第八十五話:メッセンジャー
《クエスト:『練金壺』のテスト依頼》
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
テスト段階の『練金壺』の実用テスト。
・依頼者:運営
・対象:『練金壺』を一定回数使用。
・報酬:白金貨1枚+要検討(要望があれば考慮する)
《トレード申請》
各プレイヤーに対しトレードを申請。
・依頼者:シン (プレイヤー)
・対象:魔物の死体(全身)。種類は問わず。
・報酬:腐った肉、古びた骨、死霊の衣、呪われた骨、呪いの血、灰、古い和紙
『ミコト、一応警戒はしておけ』
「うーん? どうしたの? ヤタ?」
これからの予定をどうしようか考えていたら、ヤタから声をかけられる。
「なにか来るよ」
トールくんも、ヤタと同じ方向を見て警戒したような声を出した。
ピョーーロロロ。
ピョーーーロロロ。
空からなにかが近づいて……飛んで来た、と思ったら、拠点の周りを飛びながら笛の音のような鳴き声? が聞こえる。
「何だこれ? トンビの鳴き声か?」
今も空を飛び回っているなにかを見ながら、ミナトが言う。
「うーん? なんだろうね? 危ない感じはしないけど……」
僕にしてみれば、気にはなるけど警戒するほどじゃないってところかな?
襲撃イベントとは違って、警報も鳴らなかったしね。
「ぎゃうーー。ぎゃるるーー」
《降下》
ぐれ太がなんか……呼びつけたみたい? ひと鳴きしてみれば、鳴きながら空を飛んでいるなにかはゆっくりと地面に降り立った。
……僕たちからだいぶ離れたところに。
『拠点の結界ギリギリに降りたみたいだな。許可を出してないから当然だが。まずはいくぞ。なにが来たかを確認しないとな』
結界の端まで移動する間にヤタから教えてもらったけど、基本的に、『拠点』は許可のないものは入ることができないみたい。
トールくんやミナトが問題なく入れたのは、僕が許可した形なんだってさ。
「なあトール、あれは……」
「グリフォン、だね。どうして平地に……?」
「ぎゅうー?」
《何?》
みんなは疑問符いっぱいのようだけど、僕はきっと目が輝いてると思う。
「……か、可愛い……」
全高で2mはありそうな大きな体。そのボディはライオンみたいに短い毛並み。
頭は鷲や鷹みたいな猛禽類。
背中には大きな翼が一対。
一見威圧感マシマシに見える大きな体だけど、目はクリクリっとしてて可愛さマシマシだよぉ……。
「こんにちは。きみはどこの子かな?」
つぶらな瞳でクルルル……。と鳴いているグリフォンに近づこうとすると、
「ミコト、危ないよ?」
と、トールくんに抱き止められる。
『一応、敵意はないようだな。首元を見てみろ』
ヤタに言われてグリフォンを見てみれば、首に筒が紐で括られていた。
「ぎゃうー?」
《何?》
ぐれ太がグリフォンに近寄ってふんふんと匂いを嗅いでる。
ジョンとメグも一緒になって匂いを嗅いでた。
グリフォンの方も、寄ってきたぐれ太、ジョン、メグに興味津々な様子。
「ぎゅうー?」
《可?》
ぐれ太が首をかしげながらヤタを見る。
なんか、許可を取ってるみたいだね?
『おい猛禽、その筒を届けに来たんだろ? ……ミコト、筒の中身を確認してみろ』
ヤタに声をかけられてしゃがみこんだグリフォンが、前足で筒の紐を器用に外してメグに渡してきた。
『お届けですワン♪』
えらいえらい。
メグのこと目いっぱい撫でてあげている内に、ミナトが筒のふたを開けて中身を取り出していた。
「……ありゃ、なんだこれ?」
中身は手紙かな? 紙に書かれている文字を読もうとしたミナトが、変な声をあげた。
「どしたの? ……って、うわぁ……なにこれ?」
なんか文字が書かれてあるみたいだけど、全然読めないよ……。
「……うーん……。エルフ文字……かな? ……でも、何か違うみたいだし……」
「と、トールくん、分かるのこれ?」
「所々。エルフに知り合いがいてさ。エルフ文字を習ったこともあるんだ。……でも、違うみたいだ。ほとんど分からないよ」
『見せてみろ。……あー……。古代エルフ語か……。これ書いたやつバカだな……。相手が読めないとは思わなかったのか? あるいは、オレが読む前提か?
……簡単に言うと、グリフォンが道案内するから来い。という、命令に近い内容だな』
……なにそれ?
『分かりやすくいうと、妖精を通じて《忌まわしき黒》を退けた者の存在を知ったから、礼がしたい。案内を出すからエルフの隠れ里に来てくれ。という意味の、上から目線の命令口調だ。エルフ語はどうしても尊大な文章になる。ましてや、古代エルフ語ともなると余計に、な』
………………なにそれ?
『一応、エルフの贈り物は、貴族に献上しても家宝になるくらいの逸品だから、もらっておいて損はないと思うぞ。……連中と会ったこと自体が損に思えるかもしれんがな』
…………えぇー…………。
「どうすんだ? ミコト?」
嫌そうな顔をしているはずの僕に聞いてくるミナトもまた、嫌そうな顔をしているけど。
「……とりあえず、クエストの他にもやりたいことあるし、明日またこの子が来たら考えるよ」
『向こうの妖精にはオレから連絡しておこう。だが、ミコト、お前も返事はしておけ。古代エルフ語で文を認めた上でグリフォンを遣いに出すというのは、エルフにとっては一応礼儀を尽くしているつもりなのだから』
「…………はぁい」
礼儀といわれたなら、応えなくちゃいけないんだろうね。
仕方がないから拠点に戻り、和紙と墨と筆でぱぱっと返事を書く。
ボールペンが欲しいなあ。
墨を乾かしてから筒に納めて紐をグリフォンの首に括り、顔を撫でてからお駄賃代わりにオーク肉を食べさせてあげる。
美味しそうに食べてるなあ。可愛い。
「じゃあ、よろしくね」
声をかけて手を振れば、グリフォンは名残惜しそうに鳴いてから飛び去っていった。
※ワールドパラメーター(非公開)
・エルフ → 人間 への好感度 +10
・人間 → エルフ への好感度 -1