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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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26-2

「アンネマリー、リーゼロッテ、ほらふたりで並んで見せて」


 ジルケに促され、アンネマリーの隣に行く。


「ふふ、こうやっておそろいのドレスをふたりに着せるのが、わたくしたちの夢だったの。ようやく叶ったわね、ジルケお姉様」

「そうね、ふたりがそうやって並んでいると、お伽の国から迷いこんだ精霊みたいよ」


 クリスタとジルケが目を細めながら言う。同じ織物で仕立ててはあるが、ふたりのドレスはそれぞれデザインが違っていた。


「アンネマリーのドレスはリボンが素敵ね」


 右肩にあしらわれた大きなリボンがいちばんに目を引いた。胸が注目されないように、胸もとはあえてシンプルにデザインされており、全体的には初々しい印象のドレスに仕上がっていた。

 一方、リーゼロッテはボリュームを出すため、胸元は多めのフリルがあしらわれている。それ以外はシンプルなデザインで、どちらかとういうとリーゼロッテの方が大人っぽいデザインだ。


 ナイスバディすぎるアンネマリーは妖艶に見えないように。幼児体系のリーゼロッテは少しでも大人びて見えるように。お互いがお互いの体型をうらやましく感じているのだが、どちらも所詮はないものねだりだ。コンプレックスとは得てしてそういうものだろう。


「リーゼロッテお嬢様……アンネマリー様も、本当にお美しいです」


 エラが感動で目を潤ませている。そのエラの両脇にエーミールとニコラウス、後ろにはヨハンがいた。


「それにしても、リーゼは随分と公爵様と打ち解けたのね」

「え、ええ、そうね」


 アンネマリーの言葉に頬が赤くなる。打ち解ける方向が間違っているような気がしてならないが、あのジークヴァルト相手では軌道修正するのも難しい。


「おい、勝手に離れるな」


 ふいに後ろから引き寄せられる。ジークヴァルトの腕の中に収まって、リーゼロッテは呆れたようにその顔を見上げた。


「数歩離れただけではございませんか」

「絶対に離れるなと言っただろう」


 さらにぎゅっと抱き寄せられて、周囲から冷やしの声が上がる。臆面もなくこんなことをされると、こちらの方が数倍恥ずかしくなってしまう。

 やめてほしいと思うが、今は悪目立ちミッション発動中だ。仕方なしに、リーゼロッテも周囲に見せつけるように、ジークヴァルトの胸に頭を預けた。


「フーゲンベルク公爵、ご歓談中のところ失礼します」

 人波を縫うように近づいてきたのはブラル伯爵だった。令嬢をひとり連れている。


「娘がどうしてもご挨拶申し上げたいというもので……さあ、イザベラご挨拶を」

「フーゲンベルク公爵様、お初にお目にかかります。この国の宰相を務めますブラル伯爵の娘、イザベラでございます」


 イザベラは優雅に礼を取り、その顔を上げた。艶やかな栗色の髪は見事な縦ロールだ。動きに合わせてその縦ロールが、びよんびよんと大きく跳ねる。その様はしなやかなばねを思わせた。

 頬を染めながらジークヴァルトを見上げるイザベラの瞳は、それは見事なたれ目だった。父親であるブラル伯爵と並ぶ姿は、どう見ても親子ですよね、といった感じだ。


「公爵様、わたくし、どうしても公爵様とダンスがしたくて……。もちろん踊っていただけますわよね?」


 無言のままでいるジークヴァルトにイザベラは上目遣いを送る。その様子は、自分が断られるはずがないと自信に満ちていた。隣にいるリーゼロッテなどガン無視状態だ。


「断る。ダーミッシュ嬢以外と踊る気はない」


 そっけなく言われたイザベラが「えっ!?」と声を漏らした。


「ほら、言っただろう? 公爵様にはこんなに可愛らしい婚約者がいらっしゃるんだ。イザベラにはわたしが良縁をみつけてくるから、ちゃんといい子にしていてくれるね?」

「……分かりましたわ、お父様」


 言葉とは裏腹に、イザベラが滅茶苦茶不服そうな声音で答えた。それを見たブラル伯爵はデレデレした様子でうんうんと頷いている。


「イザベラは本当に素直でいい子だ。可愛すぎて婿なんか見つからなければいいと本気で思ってしまうね」


 親馬鹿が極まったような締まりのない顔になる。そこにニコラウスが割って入ってきた。


「父上、何恥ずかしいことを。イザベラもこれ以上我儘を言うんじゃないぞ」

「分かっていますわ、お兄様」


 ツンと顔をそらすと、縦ロールがビヨンと上下に跳ねた。リーゼロッテは思わずその動きを目で追ってしまう。


(それにしても遺伝ってすごいわね)


 ブラル伯爵とニコラウス・イザベラ兄妹が並ぶと圧巻だ。目のたれ具合、鼻の位置、口の形に至るまで、レプリカのごとくそっくりだった。

 笑ってはいけないと思いつつ、口元が緩んでしまう。リーゼロッテは唇をムニムニさせながら、このままでは笑いかねないと三人からそっと目をそらした。


 視線を感じてそちらを見上げると、ジークヴァルトの口元もなぜかムニムニしている。ジークヴァルトの鉄面皮をもってしても、三人の顔面遺伝子には勝てなかったのか。そんな風に思ったリーゼロッテだが、その実ジークヴァルトはリーゼロッテの唇に目がくぎ付けになっていただけだ。


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