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「あ…」
身体の中から何かがとろりと滑り落ちる気配と伴にユーリはガタガタと震え始めた。
「どうし…ひっ!」
朝の掃除の時間、たまたま近くにいたメイドの1人がユーリを見て悲鳴を上げる。
ユーリの髪の色が急に変色したように見えたのだ。
「あ…っくっ…」
崩れ落ちるユーリの足元を見て別のメイドが咄嗟に手を引く。
「ユーリ様、こ、こちらへ!あなたは奥様かアンナ様を呼んで!」
「は、はい!」
引き攣った声を出したメイドもすぐに察して駆け出す。
手を引いたメイドがユーリの部屋のバスルームへユーリを押し込むと手早くバスタブに湯を溜める。
「おめでとうございます」
「え?」
「女性になられたのですよ。お身体を綺麗にしてからやり方をお伝えしますね」
優しくメイドは微笑むとユーリの服を脱がせる。
「あ…」
下着に付いた赤い物が見えユーリはようやくその意味を知った。
暖かい湯に入るとホッとする。
それも束の間で、寒気は収まらずすぐにユーリはガタガタと震え出す。
「ユーリ様?!」
メイドの焦った声がバスルームに響く。
ユーリはその声を最後にそのまま意識を失った。
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「…ん…」
ぼんやりとした視界に見えたのは与えられている見慣れた自室の天井だった。
「私…」
ゆっくりと身体を起こすとドクリと身体の中を何かが滑り落ちる気配がする。
初潮を迎えたのだと理解する。
同時にもう子どもではないのだから、ルーベウスの傍にいることは出来ないのだと悲しく思う。
それを伝えるのは恥ずかしいけれど、下級とはいえ貴族の女が傍らにいるのは良くない。恩ある公爵家に傷が付く。
ゆっくり身体を動かしてベッドを降りる。
頭が重い…髪が…動くと揺れる髪の色は紫銀だった。
そんな馬鹿なと恐る恐る鏡を覗く。
見慣れた茶の髪とヘイゼルの瞳は見返して来なかった。
そこにいたのは紫銀の髪に黒曜石の様な真っ黒な瞳。
「あ…」
ユーリが顔に触れれば鏡の中の少女も顔に手を触れる。これは誰だ?認めたく無い…これでは王家に連れて行かれてしまう…二度と会いたくないあの人に…
「いやーー!!」
身体中を何かが駆け巡る。
何かが身体から溢れ出す。
魔力だ。そう理解した時には遅かった。
ユーリの元の属性は土、この力は未知の力だった。
こんな事望んじゃいないのに!!!
身体の、心のコントロールが両方効かない。
溢れ出す魔力に翻弄される。
部屋の中が荒れ狂う。
それすら見えなくなって五感が全て失われていく。