表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/494

30-3

     ◇

 足早に執務室へ戻ろうとするジークヴァルトの背を追って、マテアスはその少し斜め後ろをついていく。

 サロンの入口でエーミールが何か言いたげに立っていたが、マテアスは目礼するにとどめた。エーミールはマテアスを毛嫌いしている。何を言っても難癖(なんくせ)をつけられるのが落ちだった。


「旦那様、一体どうしたと言うのです? いきなり執務を放り出して飛び出していくなんて。毎回探して回るこちらの身にもなってくださいよ」


 無言で歩くジークヴァルトに声をかけるが、返事はない。眉間にしわを寄せているところを見ると、あまり機嫌はよろしくなさそうだ。

 ジークヴァルトを見つけた先に案の定リーゼロッテがいたので、マテアスはまた何かあったのかとも思ったのだが、特にリーゼロッテに変わった様子はないようだった。


(ひとりで抱え込む癖はあいかわらずか……)


 はぁ、というマテアスの大げさなため息が聞こえなかったふりをして、ジークヴァルトは無言で歩を進めていく。

 廊下を曲がった先で、先ほど別れた不機嫌の原因がひょいと壁際から現れたものだから、ジークヴァルトは眉間のしわをさらに深めた。


『さっき、言い忘れたことがあったんだ。この前のお詫びにちょっと一言だけ言わせてよ』


 その言葉を無視して、ジークヴァルトは守護者の横を素通りしていく。それを気にするでもなく、ジークハルトはあぐらをかいたまま、すいっとジークヴァルトの目の前に移動した。

 そのまま向かい合った状態で、ジークヴァルトの歩に合わせてジークハルトもバックしながら進んでいく。


『リーゼロッテって、ホントちょろいよね。……ちょろすぎて、これから先あんなんでやっていけるのか、(はた)から見てて心配になるレベルだよ』


 ジークヴァルトはその言葉に眉をぴくりと動かして、その時に初めて守護者へと視線を向けた。同じ高さの目線で、同じ色の瞳が見つめ返してくる。

 ジークハルトの表情はめずらしく真摯なものだった。


『言っとくけどヴァルト。異形の者なんかより、生きている人間の方がよっぽど(たち)悪いから。絶対にリーゼロッテをその手から離してはダメだよ』

「不測の事態なら仕方ありませんけどね。会いに行きたいならそう言ってくだされば、仕事の量を調整してきちんとおふたりの時間を作りますし」


 ジークハルトとマテアスの声が重なった。


『ま、そーゆうわけで、忠告はしたから』


 そう言ってジークハルトは天井高く浮き上がり、そのままするりと消えていく。

 最後にひょいと顔だけのぞかせたかと思うと『さっきも言った通り、当面はちょっかい出さないから安心してよ』と笑顔で言い残して、今度こそ顔をひっこめた。


「せめて理由と行先くらい言ってから出て行ってくださいよ。って、聞いてます? 旦那様」


 ジークヴァルトを追い越して置き去りにしていたことに気づき、マテアスは訝し気に振り返った。いつの間にか立ち止まっていたジークヴァルトは、じっと宙を睨んでいる。


「旦那様……?」


 その様子にはっとしたマテアスは、慌てたようにジークヴァルトに駆け寄った。


「ヴァルト様、もしかしてそこに守護者がいるんですか?」


 ジークヴァルトが睨む空間に目をやるが、マテアスは何も感じ取ることはできない。しかし、あの日以来リーゼロッテを避けていた(あるじ)が、突然その彼女の元に駆け付けたのだ。


(てっきり顔を見ない日々に耐えきれなくなって、突発的に会いに行ったんだと思ったのに……)


 つい先日あんな騒ぎがあったばかりで、どうしてこんな楽天的な考え方をしたのかと、マテアスはぎゅっと眉根を寄せた。

 あれ以来、力ある者が必ずリーゼロッテの護衛につくようになったので、異形のトラブルならジークヴァルトが側にいなくとも大ごとにはならないだろう。しかし、守護者に対しては正直お手上げ状態だ。


「いや、問題ない」


 ジークヴァルトはそう言って、再び廊下を進みだした。

 マテアスは何か言いかけようと口を開いたが、小さく息をついてからその後ろ姿を追った。不器用な(あるじ)が変な方向にこじらせているように思えてならない。


(早く婚姻の託宣が降りればいいものを……)


 そうすればすべてがうまくいく。


 マテアスは現状にもどかしさを感じながら、執務室までの廊下を無言で歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ