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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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5-5

 一口飲んで、リーゼロッテはグラスの中の果実水を、ゆっくりと揺らしながらくるくる回した。


「ふふっ」

 自然と口元に笑みが浮かぶ。


「……なにがおかしい?」

「いえ、とてもうれしくて……」


 どんな贈り物より、今の言葉の方がうれしかった。例え、エッカルトに(うなが)されたものだとしても、いつも無駄口(むだぐち)をきかないジークヴァルトが、懸命に考えて言葉にしてくれたのだ。


 頬を染めて微笑むリーゼロッテに、「そうか」と言ってジークヴァルトはついと顔を逸らした。


「で、話とは何だったのだ? カイに用があったと聞いたが」


 ジークヴァルトもこの晩餐の席が、リーゼロッテが本当に望むものとは思ってはいないらしい。特に隠す理由があるわけではないので、アンネマリーに頼みごとをされたことをリーゼロッテは素直に話した。


「初めはヴァルト様にお願いして、カイ様に届けていただこうと思っていたのです」

「そうか」


 先ほどのやり取りで、リーゼロッテの緊張はすっかりほどけていた。アルコールが入っているわけではないのに、場の雰囲気に少し酔っているのかもしれない。


「ヴァルト様。白の夜会ではわたくしと踊っていただけますか?」


 そんな言葉もするりと出てきた。デビューの夜会のファーストダンスは、身内の男性と踊るのが決まりなので、リーゼロッテは義父のフーゴと踊る予定だ。それが済んだ後は、誰と踊っても構わないことになっている。


 ジークヴァルトは無表情でリーゼロッテの顔を見つめた。


「むしろお前は、ダーミッシュ伯爵とオレ以外とは踊らない方がいい。……行けば分かると思うが、人が集まる場所には異形の者も集まりやすい。舞踏会ではオレか伯爵か、必ずどちらかのそばにいろ」

「まあ、そうなのですね。……では、カイ様となら踊ってもかまいませんか?」


 異形の者が問題というならば、異形を(はら)う力を持つカイが相手ならば大丈夫だろうか? 他意はなく何気(なにげ)なく聞いてみただけなのだが、一瞬、ジークヴァルトの眉間にしわがよった。


「……カイなら……別に、かまわない」


 無表情に戻ったジークヴァルトはそう言って、グラスの液体を一気にあおった。すかさずエッカルトがグラスに果実水を注ぐ。それをまたジークヴァルトはすぐにぐいと飲みほした。


「……旦那様」


 非難めいた声音のエッカルトに、ジークヴァルトは諦めたようにグラスから手を離した。


「いや、やはり駄目だ。白の夜会ではダーミッシュ伯爵とオレ以外とは踊るな」

「はい……承知しましたわ」


 少し残念そうなリーゼロッテをジークヴァルトはちらっとみやり、その後に、リーゼロッテの背後のさらに遠くをじっと見つめた。

 リーゼロッテもつられて、自分の後ろを振り返った。そこには、こちらを遠巻きに見ているおめめきゅるるん小鬼隊が、押しくらまんじゅうのようにぎゅうぎゅう身を寄せ合っていた。


「あ……あれは、その……」

「いい。オレもカークを通して()ていた」

「え?」


 その言葉に思わず壁際に控えていたカークに視線をやる。ジークヴァルトの言葉に、カークはぴしりと背筋を伸ばしなおした。


(なんかまるで、子供の見守りサービスみたい……)


 少し情けない気分になってリーゼロッテは眉を下げたが、どうやら叱られることはないらしい。そう思ってほっと息をついた。


「十匹までだぞ」


 不意にジークヴァルトにそう言われ、リーゼロッテはこてんと首をかしげた。


「十匹……でございますか?」

「ああ。アレをするのは一日十匹までだ」


 アレとは、どうやらドロデロの異形をきゅるんと可愛くすることらしい。それがわかるとリーゼロッテはうれしそうにはにかんだ。


「はい、お約束は必ず守りますわ」

「ああ」


 そう言ってジークヴァルトは、再びふいと顔を逸らした。

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