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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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2-5

「まったく、ヨハン様にも困ったものだわ」


 乗り込んだ馬車が(ゆる)やかに進みだすと、エマニュエルはため息をつきながら言った。公爵の馬車は揺れも少なく、相変わらず乗り心地がいい。


「それにしてもヨハン様は、カークそっくりでびっくりしましたわ……」


 馬車の窓から流れる景色を見やりながら、リーゼロッテは何かを探すようにきょろきょろと瞳をさ迷させた。


「何かございますか?」


 同じようにエマニュエルもリーゼロッテ越しに窓の外を覗き込む。しかし、穏やかな田園風景が広がるばかりで、特にこれと言ったものは見えない。


「カークがどうやって移動しているのか、気になってしまって……」

「言われてみると確かに……伯爵家にもいつの間にか来ていましたものね」


 エマニュエルは反対側の窓へも視線を向けた。しかし、そこにカークの姿はない。


「やはり後ろを走って追いかけているのかしら……」

「後ろを……?っふ、だとすると、相当な速さで走らねばなりませんね。あとでヨハン様に聞いてみましょう」


 リーゼロッテの言葉にエマニュエルは、吹き出すのをこらえながら言った。ヨハンは護衛として、馬車を追うように馬を駆っているはずだ。カークが後ろを走っていれば、邪魔で仕方ないかもしれない。


 馬車が軽く揺れて、リーゼロッテが抱える小箱の中身がことりと音を立てた。アンネマリーから預かった大事なものだ。

 (ひざ)の上で箱をぎゅっと握りしめる。これを返されたハインリヒ王子は、一体何を思うのだろう。


「……リーゼロッテ様……アンネマリー様と何かあったのですか……?」


 泣きはらした目をして戻ってきたリーゼロッテに一度は目をつぶったが、ジークヴァルトに報告しないわけにはいかないだろう。クラッセン家の侍女が上手に処置してくれたようだが、エマニュエルの目はごまかされなかった。


 リーゼロッテはしばし逡巡(しゅんじゅん)した後、膝の上の小箱を見つめたまま口を開いた。


「……白の夜会が終わったら、アンネマリーがまた隣国へ行ってしまうと言うので……それで……わたくしさみしくなってしまって……」


 リーゼロッテはそのまま押し黙った。嘘ではないのだろう。リーゼロッテの様子を見て、エマニュエルはそう思った。


(でも、それがすべてではないようね……)


 それ以上言いたくないということは、アンネマリーの個人的な問題か。ふたりが仲たがいしたとは思えないので、エマニュエルはそう結論づけた。


(リーゼロッテ様は他人に同調しすぎるきらいがあるから、これから先も心配だわ……)


 大切な従姉を思う涙ならば、今日の所はこれ以上問い詰めるのは無粋だろう。


(エラ様なら、もっと上手にお(なぐさ)めできるのだろうけど)


 心配をかけまいと淑女の笑みを浮かべるリーゼロッテを見て、エマニュエルはたわいもない話題を振って話を逸らした。わかりやすいくらいにほっとしているリーゼロッテを見て、思わず苦笑してしまう。


 この人はいずれ誰かに傷つけられる。エマニュエルにはそんな気がしてならなかった。

 ジークヴァルトやエラのように、過保護なままではいけないと思いつつ、自分自身もどうすればリーゼロッテを守れるだろうと、最近ではそんなことばかり考えている。

 可憐(かれん)無邪気(むじゃき)なだけの令嬢だったら、ここまで肩入れすることはなかっただろう。


(本当に不思議なお方だこと……)


 幾度(いくど)となく思ったことを、エマニュエルは再び胸中で繰り返していた。


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