第八十七話:レーヴェ
《クエスト:『練金壺』のテスト依頼》
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
テスト段階の『練金壺』の実用テスト。
・依頼者:運営
・対象:『練金壺』を一定回数使用。
・報酬:白金貨1枚+要検討(要望があれば考慮する)
・備考:食材以外をテストしてくれると助かります……。
・備考:食材用の『錬金壺』を報酬とは別枠で支給しましょうか?
『おいミコト、またあの猛禽が来てるぞ』
「ほえ? ……あ、そっか。今日も来てほしいって僕の方から言ったんだっけ」
食後、ぐれ太にお肉をあげてから『錬金壺』を利用してあれこれ作りつつ、できあがったものを材料にしてあれこれ料理しつつで、気がついたらお昼近くになっていた。
ヤタが声かけてくれなきゃまだ何か作っていたかもだけど、キリのいいところだしあのグリフォンが来たなら出迎えてあげなきゃね。
外へ出ると、拠点の結界の境目にグリフォンが降りてきたところで、ミナトとトールくんと合流しながらグリフォンのところに向かう。
「こんにちは。今日も可愛いね」
今日もつぶらな瞳が可愛いグリフォンが、クルルル、と控えめに鳴いて待っているところに声をかけると、にっこり笑ったように目を閉じて……って、まばたきしただけかな?
トールくんもこんにちはと声をかけて手を伸ばせば、グリフォンは自分から頭を手に擦り付けるように押しつけていた。
「わっ? ……あはは、本当に人懐っこいね。優しい子なんだろうね」
楽しそうにグリフォンを撫でるトールくんを見て、つい、
「トールくんずるーい」
と言ってしまう。
「そうだぞー。オレにもモフらせろー」
ミナトも乗っかって囃し立てていた。
グリフォンにペロペロと舐められているトールくんを見てほっこりしていると、ヤタからちょっとお叱りが。
『お前ら、戯れるのはあとにしろ。まずは、猛禽がまた持ってきた書簡を確認してからだ』
「「はーい」」
今回はトールくんが書簡を受け取りヤタが読む間に、僕はグリフォンに深いボウルに容れた水を出し、オーク肉を一塊食べさせておく。
「それで、なんて書いてるんだ? ヤタ?」
『うん、簡単にいうと、都合を確認しなかったのはこちらの不手際なので、そちらのいう通り日を改めてグリフォンを向かわせたので同行してほしい。……という意味の尊大な調子の古代エルフ語だな』
待ちきれずヤタに声をかけるミナトの表情が、ヤタの返事で嫌そうに歪んでいってる……。
『状況や立場にふさわしい言い回しってものがあるから、仕方ないっちゃあ仕方ないんだが』
ヤタの言うこと、分からなくもないけどね。
でも、できれば遠慮したいなぁ……。
『あとで驚くよりはとエルフどものこと言ったのは逆効果だったみたいだな。だが、二度目の招待を蹴るのは少し問題だ。連中は伝統と誇りを重んじるからな』
……うーん、しょうがないかぁ……。
「ミコト、おれは、エルフに会ってみたい」
真剣な表情のトールくんを見て、反射的に「分かったよ。行こう」と言ってしまったけど……。あ、そういえば、トールくんの知り合いにエルフの人がいたんだっけ。
「ぐれ太ーっ」
グリフォンに全員乗っていけないだろうとぐれ太を呼ぶと、すぐにぎゃうーと鳴いて文字通り飛んできた。
ゴスケさんたちも勢揃いで飛んできたけれど、今回は4体ともお留守番だからね?
そんな驚いたようなリアクションされても、今日はお留守番。
その代わりに、
「《召喚 : レーヴェ》」
魔法陣が展開されて、昨日造った新しい戦闘用のゴーレムが姿を現す。
ワイバーンの皮と鱗で造られた全身甲冑は2mほどの背丈で、頭はワイバーンを小型化した形状からさらに角つきの兜を被っている。
背中には一対の竜翼、両手の甲と脚の爪先にはワイバーンの爪から造られたナイフのような爪が。
右手には身長を越す長さの槍を持ち、左手には小型の盾と一体化した折り畳み式のクロスボウ。
右の腰にはクロスボウ用の矢筒、左の腰にはワイバーンの牙から造られた片刃の剣を差している。
腰の後ろには、尾と背骨から造られた竜尾を模した尾もあり、蛇腹剣のように伸縮して自在に攻撃できる。
ゴスケさんのような生産系スキルやヘイトを集めるスキルこそないものの、全ての能力でゴスケさんを越す現在の最大戦力。
それがこの、リビングアーマー・ゴーレムのレーヴェ、だ。
グリフォンがビクッと驚いたような表情になるけれど、すぐに落ち着いたみたい。
敵意がないってこと分かってるみたいだね。賢い。
「レーヴェ、みんなに挨拶して」
腰を折って頭を下げる全身甲冑に、はじめはみんな驚いていたけれど、ミナトが「触ってもいいかー?」と問えば、頭を軽く下げて了承していた。
「おお、ぐれ太に負けないくらいツルツルの鱗だな」
ミナトが上機嫌でレーヴェの装甲を撫でていると、呼ばれたと思ったのかぐれ太がミナトに頭を押しつけるように差し出してた。
「分かった分かった、お前も撫でてやるからなー」
楽しそうなミナトを見て思わずほっこりしていると、グリフォンが座ってくちばしとしっぽで背中を差す。
「えっと、背中に乗れってこと?」
クルルゥッ! と嬉しそうに鳴く様子を見ると、合ってるみたいだね。
「じゃあ、僕が乗っていってもいいかな?」
「気を付けてね?」
少しだけ心配そうなトールくんに、笑顔で応じる。
「うん。トールくんも、ミナトのことお願いね」
「任せて」
ぐれ太に鞍を取り付けて二人乗りする様子を、グリフォンの背中で見守っていると、トールくんはミナトを後ろから抱きしめるような格好で手綱を握る形になり、腕に包まれてるミナトは体を固くしながら少し顔を赤くしていた。可愛い。
「じゃ、行こうか。よろしくね」
専用の鞍とか無いので、グリフォンの首にしがみついて喉元を撫でてあげると、グリフォンは笛の音のような鳴き声を上げて勢いよく空へと飛び上がった。
※ワールドパラメーター(非公開)
・エルフ → 人間 への好感度 +1




