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「旦那様はぁ、本当にリーゼロッテ様を溺愛されてるんですねぇ」
ベッティに連れられながら、リーゼロッテは再び執務室へ向かう廊下を歩いていた。
あの後部屋に戻ったリーゼロッテは、乗馬用のドレスから部屋着に着替えて昼食を済ませた。それが済んだら執務室へと来るようにジークヴァルトに言われたのだ。
「溺愛というか……とても大切にしていただいているわ」
「あれぇ? 朝と違って、ずいぶんと素直に受け取られるんですねぇ。何か心境の変化でもございましたかぁ?」
「……先程、アデライーデ様にわたくしの態度をたしなめられてしまったの。ジークヴァルト様がお忙しい中お心を砕いてくださっているのに、確かに今までのわたくしの態度は失礼だったと反省したのよ。だから、これからは素直に受け取ろうと思って……」
「リーゼロッテ様がよろしいのならベッティは何も申しませんがぁ、嫌なことは嫌ときちんとおっしゃった方がよろしいですよぉ。旦那様のようなタイプの殿方は甘いを顔しているとぉ、どんどん行動がエスカレートしていきますのでぇ」
ベッティがそう言うと、リーゼロッテは少し困ったような顔をした。
「抱きかかえられて運ばれるのは、正直恥ずかしいからやめていただきたいのだけれど……」
リーゼロッテが警戒してるせいか、最近は抱っこで輸送されることもほとんどなかった。だから、今日はちょっと油断をしていたのだ。
以前、急に抱き上げるのはやめてくれと言ったからだろう。抱える前に言葉が添えられたが、完全に言葉のチョイスミスだ。抱くぞ、とジークヴァルトが言ったとき、周りにいた使用人がみなぎょっとした顔をしていた。
そのことを思い出して、リーゼロッテの頬が朱に染まる。
「そのくらいならよろしいんじゃないですかぁ? 特に今日は乗馬用のドレスをお召しでしたし、わたしなら楽ができたと大喜びしますけどぉ」
乗馬用のドレスは横乗りをしたときに足が隠れるように、スカートの前の部分が長くデザインされている。歩くときは裾を持ち上げて慎重に歩く必要があるので、確かに歩きづらいと言えた。
「そうね。ヴァルト様はきっと、わたくしが歩きづらいと思って運んでくださったのね」
ものは考えようだとリーゼロッテはあきらめ気味に微笑んだ。
「それにしても、フーゲンベルクの眠り姫様は、弟君にお甘いのですねぇ」
「フーゲンベルクの眠り姫?」
「リーゼロッテ様はご存じないのですかぁ? 社交界でアデライーデ様は、そのように呼ばれておいでなんですよぅ。なんでもアデライーデ様は病弱でぇ、行く先々でお倒れになっていたそうですぅ」
「え? アデライーデ様はどこかお体がお悪いの!?」
「わたしは以前勤めていたお屋敷で噂話に聞いただけですのでぇ、詳しいことは存じ上げませんねぇ」
そんな会話をしているうちにふたりは執務室に到着した。




