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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第6章 嘘つきな騎士と破られた託宣

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番外編《小話》孤軍奮闘むなしく

※本編の時間軸とは関係ありません。ゆるっとお読みください。

「ほら、ルカ、ご覧なさい。ヴァルトお兄様はあんなに落ち着いているじゃない」

「ツェツィー様、そうおっしゃられましても……」


 仲睦まじげに座るふたりを扉の隙間からのぞき見しながら、こそこそと話し合う。


 先ほどからリーゼロッテは握った守り石に力を籠めている。そんなリーゼロッテを膝に乗せて、ジークヴァルトは無表情で書類に目を通していた。

 時折ジークヴァルトが紙の束を(めく)るくらいで、それ以外は静止画を見ているようだ。


 しばらくしてジークヴァルトの手が、リーゼロッテの髪を()きだした。一瞬だけ顔を上げるも、リーゼロッテは再び瞳を閉じて、手のひらに集中し始める。


 会話もないまま、秒針だけが時を刻んでいく。それなのにそこは穏やかな完成された世界に見えて、まるでふたりでひとつのようだと、ツェツィーリアはそんなことを思った。


「やっぱりルカは少し落ち着きがないのよ。もっとお兄様を見習って」

「そんな、ツェツィー様……」


 かなしそうな顔になったルカに少々心が痛む。だがここで(ほだ)されては駄目だ。隙あらばルカは口づけを迫ってくるのだから。


 やたらと人目のない場所に連れていこうとするし、この前は本棚の間で不意打ちを食らってしまった。すぐそこに従者のグロースクロイツがいるのに、見えないのをいいことにいつも以上に長く口づけられた。


 怒りの形相で抗議をしても、ルカは常にどこ吹く風だ。翻弄されっぱなしのツェツィーリアにしてみたら、実に気に入らない事態だった。


 いつかは一矢(いっし)(むく)いたい。


 その瞬間を虎視眈々と狙っていた。ルカは考え込むようにジークヴァルトたちを見つめている。無防備なルカの横顔を前に、ツェツィーリアはにっと形のいい唇の両端をつり上げた。


 その頬にいきなり口づければ、さすがのルカも面食らって狼狽(うろた)えるに違いない。思いもよらない反撃に、これ以上なく目を見開くルカの顔が浮かんだ。


「ルカ」


 二の腕をぐいと引き寄せ、勢いのままルカの頬を狙い撃つ。


 性急な動作で、かなり強引に引っ張った。だから、それはまんまと成功するかに見えたのに――


 寸でのところで、ルカが端正な顔をこちらに向けてきた。真正面で向き合う形になって、驚いたツェツィーリアは咄嗟(とっさ)に身を引こうとした。

 が、そのまま腰を引き寄せられて、あっさりと唇を奪われる。


「……なんてこと、してくれるのよ」


 息も絶え絶えつぶやいた。深く長く口づけられて、ようやくルカは離れていった。


「あれ? てっきりおねだりかと」

「そんなことあるわけないじゃない……! 馬鹿ですのっ!」


 頬を真っ赤に染めて、両のこぶしを振り上げる。そんなツェツィーリアの(ひたい)の上に、ルカは愛おしそうにもう一度口づけを落とした。


 言葉を失ったツェツィーリアが、さらに真っ赤になったのは言うまでもない。


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