第九十七話:閑話:三人集う
ようやくだ。
ようやく3人揃う。
アキラは、何していたんだろうか……?
……《勇者》 ユーノ
十二日目。
朝イチの転移と徒歩とで何日もかかった旅も、ようやく終わりが見えてきた。
視線の先には、石造りの円形状の建物。
それは、妖精を連れている俺とシオリにしか見えないようで。
「本当に二人には見えているのね……」
迷いのない足取りの俺とシオリを見たマキさんは、戸惑いの声をあげていた。
『《拠点》はね、《妖精の加護》がないと見えないし立ち入れないんだよ!』
誇らしげに胸を張るファウにほっこりするが、シオリは気になることがある様子。
「えっ? ちょっと待って。ユーノは本人が許可したんだろうし、私の《拠点》は立ち入れないようにしたからいいのだけど、他のみんなは別のプレイヤーの《拠点》には入れないの?」
……んん? どういうこと?
「いやさ、アキラの《拠点》に俺たちが入れないわけないだろ。仮に入れなくても、俺やシオリの仲間って言ったら入れてくれるぞ」
シオリだって自分の《拠点》にあっさり入れてくれたんだし、アキラが入れてくれないわけないよな。
(すごい信頼だね……)
(うらやましい……)
(どういう人なんだろ?)
(きっとまた女)
「さ、行こうぜ。アキラが待ってる」
「……もう、最初は大して気にしてなかったくせに……」
シオリが小声でぼやいてるけど、なぜかはっきり聞こえるな。
耳が良くなってるのかな?
なんかこう、スキル的ななんかだろうか?
『アンタたちがアイツの幼馴染みの2人? ようやく来たわね。さあ、あのバカを止めてちょうだい』
薄い膜を通過したような感覚のあと、俺とシオリだけでなくみんなが石造りの建物を認識して見上げていると、不機嫌そうな表情で腕を組んだ妖精がやって来て不機嫌そうに言い放った。
「まず先に、あなたは誰? あのバカとは?」
「いやアキラの妖精でアキラのことだろ。ここはアキラの《拠点》なんだし」
そのアキラの妖精が何でこんなに不機嫌なのか戸惑っていると、シオリがみんなを代表して当然の質問をするものだから、当然の答えを提示してやる。
「それより、何でそんなに不機嫌なの?」
俺がアキラの妖精に問えば、
『常軌を逸した行動をやめないからよ』
と、ちょっと分からない答えが。
「そうか。ともかくアキラのところに案内してくれ」
アキラの様子を見てみないことには、何のことか分からないしな。
『……驚かないでほしいのだけれど……』
これはなんというかあれだ。不機嫌じゃなくて疲れてるんだな。
アキラの妖精に案内された先は、野球場かなんかみたいな広場。
その中央には、黒い半透明のドーム状の……結界、かな? まあそんな感じのがあって、その中では……。
「……うん、よし。だいたいこんな感じだね。オークの素材もだいぶ貯まってきたから、次からは別のにしようかな?」
軽装の鎧姿で、腰まで届きそうな長い金髪をポニーテールにしている少女が、返り血を浴びながらオークを解体しているところだった。
……その、生きたまま。
まあ、ある意味凄惨な現場だが悲鳴を上げる人はいなかった。だが、その、なんだ……?
「おいこらアキラ。お前なんで女になってるんだ?」
「あれ? ユウくん? ありゃ、わざわざぼくの《拠点》まで来ちゃったんだ?」
ちょっと待っててね~。と笑顔で朗らかに言いながら、オークにとどめを刺すアキラ。
その直後に半透明のドームが消えて、しっぽを振る大型犬みたいに突撃して……いや文字通り突撃してきた。
「あはは~ユウくんユウく~ん♪ ……っはっ? シオリちゃんは?」
「……ここにいるわよ?」
「わ~いシオリちゃ~っんあっ!? な、なんで避けるの~!?」
「アキラ、あなたが血まみれだからよ。おかげでユーノも血が着いちゃったじゃないの」
突撃して、飛び付いて、俺に顔を擦り付けるようにしたあと突如顔を上げてシオリにも突撃。あっさり躱されて地面にダイブしていた。
……このじゃれ付き具合、少し見ない間に、なんかこう、犬度が増してないか?
「シオリ、2人分頼む」
「分かったわ。《ダブル》、生活魔法《洗浄》」
シオリが俺の頼みに応えて生活魔法の《洗浄》をダブルで発動。
俺と金髪美少女なアキラが水の球に包まれて身体中を水で擦られたような感覚のあと、全身汚れもにおいも残らずきれいさっぱりになった。
さて、改めて。
「ユウくんシオリちゃん久しぶり~♪ 元気だった?」
「久しぶりね、アキラ。寂しくなかった?」
「いや2人してさ、なにゆえ当然のような態度なの? 幼馴染みが女体化してるんだが?」
特にシオリ。なぜ平然としてる?
「前からこんな感じだったじゃない。アキラを語る上で性別は意味を成さないわ。なんせ、『ユウくんの好みの下着とか履いた方がいいのかな?』って女性用下着売場でしばらくうなってて店員さんに何着かオススメされてたのよ? ……試着はさすがに止めたけど」
「シオリちゃ~ん。なんでバラすの~? ナイショって約束したのに~」
元々可愛い系の顔とかほとんどそのまんまなんだけど、以前より狭い肩幅とか、鎧の下の慎ましやかな膨らみとか、括れたウエストからヒップのラインとか、確かに前より女性的になってるけどさ、付いてるんだよね? いや俺もすでにアキラは女性って認識してるから確認するまでもないんだけど、念のため《鑑定》してみたらバッチリ♀って表示されてたわ。マジ女なってるやん。
……いや、ワケわからん。
「うん。よく分からないけれどカオスね」
色々諦めたようなマキさんの言葉が、なんか色々物語ってる感じがした。
(あの子も、お姫様みたい……)
(ううう、2人ともすごいキレイ……)
(あの2人に混ざるの? 無理だよぅ……)
(ほらやっぱり女。……でも胸なら、ウチでも……)
サーシャ、カティ、ティア、ニアの現地人組は、遠慮して小声でこしょこしょ言いあっていた。
俺の相棒に目を向けてみれば、ニコニコ元気なファウと無表情なインデックスとめんどくさそうなアキラの妖精とで、3人でハイタッチしていた。
・《拠点》のレベルが上がりました。
現在のレベル : 2
・拠点内施設《闘技場》のレベルが上がりました。
現在のレベル : 2
・《闘技場》の機能が拡張されました。
・チーム戦 が選択可能。
運営より、メールが届いています。




