表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第4章 宿命の王女と身代わりの託宣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

419/494

番外編《小話》それを言葉であらわすならば

ムーンライトでゆく年くる年企画・第1弾~ありがとう2020年~として書いたものです。

※本編の時間軸とは関係ありません。ゆるっとお読みください。

「リーゼロッテお姉様……ルカのことでちょっと」


 フーゲンベルク家のサロンでのこと。おしゃべりの途中で声を(ひそ)めたツェツィーリアの口元に、リーゼロッテはそっと耳を近づけた。


「ルカがその……すぐふたりきりになりたがるから、わたくしちょっと困っていて……」

「まあ、ふたりきりに?」

「カーテンの物陰とか本棚の奥とかテーブルの下とか、すぐに引っ張り込もうとするのよ」


 無意識に唇を小さな指で押さえながら視線をそらす。頬を染めるその様子に、ルカの目的が丸分かりだ。


「わたくしから注意いたしましょうか?」

「だ、駄目よ! お姉様に泣きついたなんてルカに思われるのは悔しいわ」

「でしたらフーゴお義父様にお願いしてルカに……言うのも駄目ですわよね」


 意地っ張りのツェツィーリアは、あくまで自分の力で対処したいようだ。


「ねぇ、お姉様はどうしているの?」

「どう……とおっしゃられましても……」

「お姉様は大人でしょう? ふたりきりのとき、どうやってヴァルトお兄様をかわしているのか知りたいわ」


 前のめりで聞いてくるツェツィーリアに、リーゼロッテは戸惑った。ふたりきりのときジークヴァルトが自分にどうこうしてくることはほとんどない。


(むしろ人目のある場所ばかりでキスされているような……)


 ジークヴァルトの口づけはいつも唐突だ。誰も見ていない馬車の中なら、いくらでもしてくれてもいいのに。そんなふうに思っても、恥ずかしくて自分からは言いだせないでいる。


 しかし未来の姉として、ここはしっかりアドバイスすべきだろう。期待に満ちた瞳のツェツィーリアに、リーゼロッテはどや顔で頷いた。


「こういったことは初めが肝心ですわ。嫌なものは嫌だと、はっきり言うことが大事です。節度を持たない殿方は嫌いだと言えば、ルカだってきちんと分かってくれますわ」


 なんてことはない、ベッティの受け売りだ。嫌だと言っても(ほだ)されて、結局はあーんも抱っこもすべて許してしまっている。そんなリーゼロッテの言葉に、説得力はまるでない。


「だけどルカってば、婚約者だからふたりきりになるのも口づけるのも、何もおかしいことじゃないって言い張るのよ。それにわたくし、別に、い、嫌っていうほどではないし……」


 唇を尖らせつつ、もじもじと恥じらう姿にきゅうんとなる。思わずツェツィーリアを胸に抱きしめた。


(ルカの気持ちがよく分かるっ)

 ツェツィーリアが可愛らしすぎて、くらくらと眩暈(めまい)がしてくる。


「お、お姉様?」

「ああ、駄目ですわ……わたくしも我慢できない」


 顔を引き寄せ、薔薇色に染まる頬にやさしくちゅっと口づけた。ツェツィーリアは真っ赤になった頬を指で押さえ、はわはわと唇を震わせている。


「な、何? 何なのお姉様?」

「家族の親愛のしるしですわ」

「え? 家族の?」


 うっとりとした顔で頷くと、朱に染めたままの頬をツェツィーリアはぷっと膨らませた。


「申し訳ございません。わたくしツェツィーリア様が愛おしすぎて……」

「べ、別にいいわ、お姉様とは家族なんだから。わたくしだって昔はお母様やお父様とよくしていたもの」


 ぷいっと顔をそむけたかと思うと、今度はきっと睨みつけてくる。


「だからわたくしだってお姉様にするんだから!」


 少し怒ったようにリーゼロッテを引き寄せる。そのままツェツィーリアはリーゼロッテの頬にキスをした。


「家族の挨拶よ! いつしたっていいのよ、別に挨拶なんだもの!」


 恥ずかしさをごまかすように、早口でまくしたてる。それがまた愛らしすぎて、リーゼロッテは(たま)らず、もう一度やわらかな頬にキスを落とした。



「義兄上……大好きな姉と言えど、ツェツィー様をとられたくないと思ってしまうわたしは狭量(きょうりょう)な男でしょうか?」

「いや、その気持ちは分からなくもない」


 ルカとジークヴァルトはそんなふたりの様子を、先ほどから遠巻きに眺めやっていた。


「そうですか、少しだけ心が軽くなりました」

「ああ」


 ずっと見つめ合ったまま、リーゼロッテとツェツィーリアは互いの頬を両手で包み込んでいる。

 リーゼロッテがツェツィーリアの(ひたい)に口づけた。お返しのように今度はツェツィーリアがリーゼロッテの(ひたい)に口づける。


「義兄上……もうひとつだけお(うかが)いしたいのですが……」

「なんだ?」

「もしもあのふたりの間にわたしも入ることができたなら、どんなにしあわせだろうかと……そう考えているわたしを、義兄上はどう思われますか?」

「では、逆に問おう。その言葉をこのオレが言ったとしたら、ルカ、お前はどう思うんだ?」


 頬を染め、恥ずかしげに見つめ合うふたり。それは何人たりとも足を踏み入れてはならない花園に咲く可憐な花を思わせて。


「義兄上。わたしが間違っておりました」

「そうか。分かればいい」



 あの世界に男が入りこむなど――


((万死(ばんし)(あたい)する))


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ