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ユーリ・アルバンスは13歳になった。
カレーニン家でカレーニン家の身内だけではあるが盛大なお祝いが開かれていた。
尚、本来の家族のアルバンス家は領地再生の正念場でささやかな誕生日プレゼントと分厚い家族からの愛のメッセージがちゃんと送られて来ている。
カレーニン家はあの事件以降もアルバンス家と変わらぬ付き合いを望み、再興の折には男爵家から子爵にすべく影で動いているくらいなのである。
勿論そんな事アルバンス男爵家の人々の前ではおくびにも出さない。
主役のユーリはここに来て毎年の事ながら居心地の悪さを覚えて苦笑していた。
アンナのお祝いは嬉しい。
ルーベウスのお祝いも嬉しいのだが…何故にルーベウスの膝の上に上げられているのだろうか?
フワフワのドレスの下、腰を支えているはず手は時折膨らみ始めた下乳を撫でている。
多分、フワフワドレスで胸元は隠れている筈。
じゃないと公開処刑だ。
ユーリは恥ずかしさで身をよじるが、益々もってギュッと抱きしめ甘い甘い笑みをルーベウスは浮かべる。
「最早、ユーリの誕生日祝いと言うより、兄様の欲望に近づく日ね」
呆れた声でアンナがナイフで肉を切りつつ苦言を言ってもどこと吹く風。
「よ、欲望って…」
流石に言い過ぎでは?と、ルーベウスを見上げると、おでこにキスされた。
顔が赤くなっていくのを隠せ無いので慌てて下を向く。
「デビュタントまであと2年。大丈夫準備は着々と進めているからね。ああそうだ、ユーリ明日から仕事内容が増えます。第一秘書グループとして、交渉に出席してもらうよ?いいね?」
途端にユーリの顔は輝いた。
ワーカホリックと言えるほどルーベウスの秘書の仕事にのめり込んでいた。
しかし、今の仕事で表に出る事は決して無いと思っていた。
自分は罪人。
領主代行の仕事はカレーニン家の仕事。
ユーリに出来るのは情報を集め精査し、ルーベウスに満遍なく渡す補佐の仕事。
やれる事に限りがあるのだ。
その上秘書・執事グループは完全に実力制。
得手不得手はあれど第一グループは常に正確に素早い仕事の出来る人間の集まりなのだ。
その所属になるのは末席であろうと今までの仕事が認められたからなのだ。
「私、執事長にご挨拶に行ってまいります!」
「食事が済んだらね。あーん」
今にも膝から飛び降りて行きそうなユーリの腰をルーベウスはしっかり抱える。
「ルーベウス様休息は終わりです。残りは自分で頂きます」
キリリと秘書モードになるとルーベウスの手からフォークとナイフするりと奪い取る。
そうして素早く優雅に食事を終えるとルーベウスのユーリを抱き締めている腕をそっと外す。
「ユーリ」
「それでは失礼致します。本日は私の為にお祝い頂き誠にありがとうございました。今後もルーベウス様とアンナの為に微力ながら全力でサポートさせていただきます。公爵様、並びに奥様本日はありがとうございました」
優雅にカーテシーをするとそそくさと食堂を出て行く。
「お兄様、デビュタントがリミットですからね。それ以後はお約束どおり私が連れて行きますから」
アンナは澄ました顔で告げる。
アンナは第一王子とその後無事婚約を果たしていた。
政略結婚ながら子どもの頃からの付き合いの王子なのである程度の自由がきくのだ。
「わ、わかっている」
「言質とりましたからねお父様。ユーリは私の侍女として王宮に上がるのです」
「違う!私の花嫁だ!」
「ユーリが望まなければどちらも無い」
二人の父親が静かに告げる。
「本当あなた達ユーリが好きね。せいぜいユーリに嫌われないように愛でなさい、あ、あなたどちらにもユーリが付かなかったらお見合い相手は素敵な方を探しましょうね」
「そうだな。あの手腕ならどこの家に嫁いでも卒なくこなす。ユーリに合う家を見繕っておくか」
「そーね。それがいい…「「ダメ!」」」
公爵夫妻は顔を見合わせた。
「あらあら、ではあなた方はもっと頑張ってくださいね」
夫婦してニコリと笑うが二人には笑えない。
最大の敵はこの両親かもしれない…
二人は互いに顔を見合わせて頷く。
絶対に他所にはやらない!その一点のみ協力タッグが組まれるのであった。




