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ふたつ名の令嬢と龍の託宣【なろう版】  作者: 古堂素央
第1章 ふたつ名の令嬢と龍の託宣

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27-7

     ◇

 その頃リーゼロッテは、泣き虫ジョンのいる裏庭で例のごとくベンチに腰かけていた。

 今日のジョンは頑なに言葉を発しない。いつもはもう少し会話ができるのだが、ジョンは枯れ木の根元でうずくまったまま、指先ひとつ動かさないでしくしくと泣いている。


 リーゼロッテは、手持ち無沙汰になって空を見上げた。

 今日は雲の流れが速い。肌寒い風が吹き抜けて、もうすぐ雨が降りそうな空模様だ。そう思っている最中(さなか)、ぽつりと頬に雨粒を感じた。


「リーゼロッテ様、今日はもうお部屋に戻りましょう」


 エマニュエルに促されて、リーゼロッテは立ちあがった。

 その時、遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。うぉんうぉんと低く響く鳴き声から、大型犬なのだろうとリーゼロッテは想像した。その声はどんどんこちらへ近づいてくる。


 建物の陰から毛足の長いたれ耳の大型犬が駆けてくるのが目に入った。やってきたのは顔と耳先だけが黒い、クマのように大きな茶色の犬だった。


「あら、レオン」


 エマニュエルが声をかけると、レオンと呼ばれた犬はエマニュエルの前で立ち止まって、行儀よくお座りした。

 何度かふさふさのしっぽをばっさばっさと大きく振ると、レオンは再び立ち上がりトコトコと泣き虫ジョンのいる木の根元へと歩いて行った。


「あっ」


 リーゼロッテが声を上げたときにはすでに、レオンは片足を上げておしっこの姿勢をとっていた。しーと放物線を描いてそれは放たれた。泣き虫ジョンの背中に向けて。


 黄色い液体はほかほかと湯気を立てながら、泣き虫ジョンを突き抜けて、木の根元へと注がれていく。


 ジョンは異形だ。分かっている。分かってはいるが、いつものようにめそめそと泣いているジョンのその背中は、いつも以上に涙を誘った。あまりの悲劇にその光景から目が離せないまま、リーゼロッテは口元に手を当てた状態でその場を動けないでいた。


 しーしょろろと放物線は勢いを弱めて、やがてレオンは足を下ろした。


「あ、レオンがジョンにおしっこかけてら。こりゃ大雨が三日は続くぞ」

「ああ、庭師と洗濯場にも伝えた方がよさそうだ。あとは(うまや)だな」


 通りがかった使用人の男たちのそんな会話が耳に入ってくる。


「レオンは普段ここには近寄らないのですが、なぜだか大雨の前にだけこうやってこの場に来るのですよ」


 エマニュエルが補足するように言った。


(犬の天気予報?)


 リーゼロッテが目を丸くしていると、レオンは満足げな顔をして、来た時と同じようにウォンウォンと鳴きながら走り去っていった。


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