティになんて言って謝ったらいいのか……」

「わたしは自分のすべきことをしたまでですのでぇ。リーゼロッテ様がお気に病む必要はございませんよぅ」


 リーゼロッテの背中をあやすようにやさしく叩く。あの夜、無残に切り取った蜂蜜色の髪は、今では綺麗に整えられていた。だが腰まであった長さには、まだまだ到底及ばない。


「わたしこそ嘘を言って申し訳ございませんでしたぁ。何より大事な御髪(おぐし)を傷つけたこと、心よりお詫びいたしますぅ」

「どうして謝るの? ベッティが謝ることなんて何もないわ」

「リーゼロッテ様は本当にこれっぽっちも怒っていらっしゃらないのですかぁ?」

「だってわたくしを逃がすために必要だったのでしょう? 怒る必要がどこにあるの?」


 心から不思議そうな顔をされ、再び笑いが込みあげる。大概の貴族は守られて当然な上、使用人の失態など当たり前に懲罰(ちょうばつ)の対象だ。むしろそれを鬱憤(うっぷん)払いにしている者も、そこそこの数いるくらいだった。


(どこまで行ってもリーゼロッテ様はリーゼロッテ様なんですねぇ……)


 正直言って初めて会ったときから、無垢(むく)で苦労知らずのリーゼロッテが虫唾(むしず)が走るほど大嫌いだった。だがあまりにも自分とは相容(あいい)れない人種過ぎて、今では一周回って好きになっている。我ながら笑ってしまうと言うものだ。


 やはりカイとの約束は、リーゼロッテの元という事で落ち着くのだろうか。決めかねていた思いが、ベッティの中で次第に固まりつつあるように感じられた。


「ねぇベッティ、わたくしに何かお礼をさせて?」

褒章(ほうしょう)なら王家とデルプフェルト家からもう十分頂きましたからぁ」

「だけどこのままじゃ、ベッティに申し訳が立たないわ」


 エラ争奪杯のこともあり、ベッティはすでに一生遊んで暮らせるほどの金品を手にしている。ここは貸しひとつで手を打つくらいで十分そうだ。

 それを口に出そうとするも、ベッティは動きを止めた。リーゼロッテの肩越しの廊下で、不動のカークが背筋を伸ばして立っている。


 あの異形はリーゼロッテの護衛のようなものだ。カークの目を通して、公爵が常にリーゼロッテを監視している。カイがそう言っていたことを思い出した。


(ということはぁ……)


 全身の毛穴から、どっと嫌な汗が噴き出した。このリーゼロッテとの抱擁(ほうよう)場面も、ばっちり公爵が視ているということだ。


「と、時にリーゼロッテ様ぁ。わたしがリーゼロッテ様の髪を切った件はぁ、公爵様にはどんな感じで伝わっているんですかねぇ?」

「え? どうだったかしら? 神殿でのことは、龍に目隠しされて言えることと言えないことがあったから……。それよりもベッティ、お礼の件を」


 曖昧な返答に、最悪の事態が頭をよぎる。必死の形相でリーゼロッテの肩を掴んで揺さぶった。


「でしたら公爵様に叱られる事態に陥ったらぁ、必ずベッティを擁護してくださると全力で約束してくださいましぃっ」

「ジークヴァルト様に? それはいいけれど……でもお礼って、本当にそんなことでいいの?」

「超・絶っ、もちろんですぅ!」


 これで枕を高くして眠れると、壊れた人形のようにベッティは何度も何度も頷いた。


     ◇

 カークを引き連れ廊下を戻る。ベッティが来ているとエラに聞き、後先も考えず部屋を飛び出してしまった。


(ルチア様もちょっとびっくりなさってたわね)


 公爵夫人にあるまじき落ち着きのなさだったと、今更ながらに反省しきりだ。しかしどうしてもベッティに直接謝りたかった。元気そうな顔を見て、ようやく安心できたリーゼロッテだ。


(だけどヴァルト様に何か言われちゃうかしら……)


 屋敷内の移動は特に制限はされていないが、誰にも何も言わずに出てきたのは少しばかりまずかったかもしれない。

 貞子の件があったので、しばらくはきちんとおとなしくしていよう。そう心に誓った矢先のことだ。我ながら学習能力が皆無(かいむ)だと、リーゼロッテは小さくため息をこぼした。


「ねぇ、カーク。ジークヴァルト様、怒ってそう?」


 振り向くとカークは確かめるように首を傾けた。次いで右に左に、延々と頭を動かし続ける。どうやら送信オンリーで、カークに受信機能はないようだ。


「わ、分からないなら大丈夫よ。無理を言ってごめんなさい」

「そこのいぎょう! よわいものイジメをしゅるなんて、ゆるちぇないぞ。やっつけてやるっ」


 可愛らしい声が響き、カークとの間にぽっちゃりした男の子が割って入った。いきなりのことに言葉を失う。身なりからして貴族の子息のようだ。


「おんな、あんしんしゅるといい。おまえはこのおれたまがマモってやるからな」

「まぁ」


 小さな剣を掲げ、リーゼロッテを後ろ手に(かば)う。勇敢な騎士のお出ましに、困り顔のカークがわたわたと手を動かした。


「あの、勇者様、その異形はわたくしの護衛です。決して悪さはしませんので、どうかお見逃しくださいませんか?」

「なんと、しょうであったか。いぎょうのくちぇにココロをいれかえるとは、なかなかアッパレなやつ。ほめてやろう」


 居丈高(いたけだか)にぽよんとお腹を()り返らせる。褒められて、カークは照れたように頭をかいた。


 次にリーゼロッテをしげしげと見やると、男の子は二重になったあご下に、むっちりとした手を当てた。


「おまえ、なかなか()いやつだな……よし、このランドルフたまがツマにむかえてやる! ありがたくおもえ」


 ウインナーのような指先が、リーゼロッテの手を取り握りしめてくる。もちもちほっぺのどや顔に見上げられ、驚きつつも目線を合わせるためリーゼロッテは膝をついた。


「光栄なお言葉ですが、わたくしにはもう誓いを立てた伴侶がございます。ランドルフ様にはもっとふさわしいお相手がいらっしゃることでしょう」

「なんと。しょれではしかたないな。もしもちょのあいてがイヤになったら、いつでもおれたまをたよるといいゾ」

「ランドルフ、なんてことをっ!」


 血相を変えて駆け込んできたのは、子爵夫人のエマニュエルだった。


「リーゼロッテ様、息子が失礼をいたしました! この方はあなたよりも目上の方よっ」


 後頭部をぐいと押さえつつ、エマニュエル自身も礼を取った。その手を逃れようとするランドルフの頭を、さらに深く深く下げさせる。


「エマ様のお子様でしたのね。そこまでなさらなくても。わたくしは気にしておりませんわ」

「寛大なお言葉をありがとうございます。この子は子爵家で少々甘やかされ過ぎておりまして……」

「ブシュケッター家の跡取りとして、みなから大切にされているのですね」


 エマニュエルは後妻ながら、子爵家待望の男児を産んだ。初対面の頃はこの若さで五人の子持ちと聞いて驚いたが、義理の娘四人含めての話だったらしい。リーゼロッテが微笑むと、エマニュエルは複雑そうな顔をした。


「困ったことに我が家ではまるで王様扱いでして。このままでは将来に支障をきたしそうで、今、社会勉強をさせているところなのです。さ、ランドルフ、改めてご挨拶なさい。リーゼロッテ様はフーゲンベルク公爵夫人にあらせられますよ」


 促されて、ランドルフはぎこちない身振りで礼を取った。教えられた動きを懸命に再現しようとしているところが、なんとも微笑ましく目に映る。


「ふぅげんべりゅくこうちゃくふじんたま。おハツにおめめにかかりまつ。わたしはランドルフ・ぶちゅけったぁ、みらいのエラぁイししゃくたまなんだゾ」

「ランドルフ!」


 頭を抱えるエマニュエルには悪いと思いつつ、リーゼロッテはくすくすと笑ってしまった。よほど周囲から持ち上げられて育っているのだろう。


「しつけがなっていなくて、本当に申し訳ございません」

「まだ幼いんですもの。仕方ありませんわ」


 貴族階級の複雑な上下関係など、小さな子供に理解しろと言う方が無理な話だ。自分は日本での知識があったからまだましだったが、それでも完全に飲み込むまでに苦労した。


「ところでリーゼロッテ様。お連れなのはカークだけですか?」

「え、ええ……」


 勝手に部屋を飛び出してきたとは言えなくて、歯切れの悪い返事になってしまった。またジークヴァルトにいらぬ心配をかけたのかと思うと、いつまで経っても成長しない自分に嫌気がさしてくる。


「もしや……旦那様と何かございましたか?」

「え? あ、いえ、その……」


 思わず目を泳がせる。先日の茶会帰りの馬車での出来事が頭をよぎり、エマニュエルの鋭すぎる突っ込みを上手に(かわ)すことができなかった。こんな動揺感丸出しでは、公爵夫人としても駄目駄目だ。ランドルフを笑える立場ではないと、ますます自己嫌悪に陥った。


「リーゼロッテ様……」

「ご心配には及びませんわ。ジークヴァルト様とはちゃんとうまくやっておりますから」

「それならいいのですが。わたしはしばらくフーゲンベルク家に滞在しております。もし何かありましたら、いつでもご相談なさってくださいね」


 誤魔化しきれた気はしなかったが、エマニュエルはそれ以上詮索してこなかった。そのことにほっと息をついたリーゼロッテだった。


     ◇

 ベッティを素通りした視線はルチアで止められ、品定めするように上下した。


「そこのおんな、なかなか()いやつだな。よし、このおれたまのツマにしてやろう!」

「ランドルフ! 失礼を言ってごめんなさいね、ルチア様」

「いえ……」


 控えめに笑ったルチアはすぐ目をそらした。社交界では彼女の出自の噂で持ちきりだ。エマニュエルはそんなルチアの様子を見に、わざわざ子爵家からやってきた。


「ベッティ、少しの間、ランドルフの相手をしていてくれないかしら?」

「承知いたしましたぁ。さぁ、ランドルフ様、ベッティがおいしいおやつをご用意いたしますよぅ」

「おお、しょうか。ちょうどおなかがちゅいていたところだ。おまえなかなかきがきくな」

「あまりあげすぎないでちょうだいね」

「お任せをぉ」


 子爵家では欲しがるだけあげてしまうため、ランドルフは幼児にしてあの体型だ。公爵家にいる間に、少しでも痩せさせたいエマニュエルだった。


 ふたりきりになり部屋に沈黙が訪れた。居心地悪そうなルチアは、飾られた花を黙ってじっと見つめている。


 (おおやけ)には隠されているが、ルチアは市井(しせい)で育った王族の血筋の者らしい。マテアスにそう聞かされて、自分が呼ばれた理由を嫌でも理解した。

 いくらリーゼロッテが目をかけていると言っても、生粋(きっすい)の貴族である彼女ではフォローしきれない面も出てくるはずだ。その点、エマニュエルは使用人の立場から子爵家へと嫁いだ身。平民から貴族となったルチアの戸惑いは、自分の方が分かってやれることだろう。


 家令の娘として公爵家で生まれ育ち、貴族階級の知識をきちんと持ち合わせていたエマニュエルですら、社交界に馴染(なじ)むのは多大な時間と努力を要した。下町で育ったルチアなら尚のこと、エマニュエル以上に苦労するのは火を見るよりも明らかだ。

 むしろエラの方が適任に思えたが、彼女はすでに平民に戻ってしまった。身重な上に侍女長の役目をこなすエラの負担を減らしたい。そんなマテアスの思惑も透けて見え、面倒ごとを押し付けられたと思いつつも、姉としては甘んじて引き受けるしかなかった。


(それに王族の血を引いていなければ、マテアスもここまでルチア様を気に掛けることもしなかったでしょうし)


 マテアスの判断は、王の意を()んだ公爵家としての対応だ。そうなれば、エマニュエルもいい加減な態度を取れるはずもない。


「ルチア様、少しお話をしてもいいかしら?」

「……はい」

「そう緊張しないで。わたしは今でこそ子爵夫人の地位にいるけれど、元はこのフーゲンベルク家の使用人だったのよ」

「えっ!?」


 ようやくルチアの興味がこちらに向いた。ここで普通の貴族なら、手のひらを返したように冷たい態度を取って来る。生まれながらに貴族である彼らにとって、血筋とは何よりも重んじられるべきものだ。


「……じゃあ、はじめは平民だったってことですよね?」

「ええ、この公爵家で生まれ育って、ずっとアデライーデ様の侍女として仕えていたの。家令のマテアスがいるでしょう? 彼はわたしの弟よ」

「侍女として……」


 思った以上に食い気味に、ルチアはエマニュエルの話題に乗ってきた。


「エマニュエル様はどうしてわざわざ貴族になったんですか?」

「わざわざ……? と言うか、夫にそう強く望まれて」


 別に自慢話をしているわけではない。確かに貴族に取り入って、あわよくば伴侶や愛人の座を手に入れようとする者はいる。しかしエマニュエルの場合、立場的に断り切れなかったと言うのが実情だ。


 たまたまフーゲンベルク家を訪れたブシュケッター子爵に見初(みそ)められて、エマニュエルは鬱陶(うっとう)しいほどの求婚をうけた。喜び勇んで嫁いだわけではなく、当時公爵だったジークフリートの勧めもあって、気づけばとんとん拍子に話が進んでしまっていたのだ。

 最初はまったく乗り気はしなかったが、アデライーデをより近くで支えられるようになる。そんな思いが芽生え、エマニュエルを前向きにさせた経緯もあった。


「貴族をやめたいって思ったことはなかったんですか?」

「それはたいへんなこともあったけれど……」


 質問の意図が掴めなくて、エマニュエルは眉をひそめた。

 子爵夫人になった当初は、夜会などで陰口や陰湿な仕打ちを受けることも多かった。しかし貴族になった以上ある程度は覚悟していたし、元来負けず嫌いな性格なこともあって、そこら辺は物ともしなかったエマニュエルだ。


 公爵家の後ろ(だて)があったこと。嫁ぎ先の子爵家では歓待(かんたい)されたこと。母ロミルダが貴族の出であったこと。これらも幸運だったと言えるだろう。

 何より、貴族として生きていくことに疑問を持たなかったのは、騎士となったアデライーデがいつ社交界に戻ってもいいように、その居場所を確保しようと必死だったからだ。


「じゃあ、もしエマニュエル様が貴族をやめるとしたら、どんなことをしますか?」

「やめるとしたら?」


 真剣な表情のルチアを前に、エマニュエルは再び眉をひそめた。


「そうね……離婚でも言い渡されれば、貴族籍を抜けることになると思うけれど」

「離婚……。結婚していれば、そうですよね……」


 呟いて、ルチアは考え込むように押し黙る。奇妙な沈黙の後、エマニュエルはストレートに問いかけた。


「なぜそんなことを聞くの?」


 はっと顔を上げ、ルチアは顔をこわばらせた。次いで不自然に視線を逸らされる。


(――この()(あや)ういわ)


 エマニュエルは慣れない社交界でのサポートを任されたくらいの気でいた。だが明らかに、ルチアは貴族でいることから逃げ出したがっている。王族の落し(だね)である彼女を、王家が平民として放置するなどあり得ないと言うのに。


「ルチア様、よかったらご両親のこと、聞かせてもらえないかしら?」


 対応を間違えば、ルチアはフーゲンベルク家に不利益をもたらす存在になるかもしれない。そんな考えがよぎり、言葉を選びながらエマニュエルは慎重に反応を伺った。


「……父はブルーメ家の遠縁です」

「お母様は?」

「母は……」


 ルチアが市井(しせい)で育ったことは内密にされている。当然、本人も口止めされていることだろう。こういった場合はそれらしい身の上話を作りあげ、口裏合わせしているものだ。

 唇を噛みしめたルチアは、しかしそれ以上言葉を発しようとしない。答えたくないのか、答えられないのか。エマニュエルは判断に迷った。


(もしかして……この娘、自分の出自を知らされていないの……?)


 王族として迎えられない理由は、よほどのスキャンダラスな不貞が行われたからだろう。ルチアの置かれている立ち位置は、自分が思うよりも不安定なものなのかもしれない。


 こんな(あや)うげな態度のままでは、社交界でいいように利用されかねない。だがあまり追い詰めると開きかけた心が閉じそうだ。必要な知識を授けるにしても、エマニュエルを信用させないことには素直に耳を傾けることはしないだろう。


 こわばった顔のルチアに向けたふさわしい言葉を探していると、そのルチアが先に口を開いてきた。


「わたし、本当は貴族なんかじゃないんです! ずっと母と下町で暮らしてて、母が死んだときにイグナーツ様にブルーメ家に連れていかれたんです!」


 突然の告白に思考が止まる。イグナーツと聞いて心当たりがあるのは、リーゼロッテの実の父親であるイグナーツ・ラウエンシュタインだけだ。ここで聞き耳を立てる者などいないだろうが、エマニュエルは思わず声を(ひそ)ませた。


「イグナーツ様って、その方はリーゼロッテ様の……?」


 こくりと頷くと、ルチアは(せき)を切ったようにしゃべり始めた。


「母はむかし貴族のお屋敷で働いてて、そこで誰か偉いひとと出会ってわたしが生まれたんじゃないかって思ってて、だからわたし本当はブルーメ家とはまったく関係ないし養子になる資格なんてないんです! このまま貴族でいるなんて自信ないし絶対に無理だから、だからわたし、わたし……!」

「ちょっと待って」


 咄嗟(とっさ)に言葉を制する。


「あなたの話は分かったわ。でも少しだけ整理させてもらってもいい?」


 ルチアの高ぶった感情を落ち着かせるために、エマニュエルは努めて穏やかな表情を作った。


「お母様がどこのお屋敷で働いていたのかは分かる?」

「いえ……それはわたしが勝手にそう思ってるだけで」

「そう……。ではお父様のことは、お母様から何も聞かされていないのね?」

「はい。でもイグナーツ様なら知っているんじゃないかって思ってます。母はイグナーツ様と知り合いだったみたいだから」

「それを直接(たず)ねたことは?」


 ルチアは小さく首を振った。


「では、この話を知っているのはブルーメ子爵だけね?」

「いえ、お義父様には何も話してません」

「何も?」

「はい、一度も聞かれたことなかったから」


 エマニュエルは絶句した。とてもではないが自分ひとりで処理できるような話ではない。かといってこのまま放置するのも危険すぎる内容だ。


 こんな話を余所(よそ)でされでもしたら、ブルーメ家は立場がなくなりそうだ。ルチアを受け入れているフーゲンベルク家も余波を受けるだろうし、何より彼女を貴族と認めたハインリヒ王などいい笑いものになるに違いない。


(もし本当にこの娘が王族の血筋なら、王家がブルーメ家にきちんと監視するよう通達すべきじゃない)


 社交界は魔窟(まくつ)のような場所だ。立場の弱い子爵令嬢など、簡単に私利私欲の餌食(えじき)にされてしまう。なぜそんな簡単なことが分からないのだろうか。


 そこまで思ってはたと気づく。ブルーメ子爵は社交に(うと)そうな印象だ。養子先としては人選ミスとしか言いようがなかった。ハインリヒ王は社交界の恐ろしさなど、(しん)には理解していないのかもしれない。


 リーゼロッテに預けているくらいだ。ジークヴァルトにしても、そこまでの危機感は持っていないのだろう。この際、王家の威信などはどうでもいいが、公爵家に災いが降りかかるのだけは絶対に避けて通りたい。


(もう! どうしてわたしがこんな役目をしなきゃならないのよ)


 自分には荷が重すぎる。マテアスを恨みつつ、今はルチアの事情を正確に把握することが必要だ。


「じゃあ、他にこの話を知っている人間はいて?」

「イグナーツ様と……カイ・デルプフェルト様です」

「デルプフェルト様が?」

「はい、イグナーツ様にわたしのこと頼まれているって言ってました」


(イグナーツ・ラウエンシュタインに?)


 なぜここでリーゼロッテの父親が出てくるのか、益々事情が掴めない。


(王はラウエンシュタイン家にルチア様を任せたということ?)


 ブルーメ家は確かイグナーツの実家だったはずだ。やはり自分の手に余り過ぎる事態のようで、エマニュエルはそれ以上考えることを放棄した。話だけをしっかり聞いて、最終的な判断はジークヴァルトとマテアスに(ゆだ)ねるしかないだろう。


「だいたいのところは理解しました。その上で忠告させてもらうわ。この話は二度としないこと。どこで誰に聞かれたとしてもよ」

「あ……わたし、カイにもそう言われてて……」


 だったらなぜ自分に話したりしたのだ。ため息をこらえつつも、追い詰めるのは得策でないとエマニュエルは微笑んだ。


「そうね、これ以上他人に知られるのは良くないわね。でないとブルーメ子爵にも迷惑をかけることになるわ。貴族にも悪い人間はいっぱいいるの。あなたも社交界で、ずっと快適に過ごしていきたいでしょう?」

「でもわたしが貴族だなんてやっぱりおかしいです!」

「あなたは白の夜会で王前に立ったでしょう? 王が認めたということは、ルチア様、あなたはもう立派な貴族なのよ」

「そんな……」


 うまく言いくるめられたと思ったら、ルチアは尚も食い下がってきた。


「だったらわたし、誰か平民と結婚します! そうしたら貴族をやめられるんですよね?」

「そんなことブルーメ子爵がお許しにならないわ。例え駆け落ちしたとしても、連れ戻されて意に沿わない結婚を強いられるだけよ」


 母ロミルダのように家に見捨てられる者もいるが、大概の令嬢は外聞のため適当なところへ嫁がされるのが常識だ。そのまま家に閉じ込められて、二度と社交の場に現れることもなく忘れられた過去のひととなっていく。


「いい? よく聞いて。貴族令嬢の結婚は父親が決めるものなの。でも大丈夫よ。心配しなくても、ルチア様にとって一番の良縁を整えてくださるわ。早まった真似(まね)をして、変なところに嫁がされたくはないでしょう?」


 ルチアは言い負かされた人間がするような、そんな悔しそうな顔をした。


「あなたは今、環境の変化に混乱しているのよ。時間がたてばきっと落ち着くわ。いつでもわたしが相談に乗るから、遠慮しないで何でも言ってちょうだい。悪いようにはしないから、ね?」


 やさしく(さと)すように言う。味方であることを示しておかないと、孤立したルチアがいつか暴走してしまいそうだ。


「だから約束して? あなたの身の上はもう誰にも話さないこと。わたし以外の人間は基本信用しては駄目よ」

「リーゼロッテ様も?」

「そうね。事実を知る者は少ない方がいいわ」

「分かりました。だけど、エマニュエル様を信用できる保証はどこにあるんですか?」


 反撃するかのごとく(にら)まれた。どうやらルチアの性格は、一筋縄ではいかないらしい。


「そう言われると保証できるものなど何もないわ。でもね、これだけは言わせて。わたしも子を持つ親の立場よ。あなたを(のこ)して()かれたお母様の気持ちを思うと、黙って見てはいられないの」


 本音はフーゲンベルク家に迷惑をかけてほしくないだけだ。だがこの言葉にも偽りはなかった。静かに見つめると、ルチアは今にも泣きそうな顔で口を引き結んだ。


 そんなルチアの手を取って、腕の中に閉じ込める。一瞬身を強張(こわば)らせるも、ルチアはすぐに力を抜いてきた。

 いつも我が子にするように、エマニュエルはしばらくルチアの頭を撫で続けた。


     ◇

「……ということがありました。今のところ、ルチア様はそれで納得してくれたようですわ」


 姉の報告にマテアスは困り眉をさらにハの字に下げた。


(エマニュエル様に任せてビンゴでしたねぇ)


 王家の監視の手前、ルチア・ブルーメに関してはあまり表立って調査ができずにいた。しかし小さな胸騒ぎが付きまとって、念のためにとエマニュエルを招集するに至った。我ながら勘が冴えると、マテアスは自画自賛でひとり頷いた。


「旦那様、いかがいたしましょう?」

「王命だ。滞在中、事なきを得ればそれでいい」

「では彼女の監視を(おこた)らないよう努めます。しばらくは引き続きエマニュエル様にお任せしようと思いますが構いませんか?」

「ああ、エマには負担をかけるがよろしく頼む」

「仰せのままに」


 内心では面倒事をと思っているエマニュエルも、ジークヴァルトに言われては素直に引き受けるしかない。使える者は身内だろうと、容赦なく利用するマテアスだった。


「リーゼロッテ様にはお伝えしますか?」

「いや、いい。そのかわりブルーメ嬢とふたりきりにはするな」

「承知いたしました」

「旦那様、もうひとつお話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか……?」

「なんだ?」


 めずらしくエマニュエルは遠慮がちだ。


「気のせいだったら構わないのですが、リーゼロッテ様と何かございましたか? 先ほどお会いしたときにお元気がないと言うか、いつもとご様子が違うように感じられましたので……」


 途端にジークヴァルトの眉根がぎゅっと寄せられた。これは図星を刺されたときによくする癖だ。


(最近はうまくやっていると思っていたのに……)


 胡乱(うろん)な目を(あるじ)に向ける。ふたりが婚姻を果たした今、マテアスの心配事は解消された。エラもいることだしと、執務にのみ専念していたのはまずかったろうか。


(エラのことですから、リーゼロッテ様の異変に気付いてない筈はないでしょうねぇ)


 大方リーゼロッテに口止めされていると言ったところか。エラにとっては未だリーゼロッテの方が、マテアスよりも優先順位が上ということだろう。夫としては寂しくもあるが、自分とてエラよりもジークヴァルトを優先せざるを得ない立場にいる。


「旦那様、怒りませんから隠さず正直におっしゃってください」

「いや、別に何もない」


 ジークヴァルトはすいと顔を逸らした。何かを隠しているのが丸わかりだ。


「では、エマニュエル様のおっしゃることは、気のせいということでよろしいのですね?」

「ああ」


 こういったとき、エマニュエルの勘が外れることは滅多にない。目を見合わせた姉に向けて、マテアスは小さく頷いた。


「念のために一応エラにも確認しておきます。何、念のためです。リーゼロッテ奥様に何かあっては一大事ですからね」


 ぐっと喉を詰まらせて、ジークヴァルトは口をへの字に曲げた。ここまで来ればあともう一押しだ。


「で、旦那様。白状するなら今のうちですよ?」

「何もない。何もないが……異形がらみで少しきつく言った覚えはある」

「きつく? 異形がらみで?」

「ああ。この前行った茶会でだ」


 それ以上は頑として口を割ろうとしなかったため、結局マテアスはその夜エラに確認を取った。どうやらリーゼロッテは、ジークヴァルトに心配をかけたとずっと落ち込んでいたらしい。


(夫婦喧嘩とまでいかないところが、おふたりらしくもありますけどねぇ……)


 いっそ派手に喧嘩してくれた方が、分かりやすくてフォローも入れやすいのに。ついそんなことを思ってしまう。


 今後似たようなことがあったら、マテアスにも相談するようエラには確約を取り付けた。今回はエマニュエルの助言もあり、ふたりの仲修復のために貴族街お買い物計画が練られることとなった。


 いつまで経っても不器用な(あるじ)に呆れつつ、なんとか日程を調整したマテアスなのだった。


     ◇

 馬車に揺られながら、ジークヴァルトの顔を見上げる。


(貴族街でお買い物だなんて、急に一体どうしたのかしら……)


 誕生日でもないし、いつもなら行商を呼んで屋敷内で欲しいものを選んでいるところだ。お出かけはもちろんうれしいが、忙しいジークヴァルトを思うとそれが不思議でならなかった。

 現に今もジークヴァルトは書類をめくり続けている。無理やりに時間を空けたようにしか思えなくて、また負担になっているのかと気分が落ち込んできてしまった。


(駄目駄目、せっかくのお出かけなんだもの。ここはちゃんと素直によろこばなくちゃ)


 気を回しすぎて結果空回りしてしまうのは、昔から自分の悪い癖だ。よろこびを表現するために控えめなガッツポーズを作っていると、ジークヴァルトに顎を(すく)われた。


「どうした?」

「いえ、今日はヴァルト様とおでかけできてとってもうれしいなって」

「ふっ、そうか」


 小さくこの唇を(ついば)むと、ジークヴァルトはすぐ書類に視線を戻した。文字を追う真剣な眼差しが格好良すぎて、ぽぅっとなって見とれてしまう。


「どうした?」

「いえ、ヴァルト様、すごくかっこいいなって……」


 つい本音が漏れてしまって、頬を染め慌てて口元を押さえた。


「リーゼロッテ……お前、本当に懲りないやつだな」


 呆れたように言われ、先ほどより深く口づけられる。


「あ……ん、馬車の中で口づけは一時間に一回だけだって約束を……」

「あんなことを言うお前が悪い」


 唇に移った(べに)を親指の腹で(ぬぐ)いながら、今夜は覚悟しておけよと、ジークヴァルトはとても悪い顔をした。


     ◇

 リーゼロッテたちが出かけるからと、一緒に貴族街に行くことになった。と言っても別馬車での移動だ。今いる面子(めんつ)はルチアを含め、ベッティにエマニュエル、そして彼女の息子のランドルフの四人だった。


「おいべってぃ、きじょくがいにはな、おいしいおやつがいっぱいあるんだじょ」

「それはそれはたのしみですねぇ」


 向かいの席でベッティがランドルフの相手をしている。ランドルフはベッティにべったりで、いたく彼女を気に入ったようだ。


「ルチア様は貴族街は初めて?」

「はい、ブルーメ家は王都から遠いですから」


 未だにルチアはエマニュエルとの距離を測りかねていた。このひとは損得勘定でしか動かないタイプの人間だ。なんとなくそう感じられて、打ち解け切ることができないでいる。


「だったら今日はいろいろ回りましょう。気に入ったものをなんでも選ぶといいわ」

「でもそんなお金は……」

「ルチア様ぁ、そんなことは気になさらなくていいんですよぅ。あとでまとめて子爵様がお支払いしてくださいますからぁ」


 貴族の買い物はツケ払いが当たり前のことらしい。よほどの信用がなければ、下町ではあり得ないことだった。


 これまで(つちか)ってきた価値観が、どうにも貴族でいることを拒絶する。握りしめた銅貨一枚で、今日は何と何を買おう。そんなふうに考えを巡らしていた日々が、無性に恋しくて仕方がなかった。


「あまり気乗りがしないようね?」

「すみません、やっぱり慣れなくて……」

「いいのよ、少しずつやっていけばいいわ」


 穏やかに微笑まれる。エマニュエルはやさしいひとだ。恐らく、身内に限っては。


 自分の意に反する者を平気で排する人間を、今までルチアは多く目にしてきた。エマニュエルを裏切ったりしたら、きっと自分も冷たく切り捨てられるのだろう。

 信じられるのは自分だけだ。ずっとそうやって生きてきた。貴族の輪の中にいて、この思いは誰にも分かってもらえない。言いようのない孤独が押し寄せる。


(このままで本当にいいの……?)


 胸の内、自分に問いかけた。


 貴族として子爵の決めた誰かに嫁ぎ、貴族として子をなし、貴族として閉じ込められたまま死んでいく。そこには自分が存在しないように感じられて、真っ黒い塊が重く心を占拠した。


(せめて相手を選べたらよかったのに)


 リーゼロッテが用意してくれた恋愛小説は、お姫様が騎士と結ばれたり、身分の低い令嬢が王子様と結婚したりと、荒唐無稽(こうとうむけい)と思えるほど夢のような結末ばかりだ。


 母アニサはいつも言っていた。女性のしあわせは、心から愛するひとと結ばれることだと。

 ふとカイの顔が頭をよぎり、ルチアは慌てて自分の考えを打ち消した。


「どうかして?」

「あ、いえ、何でもありません」


 膝の上でぎゅっと手を握りしめる。叶うことのない未来など、期待を抱くだけ無意味なことだ。その先には、失望しか待っていないのだから。

 それでもカイの顔がちらついた。“下町のルチア”を知る者は、貴族の中では彼しかいない。


「エマニュエル様……ひとつだけ聞いてもいいですか?」

「ええ、もちろん」

「カイ・デルプフェルト様ってどんなひとですか?」

「デルプフェルト様? そうね……侯爵家の五男、イジドーラ前王妃の(おい)でありハインリヒ王の従弟(いとこ)、そして王城騎士を務める立派な方ってところかしら?」


 急な問いかけにもかかわらず、エマニュエルはすらすらと答えてくれた。やはり敵に回してはいけない頭のいいひとなのだろう。


「デルプフェルト家では跡目争いが激しいようだけど、あの方は一線から退いているみたいね」

「そうなんですか?」

「ええ。正妻様の遺した子供はあの方だけだから、跡取りに選ばれても良さそうなのだけれど」

「詳しいんですね」

「社交界では常識よ。ルチア様もよく勉強しないといけないわね」


 藪蛇(やぶへび)になってしまって、ルチアは思わず顔をしかめた。


「そんなに嫌がらないで。これも貴族社会で過ごしやすくするための手段なのよ」

「分かりました。あの、それで他にはないんですか? デルプフェルト様の、その、噂とか……」

「噂……?」


 一瞬、目を丸くしたあと、エマニュエルは何かを察したようにうすく苦笑いをもらした。むっとしつつも、聞いてしまった手前おとなしく返答を待った。


「社交の場では、あまり良い噂があるとは言えないわね。恋多き方のようだから」

「恋多き……」

「お相手は既婚者ばかりで、いわゆる割り切った関係と言うことよ」


 唇を噛みしめ俯いた。白の夜会でイザベラに言われたことと、まったく同じ内容だ。


「ルチア様。大事なことだからよく聞いて? ブルーメ家に行くにあたって懇意(こんい)にされていたみたいだけれど、デルプフェルト様にしてみれば職務のひとつよ。勘違いしない方がいいわ」

「……分かってます」

「そう、ならいいわ。でももうひとつ大事なことを言わせてもらうわね。夜会で彼に会っても、絶対に親しく話したりしてはいけないわ」

「どうしてですか? 知り合いなんだから別にいいじゃないですか」

(おおやけ)の場ではそうはいかないの。ああいった方と親密だと分かると、ルチア様は遊びなれた令嬢と思われてしまうのよ」

「何それ、意味が分からない……」

「ルチア様、随分と言葉が乱れておいでよ?」


 (たしな)めてくるエマニュエルの表情は、マナー教師のそれと同じだ。


(母さんにもよくこんなふうに叱られたっけ)


 アニサはお姫様ごっこと称した淑女教育を、幼いころからルチアに施してくれた。母は自分が貴族になることを、はじめから分かっていたのだろうか。


 いろんな考えが散らかったまま、馬車は貴族街に到着した。


     ◇

 休憩で入った高級カフェで、ルチアはふかふかのソファに居心地悪く腰かけていた。煌びやかな店にあちこち連れていかれて、たのしむどころか気疲れしか感じない。値札もついていないような物ばかりが並べられていて、手に取ることすら臆してしまった。

 養子に入ったブルーメ子爵家は、貴族の中でも質素な方なのだろう。公爵家に正式な客人としてお邪魔して、だんだんとそんなことが分かってきた。


「ルチア様ぁ、本当にお買い物はそれだけでよろしかったのですかぁ?」

「ええ」

「ですが最後まで迷ってらしたもうひとつの方がぁ、値打ちのあるいい物でしたのにぃ」


 ベッティがどうしても何か買えと言うので、仕方なしにいちばん安そうな小さな石のネックレスを選んだ。それでも庶民にしたら高価な品だ。値段が書かれていないので、もし高過ぎてしまったらどうしようと内心冷や冷やしているルチアだった。


「お値段なら気にしなくってもよろしんですよぅ? ブルーメ家はラウエンシュタイン家からの援助で潤っているようですからぁ」

「いいの、これで十分よ」


 早く帰りたいが、リーゼロッテたちと合流するまでまだ時間があるらしい。エマニュエルだけは眠くてぐずつくランドルフを連れて、先に馬車へと向かっていった。


「あなたって子守りもできるのね?」

「子守り上手な侍女は何かと重宝されますからねぇ。子守りが専門の使用人もおりますがぁ」

「子守り専門……それならわたしにもできるかも」

「ルチア様ぁ? まだ働こうだなんて思ってらっしゃるんですかぁ? ルチア様はですねぇ、もう雇われる側ではなくて雇う側なんですよぅ」

「そんなこと、あなたに言われなくても分かってる」


 ここの所、うるさく言われ過ぎてもううんざりだ。うんざりし過ぎてキリキリと胃が痛んでくる。


「ベッティ……お腹痛い」

「それはいけませんねぇ! 今すぐおくすりを用意いたしますのでぇもう少しご辛抱くださいましぃ」


 店に事情を話して、奥の休憩室へと連れていかれる。小部屋だが高級な調度品が並べられ、窓からは見栄えの良い雪の庭が見下ろせた。


「具合はいかがですかぁ?」

「ええ、少し落ち着いてきたみたい」


 まだ外は明るいが、あと数時間もしたら日没の時刻だろう。考え込むように外を眺めていたルチアが、ふいにベッティの顔を見た。


「ねぇ、ベッティ。さっき迷ってたネックレス、やっぱり欲しいから買ってきてもらえない?」

「わたしがですかぁ?」

「誰かに先に買われちゃったら嫌なの。落ち着くのにまだ時間がかかりそうだから、あなたが今行ってきて」

「承知いたしましたぁ。すぐに戻ってまいりますのでここにいてくださいましねぇ」

「慌てなくてもいいから、気をつけて行ってきて」


 出ていったベッティが、店の人間に声がけしているのが聞こえた。逃げ出したりしないように、扉の前を見張っているよう念を押している。


 足音が遠のいたのを確認して、ルチアは扉を開けた。そこにいた店の男と目を合わせる。


「ちょっと寒いの。ショールとかブランケットとか、薄いもので構わないから何枚か貸してもらえない?」

「かしこまりました」


 丁寧に腰を折り、男はブランケットを数枚持ってきた。お礼を言うと再び(うやうや)しく腰を折られる。


「ゆっくりしたいから、ひとりにしてもらっていいかしら?」

「仰せのままに」


 部屋の外に、まだ男の気配がする。律儀に見張っているのは、ベッティがそこそこのチップを握らせたからなのだろう。


 逃げ出すこと前提なのがおもしろくない。だが、このまま言われた通りにおとなしくしているルチアではなかった。


(もう限界よ!)


 逃げ出すなら今しかない。やさしくしてくれたブルーメ子爵には申し訳ないが、行方不明になってしまえばすぐにでも忘れてもらえるだろう。


 上質で少し気が引けたが、ブランケットを結び合わせて長いロープを作った。音を立てないように窓を開け、(わく)にあった手すりに縛り付ける。


(ここが三階だからって油断し過ぎよ)


 ベッティの裏をかけて、それはそれで気分が良かった。大胆にスカートをたくし上げると、中から小さな異形がぴょこんと現れた。


「やだ、あなたそんなところに隠れてたの?」


 おめめをきゅるんとさせて、異形はうれしそうにルチアの肩に飛び乗ってくる。


「もう、しょうがないわね。いたずらだけはしないでよ?」


 邪魔にならないようスカートの(すそ)をひとつに結び、念入りに余った布をお腹の方に押し込んだ。


(まずはこんがり亭へ行こう)


 ダンとフィンなら、(こころよ)くルチアを(かくま)ってくれるはずだ。そうしたら以前のようにかつらをかぶって、各地を回りながらひっそりと暮らしていけばいい。



 日が傾き始めた外を見据え、ルチアはぐっと窓枠(まどわく)に足を掛けた。


【次回予告】

 はーい、わたしリーゼロッテ。抜け出したルチア様を必死に追うベッティ。自分の失態を責めつつも、カイ様に急ぎ報告します。一方、ルチア様は貴族街から出ることにも難儀して……?

 次回、6章第16話「ふたつ目のあざ」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!

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