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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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8-2

「そういえば……カイ様がいらっしゃったとき、そのようなことをおっしゃっていましたわね」

「カイ……? ああ、王城からの視察で公爵家に来ていたそうね。あ、カイと言えば、今日ベッ――」


 そこまで言ってアデライーデは、言いあぐねるように何度か口をパクパクとした。


「べ……?」


 リーゼロッテが不思議そうにアデライーデを見ると、アデライーデは口をつぐんで首を横に振った。


「いいえ……何でもないわ」

 真剣な顔でそのまま押し黙る。アデライーデはぎゅっと眉根を寄せた。


(今の……龍が、目隠(めかく)しをした……?)


 アデライーデは龍から託宣を受けた身ではないが、龍の目隠しの存在は知っている。

 託宣を終えた者たちは、次代の託宣を受けた者たちに多くを語らない。どんなに困った事態に(おちい)ったとしても、託宣にまつわることに関して助言することもない。


 しかしそれは語らないのではなく、語れないというのが本当のところだ。どんな力の作用なのかはわからないのだが、言いたくとも言葉にならないらしい。


 『龍の目隠し』と呼ばれるこの現象は、託宣に関する情報がむやみに広がらないためのものだと考えられていた。


(わたしの身にもおこるなんて……。でも、どうしてベッティが……?)

 アデライーデは昼間に見かけた侍女のことを聞こうとしただけだ。


 龍は他者に知られてはならない情報を制限する。

 何事もないかのように過ぎている日々にも、それとは気づかず、龍の力が託宣者たちを取り巻いているのだ。そう思うとアデライーデは漠然(ばくぜん)とした恐怖を感じた。


「お姉様……?」


 考え込んでいるアデライーデを、リーゼロッテが気づかわし気に見上げている。それに気づき我に返って笑顔を作る。


「なんでもないのよ。……次に会えるのは白の夜会ね」

「お姉様は、夜会では眼帯(がんたい)をお付けになるのですか?」

「そうね。正直言って、ないほうが鬱陶(うっとう)しくなくて楽なんだけど、見ていて楽しいものじゃないでしょう? 普段付けてるものだとマダムに怒られるから、夜会(やかい)仕様(しよう)の眼帯をドレスと一緒に作ってもらってるのよ」


 今は実家にいるということもあってはずしっぱなしだが、アデライーデは左目の上下にかかる傷を隠すために、普段は眼帯を付けて過ごしている。不躾(ぶしつけ)な視線にはもう慣れたが、同情の目で見られるのはたまらく不快だった。


「まあ、そうなのですね。昨日のドレス、アデライーデ様の雰囲気にぴったりでとってもお似合いでしたわ」

「そう? ありがとう。リーゼロッテのドレス姿も楽しみにしてるわ」

「マダム・クノスペは、本当にわたくしのドレスを一から作り直すのでしょうか……」

「やるといったらマダムはやるわ。妥協(だきょう)という言葉を知らないのよ、あの人は」


 遠い目をしてアデライーデは言った。


「でも、せっかくお義母(かあ)(さま)がデザインを考えてくださったのに……」

「一生に一度のデビューだもの。クリスタ様も賛成してくださると思うわよ。今仕立てているドレスは別の機会にお披露目(ひろめ)すればいいのだし」


 確かに今作ってもらっているドレスはどちらかというと可愛らしいデザインで、オクタヴィアの瞳にはそぐわないかもしれない。ジークヴァルトから贈られたオクタヴィアの瞳は、とにかく恐れ多いほど豪奢(ごうしゃ)なものだった。


「明日は早くに出ないといけないから、わたしはそろそろ失礼するわ。リーゼロッテも気を付けて帰るのよ」


 リーゼロッテの頬をするりとなでる。


「はい、お姉様もお気をつけて」

「ありがとう、リーゼロッテ」


 アデライーデはそう言うと、リーゼロッテの頬にちゅっとキスをした。

 ()れたビョウのように頬を赤く染めるリーゼロッテを「ああん、かっわっいっいぃっ! やっぱり持って帰るぅっ」と悶絶(もんぜつ)しながらかき抱く。


「いい加減にしろ」


 そのタイミングでジークヴァルトが、()れたようにアデライーデからリーゼロッテを引きはがした。


「ん、もう! 心の(せま)い男は嫌われるって言ったでしょ」


 不服そうに言ってはみたが、ジークヴァルトの腕の中に納まるリーゼロッテをながめて、アデライーデは満足そうに口角を上げた。


「じゃあ、リーゼロッテ、また夜会で会いましょう」


 ジークヴァルトごとリーゼロッテを抱きしめると、アデライーデは晩餐(ばんさん)の部屋を後にした。

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