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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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15-2

     ◇

 リーゼロッテは同じソファの上、ジークヴァルトの膝と膝の間に座っていた。

 ジークヴァルトの腕が後ろから囲うように降ろされ、その手はリーゼロッテの腹のあたりで組まれている。


「力を抜いて楽にしてろ」


 守り石のペンダントを外した状態だったので、リーゼロッテは少し緊張していた。

 ジークヴァルトはそっとリーゼロッテの力を探った。やはり、薄い膜のようなものがリーゼロッテを覆っているのが感じられる。


 あの日、ジークヴァルトは、ゆっくりとその膜がほどけていくのをこの目で見た。あの感覚を思い出してみる。膜が解けた直後、眠ったリーゼロッテから力が解放されたのだ。


 ジークヴァルトは自らの力を注意深くほんの少しだけリーゼロッテに注いでみる。その力は、瞬時に膜に吸い込まれて消えてなくなった。


(これが拒絶か)


 自分の守護者が言っていたことを思い出す。

 守り石の自分の力がリーゼロッテを覆っていたため、膜がそれから守るようにしてバリアを張り、眠ってもリーゼロッテの力が解放されなかったのだ。客間の結界がそれを助長する結果になった。


 ジークヴァルトは次に、リーゼロッテの力を引き出せないか試みた。膜が解ける感覚をイメージして。


「ふ」

 リーゼロッテの口から、小さな吐息がもれる。


 ジークヴァルトの力に引っ張られるように、膜の隙間からリーゼロッテの力がほんの少しだけ漏れ出てきた。それは針穴のような小さなものであったが、確かにそれは外に導かれていた。

 ジークヴァルトは一度力を注ぐのをやめた。それに合わせてリーゼロッテもくたりともたれかかってくる。


「大丈夫か?」

 上からのぞき込むと、リーゼロッテは顔を上げこくりと頷いた。

「続けても大丈夫です」

 そう言うと、リーゼロッテはその緑の瞳をそっと閉じた。


 リーゼロッテの長い睫毛が、その頬に影をつくる。ジークヴァルトはそれを上からじっと見つめていた。


「ヴァルト様?」


 不思議そうにリーゼロッテがジークヴァルトを見上げ、上目遣いの視線を送ってきた。

 しばらくじっと見つめ合ったあと、ジークヴァルトは何も言わずにリーゼロッテの両手を自分のそれですっぽりと包み込んだ。


 ジークヴァルトに手を取られ、リーゼロッテの鼓動がどきりと跳ねた。


「ここにオレの力を集める。……感じるか?」


 そう言われ、リーゼロッテは握りこまれた自分の手のひらの中を意識する。そこには、いつも守り石に感じるあたたかいものが感じられた。


(ヴァルト様だ――)

 青い光を感じてリーゼロッテはこくりと頷いた。


「ゆっくり凝縮してから解放する。お前はただ感じていろ」


 リーゼロッテは力を抜いて手のひらのあたたかさに意識を集中した。


 ジークヴァルトの言うように、あたたかなそれはその密度を増し、きゅうっと小さくなっていく。凝縮された青い塊は、今にも破裂しそうに張り詰めた。

 それが一気に解放される。コルクの栓を開けるような感覚だと、リーゼロッテは思った。


「感じたか?」


 ジークヴァルトの問いに、リーゼロッテは小さく「はい」と頷いた。


「今度はお前の力だ」


 そう言って、ジークヴァルトはリーゼロッテの小さな手を包む自分のそれを、リーゼロッテの胸の前まで運んだ。


 リーゼロッテの力を慎重に引き出してみる。針穴のような隙間から、リーゼロッテの力が集まってくる。ジークヴァルトはそれをゆっくりと集めていった。


 自分の力よりずっと時間がかかる。ちらりとリーゼロッテの様子を伺うが、苦しそうな様子は見られなかった。そのままゆっくりとリーゼロッテの手のひらの中にためていく。


「お前の力だ。わかるか?」

「はい、わかります」


 リーゼロッテは目を瞑ったままひそやかに答えた。


 ジークヴァルトは、そのまま力を凝縮していく。うんと少ない量だったが、凝縮された力は緑の綺麗な色を放っていた。


「いくぞ」


 ジークヴァルトはそれを一気に解放した。ぽんとした感覚をリーゼロッテは覚えた。

(今度はマーブルチョコの筒を開けたときみたい)

 そんなことを思ってリーゼロッテは心の中でくすりと笑った。


「感じたか?」


 ふいに耳のもとで言われ、再び心臓が跳ねる。


「は、はい。感じました」


 そう返事をすると、自分でもやってみるよう促される。

 手のひらに意識を集中した。ジークヴァルトの導きの中、ほんの少しだけ力が集まったのを感じる。


「そのままそれを圧縮してみろ」


 そう言われて手のひらに意識を傾けるが、うまくいかない。そうこうしているうちに、手のひらの中のそれはふわりと広がり、大気に溶けてなくなった。


「ああ」

 リーゼロッテがそう声を上げると、ジークヴァルトは包んでいた手のひらを解放した。


「今日は終わりだ」

「でも」と斜め後ろを振り返ったリーゼロッテは、思いのほか近いジークヴァルトの顔に狼狽した。あやうく唇がふれそうな距離だった。


 ボッとリーゼロッテの顔が赤くなり、なぜか組んだ手のひらからポンと力が飛び出した。

 びっくりして両手を開いて見やるが、何も変わったところはない。意識を集中してみても、おもしろいくらい何事も起きなかった。


「無理はするな。倒れるぞ」


 そう言ってジークヴァルトは、リーゼロッテの口にクッキーをひとかけら押し込んだ。

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