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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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第29話 守護者の本懐

 ――ヴァルトの子供、今すぐにでも宿してもらうから


 ジークヴァルトの口から紡がれた言葉に、リーゼロッテは一瞬、抵抗を忘れた。色をなくした唇を引き結び、確かめるように青い瞳をじっと見つめる。

 ひとつひとつの言葉の意味はもちろん分かる。分かるのに何一つ理解ができない。


「ハルト様の……おっしゃっている意味がわかりませんわ……」


 震える声で、リーゼロッテはそれだけをようやく口にした。


 今、目の前で自分を組み敷いているのは、ジークハルトなのだ。動揺に打ち震えながらも、どこか冷静な部分でそのことだけは理解した。

 だとしても、何がどうしたらこうなるというのだろう? どうあっても信じられない。なぜ? という疑問だけが頭の中を占拠していた。


「言った言葉、そのまんまだよ。それに王城でオレのお願い、ひとつ聞いてくれるって約束したよね? 忘れたなんて言わないでよ」


 そう言いながらジークハルトは眩しそうに目を細めた。


 仰向けに組み敷かれたリーゼロッテの長い髪が、執務机の上に広がっている。万年筆やインク壺などの事務用品が並ぶ机の上では、艶やかな蜂蜜色はなんともアンバランスな光景だった。


「……ヴァルト様はどうなったのですか?」

「心配しなくても大丈夫だよ。ヴァルトはこの中にちゃんといるから」


 今、自分が見ている光景も、リーゼロッテを押さえつけているこの手の感覚も、ジークヴァルトには何もかもが伝わっているはずだ。ジークヴァルトにしてみれば、自分がやっている自覚があって、ただ心が伴わない状態だろう。


 意識の奥に閉じ込めたジークヴァルトの抵抗を感じながら、ジークハルトは手首を押さえつけたまま、リーゼロッテの首筋に顔をうずめた。かすかな笑い声と共に、その吐息がリーゼロッテの耳にかかる。


「ヴァルトの言ってた通りだ。リーゼロッテ、君はとてもいい匂いがするね」


 くすくすと笑いながら、首筋に唇を滑らせる。


 守護者は守護する相手と常につながる存在だ。その者が何を見、何を感じ、何をどう考えているのか、守護者には余すことなく伝わってくる。ジークヴァルトが経験してきたすべてを、ジークハルトはつぶさに感じ、その傍らで見守ってきた。

 肌の上を這う舌の動きに全身が泡立ち、ぞくりとした不快感にリーゼロッテは身をよじった。


「それで抵抗してるつもり?」


 足をばたつかせて逃れようとするも、大きな体でのしかかられて簡単に動きを封じられてしまう。ドレス越しに足を割られて、ぐっと腰を押し付けられる。


「お願いです! やめてくださいませっ」


 肩を浮かして掴まれた手首を振りほどこうと、リーゼロッテは必死にもがいた。その様子をジークハルトは楽しそうに眺めている。


「無駄なのに。こんな細い腕じゃ何もできやしないよ」


 掴んだ手首をリーゼロッテの頭上へ持っていくと、ジークハルトは片手で両方の手首をまとめて掴みなおした。空いた手がリーゼロッテの体の線に沿って滑り落ちていく。

 脇から腰にかけてやわらかくなぞっていく手に、リーゼロッテは身を震わせた。


 ジークハルトはそのまま胸元へ手を伸ばし、襟元のラインをゆっくりと指で辿っていった。鎖骨から胸の谷間へ滑り落ちた指先は、胸の真ん中でドレスの内側へと遠慮もなしに侵入していく。

 リーゼロッテの胸の谷間の上部にある龍のあざを、人差し指の腹で柔らかくくるくるとなぞる。突然灯った体の熱に、リーゼロッテの頬は上気し否応なしに息が上がっていく。


「ぁ……は……や、めて」

「中身がヴァルトじゃなくても、体はきちんと反応するんだ」


 あざを執拗に指でなぞりながら、ジークハルトはリーゼロッテの反応にくすりと笑った。


「どうして……こんなひどいことをなさるのですか……」


 龍のあざに触れられ熱くなる体とは裏腹に、リーゼロッテの心は恐怖で固まっていく。じわりと涙が滲み、その緑の瞳が深い輝きを放った。


「ひどい? ねえ、リーゼロッテ。ヴァルトが今日までずっと、どうやって生きてきたか教えてあげようか」


 子供に言い聞かせるようなやさしい声音で、ジークハルトはリーゼロッテの瞳を覗き込んだ。


「ヴァルトはね、この世に生を受けてからというもの、絶えず異形たちに命を狙われ続けているんだ。それこそ、ディートリンデの胎内に宿った、その瞬間からね」


 言いながらも、龍のあざに人差し指をついと滑らせる。リーゼロッテの口からはたまらず吐息がもれ、その眉間は苦し気に寄せられた。


「今でこそ異形の者はおいそれとヴァルトに近寄れないけど、子供の頃はひどかったなぁ。寝ても覚めても気の抜ける時間は一時もないんだ。ヴァルトが死にそうな目にあったのは、一度や二度の事じゃないよ」


 まるでたのしい思い出話をしているかのように、ジークハルトはくすくすと笑う。


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