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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
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第八話:閑話:第一次βテスター

 AEOスタッフルームにて。スタッフの男性視点。

「ふぅ……」


 今は夜10時。

 第一次βテスターの全員が、1日を終えてセーフハウスで睡眠をとっている。

 そして、アバターの姿で食事をとり、風呂に入り、ベッドで睡眠をとることに対して、違和感を感じていない。


 また、ガイド妖精からの報告で、問題行動をとるものもいなかったことは確認できていた。


 人格や生活態度など調査させた甲斐があったというものだ。


「状況はどうかね?赤井くん」


「これは、部長。お疲れさまです」


 音もなくスタッフルームに入り込んだ上司に、慌てて席を立ち、最敬礼をとる。

 礼儀にうるさいのだ、この上司は。

 ……自分はノックなんかしない上に、今みたいにいつの間にか背後をとるくせにな。


「挨拶など不要。本日の成果を報告したまえ」


「はっ、報告させてもらいます!」


 つい、挙手の敬礼をしてしまう。


 がっしりとした体格に、短く刈り込んだ髪は紫色。

外国だか異世界だかの軍隊を勤めあげ退役したとかで、存在感と威圧感が半端ない。

 ……しかし、髪を紫に染めるとか、老婆かよ? って皆言ってる。

 実は50代のオジサマじゃなくて60代のマダムだったりしてなって、皆言ってる。


 おっかなくて、誰も確認できてないけどな。


 第一次βテスター30人のうち、26人は問題なく報告できた。しかし……。


「他の4人はどうした? 何か問題行動でも?」


 ぎろり。上司の眼光が俺を貫く。正直それだけで心臓止まりそう。

 行動は問題じゃないっす。その存在そのものと、あり方に問題があったっす。


 小者臭い自分の本性が顔を出しかけて、慌てて、いや、何事もなかったかのように澄ました顔で報告を続ける。


「はい、いえ。行動に問題があったのではなく、そのあり方に問題があったものと思われます」


 しまった。なんか変な言い方じゃなかったか?

 続けたまえ、というのでありのままを報告する。

 ここでごまかしても、上司権限で勝手に閲覧するだけだしな。


「三次職とガイド妖精の進化を確認しました」


「なんとっ!!」


 一瞬で詰め寄る自称退役軍人。

 圧が半端ない。

 顔が近い。

 声がでかい。

 ついでに息も体臭も臭い。

 離れろ離れろ。オッサンに身体をぴったりくっ付けられても、恐怖しか感じんわ。


「んんっ、報告、させてもらいますっ」


「うむ、詳しく」


 その前にコーヒーを淹れますって言ったら、紅茶をご所望された。しかも、ストレートではなくレモンかアップルかミルクを淹れてくれと。子供か!


 感情のままにぶちまけたら、どれだけスッキリするか。

 まあ、その時は、仕事もスッキリするだろうけどな。

 無職という名のスッキリ。


 そういえば、と、チョコチップに砂糖がけされた甘い甘いクッキーと、甘い甘いジャムが盛られたクッキーがあったな。皿に盛り付けてレモンティーと一緒に出してやると、さっそくポリポリやっていた。子供か! 甘党か!


 しかし、一次職しかでないはずのβテスターに、


 ・勇者

 ・賢者

 ・姫騎士


 そして、(かんなぎ)


 戦士と僧侶と魔法戦士を極めた勇者に、

 魔術師と僧侶と付与士を極めた賢者に、

 戦士と格闘家と狩人を極めて特別な資格が必要な姫騎士。


 そして、このAEOでは、特別な意味を持つ『(かんなぎ)


 正式サービス開始後、しばらくしたら情報が少しずつ出てくるはずが、いきなり当たりを引きまくってるよ。


 しかもね、その巫の子、リアルは男って話じゃないか。プロフィール上はそうなってる。

 いやあ、なんかの間違いじゃないかなと思うけどね。

 あんなに綺麗で可愛くて胸でかくて手足も腰も細くて黒髪美人な理想の大和撫子って感じの子が、現実では男とか。

 書類が間違っていたんだろう。うん、きっとそうだ。結婚してください。


 報告が終わると、上司はまずお茶のお代わりを要求しやがった。

 今度はアップルティーですからね。

 砂糖は入れませんからね。

 太るぞ、病気になるぞ、と脅すと、でかい体をしゅんと小さくしていた。

 こうなると大人しい。


 さて、紅茶を淹れ直して出してやると、さっそく香りを楽しみ、一口。

 外見からは想像もできないほど上品な所作。

 外国の軍隊云々も、あながち嘘ではないのかも。


 一口、二口、紅茶をゆっくり楽しんで、飲みきってしまった。


 あんた何やってんの? お茶飲みに来たの? どうせなら秘書の女の子寄越してよ。超歓迎するよ? 向こうの仮眠室でおもてなしするよ?

 ……いかん。妄想が漏れ出そうになってしまった。


 オッサンと二人、しばし無言ですごしたせいか、なんかおかしなことを考えていると、ようやく、オッサンが口を開いた。


「……素晴らしい……」


 モニター越しに巫の子を凝視して、一言。


 犯罪臭しかせんわ。お巡りさん、コイツです!


「これで、計画は、ぐっと進む。赤井くん、この子に可能な限りの援助をしなさい。情報開示請求など、きみの権限を越えそうな場合、秘書を通さず私に直接連絡してくれて構わん。これは、AEOに関して、私に直通するアドレスだ。緊急時以外は、この巫の子のことで何かあれば躊躇なく掛けたまえ。秘書には話を通しておこう」


 オッサンから、名刺と手書きのメモを渡される。

 ものすごく、嫌な感じ。

 この、自分の権限をあっさり越えることが頻発しそうな予感。

 秘書の女の子とオハナシしたいから、これ火ぃ付けていい?

 ……いいわけねーわな。ガンバリマス。ちくせう。


 何気なく、クッキーを盛った皿に目を向けると、空になっていた。俺、一枚も食べてないのに。


 ……太るぞ、オッサン!!



 上司からの手書きのメモ。


 三次職解放者に、ボーナス配布決定。

 ガイド妖精の進化ボーナス配布決定。


 明朝4:00配布。3:30までにボーナスの選別と適用を確認されたし。

・装備 (4ランク以上の品)

・装備強化用簡易キット (使い捨て)個数に注意。

・パートナーシステムの実験的な解放許可。NPCへの申請は注意喚起する事。

・ガイド妖精の攻撃スキル解放(条件:進化)



 徹夜決定のお知らせ。ちくせう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うまい引きですね。お見事です。 先が気になるっ! [気になる点] 赤井さんをどこぞのサラリーマンと重ねてしまった…… [一言] >書類が間違っていたんだろう。うん、きっとそうだ。 結婚して…
[一言] どんどん面白くなってますね!! この陰謀渦巻く感じが堪りませんよ!w 第二部も楽しみにしております♪
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