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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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8-7

     ◇

「ううう、ずびまぜんんぅ」

「大丈夫か、侍女殿」


 道端(みちばた)でうずくまるベッティの背中を、ヨハンは気づかわし気にさすっていた。


「まったく、侍女の分際で馬車に酔うなど……」

 その後ろでエーミールが呆れたまなざしを向けている。


「ぞんなごど言われまじでぼぉ、騎士様もあの中に入ってみればわがりまずよぉう」


 うつむいたままベッティが公爵家の馬車を指さしている。リーゼロッテは外に出ないようにと()(ふく)め、馬車の中で待たせてあった。窓から心配そうにベッティを見つめているようだ。


「何を訳の分からないことを」


 エーミールが冷たく言い放つ。いきなりすっくと立ち上がったかと思うと、ベッティは(つか)みかかるようにエーミールに詰め寄った。


「きじざまぁ。わたじ馬に乗れまずのでぇ、騎士ざまの馬を貸していただげまぜんかぁ? 騎士様が馬車に乗って、リーゼロッテざまのお相手ぼして差し上げでぐだざいぃっ」

「なっ!? 馬車とはいえ、リーゼロッテ様とわたしがふたりきりになれるわけないだろう!?」

「ぞこをなんとかぁっ……うっ、あっ、で、でるぅぅぅ、おぼぼぼぼぼぼ」

「うわっ貴様なんてことをっ」

「あああ! 侍女殿! エーミール様!!」


 エーミールの騎士服をつかんだままのベッティの口から、自主(じしゅ)規制(きせい)のものがキラキラとあふれ出す。これがテレビならモザイクものだ。


「きゃあ、ベッティ大丈夫!?」


 カオスな惨状(さんじょう)を見ていたリーゼロッテが、(あわ)てて馬車から降りて駆け寄ってきた。


「リーゼロッテ様! あなたは馬車から出ないようにと言ったはずだ!」


 可能な限り距離を置こうと、ベッティの頭を片手で(つか)んで遠ざけていたエーミールが、リーゼロッテに向かって冷たく叫んだ。目の前の惨劇(さんげき)に動揺しながらも、冷静な判断は忘れない。


 ヨハンにベッティを押しつけると、エーミールはそのままリーゼロッテに向かって歩いて行った。騎士服が汚れていないことを確かめて、内心ほっと息をつく。


「こちらは大丈夫ですから、あなたは早く馬車に戻りなさい」

「ですが、ベッティが……」


 リーゼロッテの言葉を無視して、エーミールはその手を取った。背中に手を回して有無を言わさず馬車へと逆戻りさせる。

 流れるようなエスコートにリーゼロッテは逆らえず、あっさりと馬車の扉の前まで連れ戻された。さすがはイケメン貴公子(きこうし)なだけはある。


「さあ、中に戻って」


 ぐいと手を引かれてリーゼロッテはしぶしぶ馬車の中へと乗り込んだ。椅子に座る前にベッティの様子を(うかが)うと、ヨハンが甲斐甲斐(かいがい)しく世話をしている様子がみてとれた。


 なかなか座ろうとしないリーゼロッテに()れたように、エーミールが馬車の中へ半身を乗りあげた。


「なっ」


 馬車の内部の濃厚な空気に、エーミールは思わず顔をしかめた。

 この馬車はリーゼロッテを守るために、ジークヴァルトの力が覆っている。そのこと自体はエーミールは承知していたのだが、馬車の中にはリーゼロッテの聖女の力が息苦しいほどに充満していた。


(なんなのだこれは……)


 リーゼロッテの濃密(のうみつ)な力が、ジークヴァルトのそれによって(おお)われて、まるっと馬車の中に包みこまれている。

「グレーデン様……?」と不思議そうに首をかしげているリーゼロッテは、その異常さにまったく気づいていないようだ。


「……確かにこれでは酔うのもわかる」


 口と鼻を覆い隠すようにつぶやいたエーミールに、リーゼロッテは目を丸くした。


「え!? もしかしてわたくし、臭うのですか? 香水などは何もつけてはいないはずですが……」


 香油(こうゆ)などは肌や髪に塗られているかもしれない。匂いのきついものは人によっては気分が悪くなるだろうし、馬車のような密室ではなおさらだ。自分がスメルハラスメントをしているとしたら大問題である。


「いや、あなたの力が強すぎるのだ。侍女はそれで酔ったのだろう」

「わたくしの力が……?」


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