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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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28-6

「では早速やってみましょう。お手をつないでもよろしいですか?」


 エマニュエルは一度ジークヴァルトへ確かめるように目線を向けてから、リーゼロッテへと両手を差し伸べた。リーゼロッテは頷きながらエマニュエルのその手を取った。

 隣り合わせに座ったソファの上で、ふたりは両手をつないで見つめ合った。


「わたしがリーゼロッテ様のお力を導いて、ゆっくりとそちらに戻します。リーゼロッテ様は何もせずにその流れだけを感じ取っていてください」


 リーゼロッテが頷くと、小さく息を吐いてからエマニュエルはその青い瞳をそっと閉じた。それを皮切りにリーゼロッテの中で、何かがそろりと動きだす。


「ぁ……」


 リーゼロッテはエマニュエルと同じように瞳を閉じて、ひそやかに声を漏らした。常に感じていたふんわりしたものがゆっくりと体の中を流れていく。

 次第にそれは、はっきりとした一筋の流れとなって、規則正しくリーゼロッテから出ていき、そして戻ってくる。


「中から外へ、外から中へ……。お分かりになりますか?」

「ええ、わかるわ……力が、流れていく……」


(中から外へ、外から中へ、くり返し……。ああ、むしろこれは超人〇ックだわ……)


 それはまるで、日向の匂いのする干したてのふかふかの布団の中に、身を沈めているような感覚だった。

 瞳を閉じたまま、リーゼロッテは心地よいその流れに身を任せた。やがてそれは大きな奔流となり……――


 リーゼロッテはそっと瞳を開いた。力の抜けた体でぼんやりと見上げると、ジークヴァルトの青い瞳が自分をのぞきこんでいた。


「じーくヴぁるとさま……?」


 こてんと首をかしげると、唇にクッキーを押しつけられた。ほろりとクッキーの甘さが口の中に広がっていく。一枚もう一枚と差し入れられ、ゆっくりとそれを飲み込んだ。


 霞がかっていた意識が次第に晴れていき、リーゼロッテは自分がジークヴァルトの膝の上に横抱きにされていることに気がついた。


「ヴぁ、ヴァルト様!?」


 慌てて体を起こそうとして、反対にぐっと抱き込まれてしまう。


「おとなしくしてろ。お前は本当に目が離せない」


 軽くめまいを覚えたリーゼロッテは、仕方なくジークヴァルトの腕の中で力を抜いた。

 首を巡らせると斜め向かいのソファで、エマニュエルがマテアスに介抱されるように背中をさすられている姿が目に入った。


「エマ様!?」

 また自分が何かやらかしたのでは? 咄嗟にそう思ったリーゼロッテは顔を青くした。


「申し訳ございません。リーゼロッテ様のお力が大きすぎて……。受け止めきれずに少し当てられてしまったようです」

 リーゼロッテが息をのむと、エマニュエルは無理をしたように笑って見せた。


「問題ありません、わたしは大丈夫です。旦那様が流れを引き取ってくださいましたから」

「リーゼロッテ様は加減を覚えることが急務ですねぇ」


 異形を祓うのはこの際どうでもいいが、力のコントロールを身につけなければ、また倒れてしまいかねない。

 リーゼロッテの力に惹かれてか、執務室の中にはかつてなく異形の者が集まっていた。ジークヴァルトがいるので近づけないが、遠巻きにしながらリーゼロッテをじっと見つめている。


「流れを制御できるようになれば、それも難しくありませんから」

 エマニュエルはリーゼロッテを安心させるように微笑んだ。


「だが、今日はここまでだ」


 ジークヴァルトはそう言って、リーゼロッテの口にクッキーを一枚押し込んだ。


(うう、ダイエットが……)


 今は力が抜けた状態なので、クッキーを食べなくてはならない場面なのだろう。そうは思うのだが、ジークヴァルトは必要以上に、自分に餌付けしているように思えてならない。


(力の流れがコントロールできるようになれば、クッキーの必要な量も自分で把握できるかしら……)


 目標があれば達成までの道のりも苦ではなくなるはずだ。黙って口を動かしながらリーゼロッテは真剣に考えこんだ。


 ジークヴァルトはこれ幸いとリーゼロッテの口の中へ、次から次へとクッキーを差し入れていく。思考に耽っているせいでそれには気づかずに、リーゼロッテは条件反射のようにひたすらその口をもくもくと動かした。


「……破壊力抜群ですねぇ」


 マテアスがぽつりと言った。


 無表情のジークヴァルトの膝の上で、リーゼロッテが可愛らしい小さな口で懸命にクッキーを食べる様は悶絶級だ。


 なんだろう。もっと食べさせたい。何なら自分でクッキーを差し入れたい。

 鉄面皮のジークヴァルトとのコントラストが何とも言えずシュールでもあった。天使と悪魔? 妖精と魔王? この場面を見たら、誰しもがそう思うことだろう。

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