13
「ユーリ嬢、そなたは誰を選ぶ?」
王の声が再びユーリの耳に届く。
「っ!…私は…」
すっとルーベウスが手を差し出す。反対側からアンナも。
「…私は…」
「家柄の事なら心配する必要は無い。先程アルバンス男爵は子爵になる事が決定しておる。更に…」
「馬鹿王、それ以上は喋るな」
「ムッ!馬鹿とは…」
「黙れ、ユーリの判断が先だ」
「おお!そうであった。ユーリ嬢、そなたの全ての憂いは取り払われている。その2人の手でもよし、家に戻るも良し、他の者の手を取るも良しだ。あ、魔石の協力はお願いするとおもうがの」
茶目っ気を出して王が、ウィンクすると、すかさずカレーニン公爵が肘で突く。
真面目にしろ!そう瞳が語る。
コホンと咳払いをして王がユーリに答えを促す。
「……私は…」
「ユーリ、もう一度言わせてくれ。ユーリ・アルバンス嬢私と結婚していただけませんか?初めてお会いした時よりずっと貴女を妻にと願っておりました。その瞳がヘイゼルのままであってもその心は変わりません。愛しの姫君どうか、私と共に歩んで貰えませんか?」
恭しく跪き、そっとユーリの手を取りその甲へ唇を寄せる。
「……あ…」
顔に血が昇る。
初めて会った時…もう遥か昔の事…
「ユーリ、全ての罪も憂いも無いの。貴女はアルバンス男爵…いえ、アルバンス子爵家の令嬢で私の大親友。そして今まではお兄様の秘書。でもこれからは素直になっていいのよ」
アンナの声が背中を押す。
「ルーベウス様…」
ユーリはコクリと頷く事しか出来なかった。
「ユーリ…」
氷の顔が蕩けるとユーリは益々赤くなる。
「わ、私でほ、本当に…」
「ユーリが良い!ユーリしか妻にいらない」
「とりあえずそこまでにしようか?」
王の再びの呆れた様な声にユーリはここがどこか思い出す。
「失礼致しました」
震える手でユーリはカーテシーをとる。
「家族揃って子爵拝命に来るが良い。その場で婚約を発表してしまおう。夜の森の妖精王の雪解けじゃからの」
「その変な呼名はやめて頂けませんか?私は出たくも無い社交にユーリがデビュタントを迎えるまで我慢して出てただけですから」
「…お兄様、社交は情報収集の場では…?」
「ああ、だから我慢して最低限出ていたし、シグレキス殿下の周りで他に虫が付かないように見張っていた」
「見張られなくても私はアンナ一筋なんだよ!君がユーリ嬢一筋だったようにね!」
シグレキスがアンナの髪を一房すくい上げ口付ける。
「そんな事では誤魔化されませんよ」
アンナが髪を奪い返し硬質な声でこの場に出てきているのを咎める。
「ほんとにほんとに一筋なんだってば!ここに来ればアンナに会えると思って…」
妙に子どもっぽくオロオロと言い訳をするシグレキスにユーリは唖然とする。
第一王子は悠然と穏やかな人柄だと認識していたが、事、惚れた相手には違うらしい。
「アンナ、そのくらいで許して差し上げなさい王子の愛は貴女が1番ご存知でしょう?」
「……お母様…」
「話しは纏まった。帰ろう」
公爵一家は優雅に臣下の礼を取ると王の言葉を待たずにその場を去る。
公式の場では決してしない家族ならではの無礼。
ユーリは初めての出来事に目を白黒させるのだった。