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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第2章 氷の王子と消えた託宣

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1-3

     ◇

「ドレス作りって体力がいるのね……」

「お疲れ様でございました」


 エラの紅茶を飲みながらしみじみとつぶやくリーゼロッテに、隣で座っていたエマニュエルがねぎらうように声をかけた。エマニュエルは力ある者として、ダーミッシュ領まで付き添ってきていた。以前のアデライーデと同じくリーゼロッテのお目付け役ポジションである。


「でも、こんなにも大量のドレスを作る必要はあるのかしら? わたくし成長期で、すぐ着られなくなりそうだし……」

「夜会に同じドレスで行くわけにはいきませんからね。貴族として当然のことですわ」


 エマニュエルはさも当たり前のことのようにさらりと言った。貴族の世界にはもったいないという概念は存在しないらしい。

 貴族社会では一度着たドレスはそのままクローゼットの肥やしになるのだ。お金に余裕のない貴族などはリメイクをすることもあるが、それは嘲笑の種でもあるらしい。


「ドレスなどは必要経費というのは分かってはいるのです。ですが、その……ジークヴァルト様からはいつもいろいろと贈っていただいていますし、これ以上高価なものをいただくのはどうかと……領民の血税を無駄遣いしているのかと思うと心苦しくて……」


 義父から贈られるドレスはともかく、ジークヴァルトがくれるものは全て公爵領の経費だろう。公爵家に嫁いだ後ならまだしも、今はまだ婚約者の立場だ。そんなリーゼロッテのために湯水のごとく税金が使われていいはずもない。


「リーゼロッテ様……よいですか、ある程度お金を使うことは貴族の務め。恥じいるようなことではありません」


 贈り物の数を得意げに自慢する令嬢もいるくらいなのに、リーゼロッテは相変わらずの謙虚っぷりだ。血税などという、世間から隔離されて生きてきた深窓の令嬢とは思えない言葉にも、エマニュエルは困惑を隠せなかった。


 エマニュエルの硬い表情に、リーゼロッテはまたやってしまったのだと顔を曇らせた。日本での庶民の記憶が、リーゼロッテを貴族たらしめることを拒んでいる。


「それにリーゼロッテ様への贈り物は、すべて旦那様の私財で贈られています。領民からの税は使われていないはずですわ。ですから、旦那様からの贈り物は、快く受けとってくださいませんか」


 エマニュエルは懇願するように言った。ジークヴァルトがリーゼロッテから贈られたものを、すべて大事にとってあることを、エマニュエルは知っている。それこそリーゼロッテが子供の頃によこした判読不明な手紙であったとしても。

 同じだけの分量の愛を返してくれとは言わないが、もう少し主人の思いが報われていいのではと思ってしまう。


「まあ、そうなのね。わたくしてっきり……」


 リーゼロッテは口元に手を当て、しばし考え込んだ。税が使われていないのなら、まだ気も軽くなる。だが、贈り物の回数はもっと減らしてもいいのではないだろうか?

 リーゼロッテがダーミッシュ領に戻ってから一週間は経つが、再びジークヴァルトとの文でのやり取りが行われていた。リーゼロッテが日々の出来事をしたため、その返事とともに毎日のように何かしらの贈り物が届けられている。


 今日も王都の流行りのお菓子が山盛り届けられていた。おすそ分けをもらえる使用人たちはいたくよろこんでいるのでそれはそれでいいのだが、こうも毎日だとジークヴァルトも気疲れしないだろうか。


 リーゼロッテも贈り物はうれしい。ただ回数を減らしてもらいたいだけなのだ。なんでも従者のマテアスの話だと、リーゼロッテへのプレゼントはすべてジークヴァルトが自ら選んで手配しているらしかった。


 一カ月ほど公爵領で過ごし、ジークヴァルトの多忙な毎日を目の当たりにした。その後ではなお更、無理はしてほしくないと思ってしまう。幾度となく、これ以上気を使わなくてもいいと伝えているが、そのたびに問題ないと返されてきた。


(どうしたらヴァルト様に伝わるのかしら……)


 日々忙しくしているジークヴァルトを思いつつ、今日も今日とてリーゼロッテはお礼の手紙をしたためるのであった。

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