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囲われの罪人(つみびと)  作者: 遊月
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7

 ユーリの1日は忙しい。

 朝5時には起きて秘書としての仕事の下準備と学園に行く準備を熟すと必要無いのに厨房に行き朝食の準備を手伝う。

 公爵家の面々と食事を摂ると今度はメイドに混じりルーベウスの執務室の掃除をする。

 学校のある日は埃を払う程度だが、自分の置いた物を触られるのを嫌うルーベウスの物を触れる唯一の人間がユーリだったので、この面ではメイド達にも感謝された。

 ユーリは分類を壊す事無く、必要では無くなった資料のみ片付ける。

 そうして資料の整理も同時に行う。

 それは秘書として働き始めてから身に付けた技であったが、こればかりは執事長のヘンリックでも出来なかったことだ。

 ヘンリックの名誉のために言うと、物理的、時間的に不可能だったとも言う。

 ルーベウスの仕事の采配は際どいラインで見極めがそういう意味で上手かった。

 一方ユーリは最初の手加減のうちに、資料の整理兼掃除のそこからかかった為か、ルーベウスの怒りを買うことはなかった。

 最初は惚れた弱みともとれなくはなかったが、今では立派にユーリを頼りにしていたりする。

 これがユーリには誇らしかった。

 そうこうしていると、アンナの支度が終わり共に学園に行く。

 学園から戻れば今までは資料作りだったが、今日からは執務にくっついて行けるのだ。

 ウキウキしながら帰宅するユーリにアンナはこっそりため息を吐く。

 ワーカホリック…今のユーリを見るとその言葉しか浮かばなかった。



 ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜ ✽.。.:*・゜



「早いな…」


 すでに玄関先で待機していたユーリを認めるとルーベウスはそう呟いた。


「はい。今回の資料でございます」

「…ああ」


 キラキラとしたユーリの笑顔に一瞬見惚れると渡された資料に目を落とす。


「行くぞ」


 数名の秘書を連れてルーベウスは本日最後の仕事に出掛ける。

 今日からはその仕事にユーリが一緒だった。

 秘書の最後尾に行こうとするユーリを捕まえると腕を強引に組む。


「ルーベウス様?」


 強く腕を引かれたユーリがタタラを踏む。


「行くぞ」


 有無を言わせぬ強さにユーリは縋るようにヘンリックを見たがヘンリックは目を合わせる事すらしなかった。

 つまりは助けるつもりは無いと言う事。

 そのままユーリはことある事に傍に置かれた。

 最後尾につこうとしてもスルリと絡めとられる腕は抵抗しても解けない。

 それはすぐ貴族の間に広まる。

 ユーリの事をルーベウスの婚約者と貴族の中には噂を流す者まで現れた。

 平凡な茶の髪にヘーゼルの瞳のユーリの容姿と身分に口さがないものはルーベウスの後腐れの無い遊び相手だと揶揄するものいた。


 些か困ってはいたもののあと少しだけこうしていたいと思ってしまう自分にユーリは心の中で溜息を吐く。

 好きになってはダメだと自制していてもルーベウスはその壁を最も簡単に乗り越えてきてユーリの隣に立ってしまう。

 ともすればユーリの心の中の中心にいてしまう。

 ふるりと頭を振り心の中からそれを追い出す。

 ルーベウスがユーリを気に入ってるからといって身分差がある。

 ありすぎる。

 万が一にも本当に彼がユーリを望んでも周りが許さない。

 いかに抵抗したからとて、ルーベウスにも間も無く婚約が決まるはずだ。

 公爵家の跡取り、許嫁候補者はわんさかといるのだ。

 邪魔をしてはいけない。

 だからという訳ではないが、ルーベウスの婚約者が決まり次第か、大人になるその日が来たら今度は侍女の教育に力を注ぐつもりだった。

 アンナの侍女として王宮に上がり死ぬまで支えさせて貰うのだ。

 それが償いで、唯一出来る事だった。

 カレーニン家の人々が許してくれていようと、ユーリは自分が許せてはいない。

 甘える形にはなるがいらないと言われるまでカレーニン家の兄妹の傍で尽くしたかった。

 だからそれまで…

 毎回困った様に見上げればルーベウスは花咲く様に笑う。

 アンナに似ているけれど少し上にあるその顔は本来の年齢よりも大人びた眼差しがある。

 ユーリに向けて笑う時だけ柔らかな笑みになっているのをユーリは知らない。




 第一秘書グループの面々はリア充爆発しろ!と思いつつ、ユーリにだけ歳相応の顔を浮かべる上司を微笑ましく思ってもいた。

 このままくっつけられるようにユーリに極秘でこの秘書グループも裏側で迅速に動いて行るのだ。

 働き者でカレーニン家を裏側で優しく牛耳れる(予定の)ユーリをカレーニン家の使用人達は好ましく思っていた。

 お荷物などこかの娘が嫁に来るくらいならいっそルーベウスの想いが通じればいいと手を尽くすのだった。

 そのくらいにカレーニン家の使用人に好かれているのをユーリ本人だけ知らない。


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