第九十話:お使いクエスト
「分かりました。ミコト、この依頼受けようと思うけれど、大丈夫かい?」
僕としては、偉い人のあてがないのだけれど、トールくんの落ち着いている様子を見て、おじいちゃんエルフからのお願いは可能なのだとなんとなく思った。
「ちょっと待てよトール。人間の偉いヤツに、知り合いとか、ツテとか、あるのか? ……って、おいミコト。なんで頭撫でるんだ?」
ミナトがトールくんを心配してる気持ちが伝わってきて、なんとなく嬉しくなって頭を撫でてしまう。
「たぶん大丈夫だよミナト。心配してくれてありがとうね。……おれは冒険者としてそれなりの期間活動していますし、亡き父の知り合いにもあたってみます」
気持ちはちゃんと伝わったみたいで、優しく微笑むトールくんを見て、僕もミナトもにっこり笑顔。
トールくんから笑顔を向けられただけで、二人ともドキドキしちゃってるけどね。
後半は、おじいちゃんエルフに向けられた言葉だけれども。
「うむ、よろしく頼むぞ。《忌まわしき黒》は人間の街にも人の皮を身に纏い侵入しているやもしれぬ。充分に警戒するのだぞ」
おじいちゃんエルフが人の良さそうな表情を引き締めて、威厳ある族長としての顔で訴えてくると、僕らも自然と気持ちが引き締まる。
「うん、任せて。僕には頼れる仲間がいるから、心配は要らないよ」
片手でミナトをぎゅっとしながら、もう片方の手でトールくんにぎゅっとしがみつく。ヤタは僕の頭の上に降りてきた。
「うむ、頼もしいな。話は変わるが、《忌まわしき黒》を討伐した褒美を与えたい。なにか希望はあるかな?」
「うーん? ここに招いてくれたことと、貴重な食材でもてなしてくれたことが報酬じゃないの?」
おじいちゃんエルフの言葉に首をかしげれば、
「人の権力者に書簡を届ける依頼の前報酬と思えばよい。さあ、まずは遠慮なく言ってみるといい」
朗らかに笑い促してくるので、とりあえず言ってみることにした。
「この果物の盛り合わせの材料の果物、僕の拠点で栽培できるかな? できれば、苗とかもらえればありがたいんだけど」
すごく美味しかったので、できれば少しずつでも育てて、特別な時にまた食べたいな。
「……ううむ……。栽培ときたか……。いや、構わぬ。しかし、苗から育てるにせよ、繊細な品種でな。そなたが植えつけようとしている土地に適合するかどうか……」
やっぱり無理かな? と思っていたら、おじいちゃんエルフが閃いたとばかりに膝を打った。
「苗と共に、育成手を派遣しよう。木属性魔法を利用するエルフ式農法の上級樹育士を。男性と女性どちらがよい?」
「「女性で」」
僕とミナトの声がハモる。
エルフの男性って、ほら、ねえ?
「うむ、そうであったな。初めて見たエルフが矢を射かけてきた男性であれば、女性の方がよいというのもうなずける。ただ、男性の樹育士は弓や槍で戦えるのに対して、女性の樹育士は戦いを得意としてはおらぬでな。……おお、そうであった。リラとステラの親子を呼んできてくれ」
側に控えたままのイケオジエルフに命じると、一礼して退室していく。
どんな人がくるんだろう。ちょっと緊張だね。
……あ、そうだ。
「下の地面に小屋とか作って、そこにポータルゲート設置してもいいかな? 何かあったときすぐに行き来できるように」
「ふむ。それはワシとしては構わぬが、一応族長として皆の声を聞く必要がある。周知していたにも関わらず招いた客人を害しようとする程度には、全体的に気が立っているのが現状であるからな」
「それと、エルフって、お肉食べる?」
さっき家畜がいるって言ってはいたけど、菜食主義のイメージがあるんだよね。エルフって。
「自然の恵みであればありがたくいただくぞ。ただ、外で活動している者たちから聞いた話では、エルフの舌は人間より食材の臭みを感じやすいようだ。それゆえ、肉や動物の乳などは臭みを取り除かないと食べられない者もいるのは事実だな」
ふむふむ。それじゃあ。
「これとかどうかな? オークキングのレアドロップ、《天上の豚肉》。たくさんはないけど、エルフの族長に対する手土産というか献上の品ということで受け取ってもらえればと」
「……なんと、それは……。よ、よいのか……? とても貴重な品ではないか?」
「うん。でもなんか、もらい過ぎな気がするから」
ただの美味しい食べ物ならともかく、ステータス上昇の食べ物を、育てる人込みでもらえるのなら、黒いゴブリン倒したくらいじゃもらい過ぎかなって。
「………………ありがたい。できるだけ多くの者と分けあっていただこう」
前に食べたときはステーキ1枚分だったからまだ塊で残ってるし、他にもジェネラルからドロップした《極上の豚肉》も何個かあるから……って、ミナトは食べたことなかったかもしれないね。
それと、一応これも。
・飛竜骨の弓×1
・飛竜牙の矢×10
・飛竜皮の矢筒×1
・飛竜の弓掛×1
僕が自分用に作ったうちの予備だけど、エルフにとってはどれくらいの価値があるんだろう?
「……ふむ……ふむ……。これは、実に良いものだな。ワイバーン素材の弓なら、我らもあまり所持していない良いものだ。こちらは、そなたらに随行させる樹育士の娘が戦士であるゆえ、その者に与えたいと思うがよいか?」
僕としては、雑に扱わないというなら、誰にあげてもいいと思うけど。
……と、いうか、この装備全部自己修復するから、雑に扱われても直るけどね!
大切に扱ってもらいたいのは気分の問題だけど。
※エルフの族長に献上。
・天上の豚肉 × 2
・極上の豚肉 × 4
・飛竜骨の弓×1
・飛竜牙の矢×10
・飛竜皮の矢筒×1
・飛竜の弓掛×1
※ワールドパラメーター(非公開)
・エルフ → 人間 への好感度 +2 +4(献上分)
・人間 → エルフへの好感度 +1




