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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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7-7

     ◇

「ふんふんふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながらアデライーデは屋敷の廊下を歩いていた。供もつけずにいるのは、小言を言う気心の知れた侍女をまんまと()いてきたからだ。

 公爵令嬢という立場から単独行動をとるのはいかがなものだが、騎士として日々鍛錬(たんれん)を欠かさないアデライーデを(おそ)うものなどこの屋敷にいるはずもない。


 目指すはジークヴァルトの執務室だ。

 久しぶりの実家であるが、(ひま)を持て余してしょうがない。今頃はリーゼロッテといちゃついている頃だろうから、ここはジークヴァルトをからかいに行くしかないだろう。


 執務室の少し手前で、アデライーデは一人の侍女とすれ違った。その侍女はアデライーデに(ひか)えめに礼をとると、足早に廊下の向こうへと去っていく。


「あら? 今のベッティじゃなかった……? どうしてあの()公爵家(うち)にいるのかしら?」


 そう首をひねったものの、執務室のドアノブを回す頃にはそんなことは頭から消えてしまう。


(さあ、どうやってからかいたおそう!)

 嬉々(きき)として、アデライーデは乱暴に執務室の扉をノックもせずに開け放った。


     ◇

 公爵家の入り組んだ廊下を進むと、すれ違う使用人たちに次々と声をかけられる。

 相手の(ふところ)に入るのは得意な方だが、公爵家の者たちは危機感というものが欠如(けつじょ)しているように思えてならない。


「ねぇ、坊ちゃま……ここは、ほんとに居心地(いごこち)がいいですよぅ」


 独り言がぽつりと()れる。今まで入り込んだどの屋敷よりも、ダントツだ。いい人たちに波風(なみかぜ)の立たない平和な日々。居心地が良すぎて、かえって身の置き場がなく思えてしまう。


「あ、ベッティさん! この前教えてもらったお店に行ったら、ほしいものがみつかったの! ありがとう! これはお礼よ」


 通りがかったところを捕まえられて、掃除担当の使用人に紙袋を渡される。


「わぁうれしいぃ。わざわざありがとうございますぅ」


 大げさによろこんで紙袋を受け取った。中に入っていた菓子を、行儀悪(ぎょうぎわる)く口に放り込みながら廊下を進む。人の気配には敏感だ。進む先に誰もいないのは、気配を探ればたやすく分かる。


 人気のない廊下で、ふいに目の前を小さな異形の者が横切った。不自然に目がきゅるんとして、不細工(ぶさいく)なことこの上ない。

 二匹の異形はきゃっきゃとはしゃぎまわっている。ベッティに気づかないまま、廊下の真ん中でじゃれあう姿はすこぶるたのしそうだ。


 ベッティは菓子を手に持ったまま、無言で腕を上から下へと降り下げた。

 ぴぎゃっと叫び声をあげたかと思うと、二匹の異形はそのままじゅっと消し飛んでいく。


「正直、虫唾(むしず)が走るんですよねぇ」


 居心地(いごこち)のいい環境も。気の良い仲間も。慈悲深(じひぶか)く、純真無垢(じゅんしんむく)な令嬢も――


 異形が消えた床をしばらく見つめたあと、何事もなかったようにベッティは菓子をほおばりながら再び廊下を進み始めた。

【次回予告】

 はーい、わたしリーゼロッテ。アデライーデ様との楽しい時間はあっという間に過ぎて、ダーミッシュ領へと帰ることになったわたし。ジークヴァルト様たちに見送られて、馬車へと乗り込んだはいいけれど、お目付け役の侍女ベッティがわたしのパワハラで大ピンチに!?

 次回、2章 第8話「龍の目隠し」 あわれなわたしに、チート、プリーズ!!

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