第八十話:黒
《クエスト:はぐれ発生の調査依頼》
プレイヤー:ミコトに対しクエストを依頼。
パートナーの先触れ:ヤタと共に、はぐれワイバーン発生の原因を調査せよ。
・依頼者:運営
・対象:はぐれワイバーン発生の原因を調査。可能であれば解決。
・報酬:ワイバーンの死体(全身)×1 + 成果次第。
・制限時間:なし
・特記事項:結果次第で追加報酬を検討。(確約ではない)
「じゃあ、いくよー」
朝御飯をしっかり食べたあと、ポータルゲートを利用して無人の開拓村へ。
そこの広場で、ぐれ太の背中にミナト、僕、トールくんの順で乗ってから確認の声をかける。
拠点のことはゴスケさん3号と4号に任せて、1号と2号は、身振り手振りで同行を嘆願した……らしいよ? ヤタが言うには……ので、一緒に行くことに。
ルートは、ぐれ太の記憶が頼り。うっすらとある記憶を辿って飛んでくれるそう。
……それに、ゴスケさん1号と2号は自分も飛んで着いていくってさ。……ヤタが言うには。
ぐれ太が背中に乗せてくれるというので、ワイバーン素材から三人乗れる鞍を作ってぐれ太の背中に設置、身長順で乗ってみた。
「おーう、いつでもいいぞー」
鞍の一番前に着いているハンドルをしっかり握ってるミナトから、のんびりとした声が。
ミナトの後ろから手を伸ばして手綱を握る僕は、ちょっと緊張気味だけど……。
「じゃあ、ぐれ太、よろしくね」
トールくんが穏やかに声をかければ、
「ぎゃう」
《了》
ぐれ太から、気を引き締めた念話が届いた。
「しゅっぱーつ」
僕の声に合わせて、大きく羽ばたくと同時に脚の力も使って飛び立つぐれ太。
揺れとか空気抵抗とか心配したけれど、驚くほど静かに、そしてあっという間に木々の高さを越えて飛行する。
「ふわぁ……。すごいね……。空飛んでる……」
「そうだね」
思わず漏れた声に、すぐ後ろで僕を抱きしめるトールくんの優しい声と吐息が耳にかかって、ちょっとドキッとした。
……うーん? 吐息が、かかる……?
『オレが魔法で空気抵抗なくしてる。風属性の魔法にはそういうのもある』
ヤタがあっさりとネタばらしするので、そっかー。と言うにとどめておいた。
……それよりも、ゴスケさんたち。
背中の翼は翼膜がない。羽ばたいてもいない。なのに自由に空を飛んでる。
これがスキルの力か。
ぐれ太の右側を飛んでいるのが、ゴスケさん1号。
骨の右手を開いて前方に突きだし、左手は腰元に。
左側を飛んでいるのが、ゴスケさん2号。
こちらは右手を握りしめて前方に突きだし、左手はやはり腰元に。
……うーん? 3分しか戦えない正義の巨人さんかな?
3号か4号のどっちかは、右手がチョキなのかな?
ゴスケさんって、ほんとに謎が多いなぁ……。
そのまま飛び続けること10分ほど。
その時、
「んっ?」「あっ?」
僕とミナトが同時に何かを感じた。
「なあ、ミコト?」
「うん、ミナト」
「「いる」」
ぐれ太が飛ぶ先に、何かが、胸を締め付けるような不快な何かがいるのを、二人同時に感じて、声が揃った。
「……何がいるんだい?」
トールくんの、警戒する低い声。
「ぎゅうう……」
《敵》
ぐれ太の苛立ちの念話。
『何がって、トール、お前も知ってるだろ。先日の《大氾濫》の際に暗躍していた黒いヤツ』
「ヤタ、知ってたの?」
『ついさっきな。近付いたから分かったことだ。……お前ら三人にとって、因縁のある連中だ。絶対に潰せ』
おおう、ヤタがお怒りモードだよ?
「ふーん……。遠慮は要らねぇってことか」
ミナトも臨戦態勢で、こぶしを打ち付けてるし。
「ぐるるる……」
《絶許》
ぐれ太もキレぎみだね……。
まあ、僕も、荒ぶってるんだけどね?
…………許さないよ? 絶対に。
広大な《魔の森》は、中央に近付くにつれて木々が巨大になっていく。
そんな森でも、街がすっぽり入ってしまうほどの開けた場所が点在している。
その、日の光が差し込む場所で、おぞましい気配を漂わせる儀式が行われていた。
毒々しい色に明滅する魔法陣の中央には、血走った目で苦悶の叫びをあげるワイバーン。
そんな魔法陣が、三つ。
「ぐがああああぁぁぁぁっ!!」
《絶許!》
その光景を見た瞬間、ぐれ太が耐えきれずに叫んでしまった。
魔法陣の周囲には、毒々しい色のローブを纏う黒いゴブリンども。
魔法陣ひとつにつき、黒いゴブリンは三体ずつ。
三つの魔法陣が三角を描くその中央には、王冠のようなものを被る大きな黒いゴブリン。
周囲には、2メートル近い大きさのゴブリンが何体か。
全部で10を越す黒いゴブリンどもと、苦しみ続ける三体のワイバーン。
それらが一斉にこちらを向いた。
「ぐれ太、高度を下げて。僕、ミナト、トールくんは黒いゴブリンを」
「分かった」
「ぶちのめしてやる」
「ぐれ太とゴスケさんたちは、ワイバーンを」
「ぎゃう!」
《了》
それぞれ、思い思いに返事をして、各々の敵へと突撃していった。