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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー2 家族
77/194

第七十七話:閑話:ダーティー

 βテストプレイヤーの視点。


 鬱展開注意。

 犯罪を肯定、助長するものではありません。




 生まれもっての人殺しは、永劫(えいごう)許されることはないらしい。




 母体の死後、切開して取り上げられた赤子は、父に当たる男に人殺しと言われ、育児放棄にあった。


 しかし、妻を亡くしたばかりの男は(しか)るべき所に相談して養護施設へと預けたのだから、親子の愛情はなくとも死なせるつもりはなかったのだろう。




 ……例えそれが、男自身の社会的な立場を守るために仕方なくだったとしても。




 妻を失い、憔悴(しょうすい)した様子で産まれたばかりの赤子を手放す手続きをする様子には、一定の反感と非難、一定の同情が向けられた。


 その後、休職し、後に仕事を辞めてしまった男は、精神が衰弱していると言われ、病院に通うことになる。




 そんな中でも、施設に預けられた赤子はすくすくと育ち、ある程度の分別がつく年齢に成長した。




 赤子が少年と呼べる年まで成長した頃、父への面会を望み、叶った際の言葉で、思い知る。


「お前が妻を殺した。お前さえいなければ」




 生まれもっての人殺しは、永劫許されることはないらしい。




 少年は、父だった男の言葉を鵜呑みにした。


 その上で、血走った目で呪いの言葉を吐き続けながらも、わずかに残った理性で無理矢理激情を押さえ込む父という男が、なぜ目の前の人殺しに復讐をしないのか不思議に思う。




 ……それは、言ってはいけない言葉。




 無邪気に、無垢に、無表情に、男に問うた。




 どうして、ころさないの?




 と。




 幼い子どもの無垢な言葉は、男の最後まで残っていたわずかな理性を粉々に打ち砕き、凶行に走らせようとした。


 ただならぬ様子を察した施設の職員に止められなければ、男は自身が人殺しになるところだった。




 元々、他者と対面でのコミュニケーション能力に難のあった少年は、馴染めず孤立していたこともあり、施設での集団生活を諦めた。






 少年は施設から抜け出し、誘われるがままに反社会的な集団の居場所に身を寄せる。


 そこでは、集団の中にいる誰かの指示に従い簡単な労働をするだけで、過度に接触してくることはない。

 トイレ風呂付きの個室を用意してくれるし、食事も個別に準備してくれる。

 ただ、衣類だけは、サイズの問題だと無理矢理連れ出されて、散々もてあそばれたことはあった。


 ……実際は、服や靴のサイズを計っていたのだという。

 その時だけは真剣に(しか)られたと思う。




 求められるがままに労働すれば、対価を得られる日々。

 それが良いことかどうかは判断がつかなかったが、施設での生活と比べれば、満ち足りていたのではと思った。




 月日は流れ、少年は青年と呼べるほどに成長する。


 身を寄せている集団が特別に用意したという『こせき』とかいう情報により、成人したと告げられてから数日後に精密検査が行われる。

 そこで、重い病気が発覚したと言われた。


 その話を聞いた、身を寄せている集団の多くの者が落胆した。


 そして、理解する。

 この病気は、知られてはいけないものだったと。






 思い込みの激しい青年は、ここにいてはいけないと判断。集団の居場所から抜け出し、人目を避けて生活するようになる。


 しかし、これまで青年は、待っていれば、誰かに声をかければ、食事が用意される環境にいた。


 食べていいものと悪いものの区別もつかず、すぐさま深刻に飢えた。






 病よりも先に、飢えで死ぬ。


 人目につかない場所で、なんとなくだが確信に近いものを感じた。


 誰もいない場所で、助けなど来ない場所で、誰にも看取られないまま、死ぬ。




 ……そう、思っていた。




「きみ、そんなところで寝ているくらいなら、私のところに来なさい。衣食住程度なら支給しよう」


 返事をする間もなく、どこかへと()()()いかれた。






 環境が変わっただけで、言われたことをこなす日々。

 しかし()()は、なにかが違った。

 青年が、これまでの人生で感じたことのないなにか。

 そう長くはない命と自分で分かるくらいにまで衰弱したけれど、心は温かく、時折熱いとすら感じた。


 道半ばにして命が尽きようとも、他のみんなで必ず成し遂げてくれる。


 だからか。


「なにを、すればいい?」


 自分から、誰かに問いかけた。

 時々顔を見せてくる、少し年上の男に。

 これまでは、誰かに言われるがまま何かをしていただけの自分が。


「他に、何をすればいい? 何でもやるぞ。言ってくれたなら何でもやる」


 男は、とても困った顔をして。


「あー……。誰にも頼みづらいことなら、ある。……やって、くれるか? 本当に嫌なことだぞ?」


「やれといってくれ。これまで、言われたことなら何でもやってきた。たぶん、非合法な犯罪行為も。だから、命じてくれ。俺は、()()があれば何でもやる」



 男は、しばらくの間頭を抱えていた。



 やがて、頭を上げて、俺の目を見て話してきた。

 怖いと何度も言われてきた、俺の目を。



「これは、命令することじゃない。俺の立場からだと、頼むことしかできない。……すまない。ダーティーなことになるが、嫌な役割だが、引き受けてくれないか?」


「分かった。やらせてもらう」


 頼み事の内容を聞く前に即答して、しばらく説教された。


 それがまた、心配しているのが分かるくらい真剣な表情だったので、叱られていることに理不尽を感じながらも心が温かくなるのを感じた。



 それと、チビだった頃にいた施設の、『お母さん』と呼ばれていた女のことをなぜか思い出した。




 相手は男なのに母親とか。

 ……変なの。





 ゲームのテストプレイと言われてやったことは、まずは『街』に向かうこと。



 強面(こわもて)で筋肉質なのに女性型というよく分からない妖精に、優しげな声音で色々教わりながら先導されて歩く。


 移動中、動物のような見た目の何かが出てくるが、それは《魔物》だから倒せ。と言われるがままに倒す。

 初期装備のこん棒は、丸太を持ちやすく削っただけの簡素な物だったが、扱いやすかった。


 日が暮れたら持ち運び可能なテント型の《拠点》で夜を明かし、食事は固形の栄養食か缶詰めを選べたので、缶詰めを選ぶ。

 料理などしたことないので、小麦や野菜などの素材を渡されても困るところだった。助かる。


 日が昇ったら移動を再開。数日かけて街にたどり着く。

 すると、なにやら不穏な気配がする。


 人が(せわ)しなく行き来しているが、誰も彼も余裕のない表情。

 長く身を寄せた反社会的な集団も、何度かあんな表情をして慌ただしく動いていた時があった。


 ……ガサ入れか?


 妖精に尋ねても、『知らぬ』と低く威圧するような声。

 これで普段通りの口調だというのだから驚いた。最初の説明は、だいぶ優しくしてくれたらしい。


 仕方なく、妖精の勧めるままに《冒険者ギルド》を訪ね、情報をもらいつつ登録する。


 その後は、妖精に先導され何度かチンピラと交渉(物理)しつつ、レスラーのような巨漢と肉体言語で語り合った。


 その後、顔が腫れた下っ端チンピラと地面に倒れて荒い息をしている巨漢に妖精からもらった《ポーション》を渡し、固形の栄養食と清涼飲料水を分け合って回し飲みしたら普通に仲良くなった。


 で、潜入する目標の闇ギルドを紹介してもらうことになり、


「何ができるか分からんが、言われたことは何でもやろう」


 と宣言すれば、数日後に仕事を紹介され、妖精と協力してこなせば、街の()()()()の一人に会うことができた。


 ……こっそり《鑑定》すれば、顔役の部下のうちの一人のようだが。


 そこで紹介された仕事は、()()()


 明確な犯罪行為を、淡々とこなした後で気づいた。


 (さら)われた人物が、ある人と会った時、それまでの()()()()が、涙すら伴った()()へと変わったことに。



 なるほど、と思う。



 闇ギルドは、悪なのは確かなのだろう。しかし、悪事でも、人を喜ばせることができる。

 それは、正規の手段では叶わないと知りつつ、それでも何とかしたいと願う人の最後の()り所の一つなのだと。


 そう、思った。悪は悪だけれど。




『隠しステータス《カルマ》が変動。現在 -3』




 ログに表示された文章を読み流して、確かな満足感を抱いたまま《拠点》で眠りについた。






『運営より、メールが届いています』



 ゲームのテストプレイ開始から八日目の朝。

 自動で表示されたステータス画面のログによると、条件を満たしていないために妖精からの支援が断たれることになったという。


 ……たしか、そんな説明があった気がする。忘れていたけれど。


 今後は、運営と直接やり取りする必要があるらしいが、闇ギルドに潜入という当初の目標は既に果たしているために問題がないと思えた。


 ……強面で無口だが頼れる妖精が居なくなったことは、残念だったが。






 ……その、さらに数日後。






『《妖精の呪い》が発動しました』



 気がつけば、周囲には()ちた遺跡のような建物群。



『《妖精の輪(フェアリーサークル)》の発動を確認。現在位置を確認してください』



 腐った死体や人骨が歩き回り、足の無い半透明なヒトガタが浮かぶ、広大な地下施設。



『運営との通信が途絶えました。妖精を介してのサービスが提供できません』



 自分の手は、周囲の死体のように腐っているようで。



『警告 : 速やかに運営と連絡を取ってください。サービスが受けられず深刻な状況に陥る場合があります』



 視界は(もや)がかかったように不良。


 口から出る音は、人の声を(つむ)げず(うめ)くばかり。


 周囲にまともな人は、誰もいない。


 周囲の動く死体(ゾンビ)歩く人骨(スケルトン)は、呻き声をかけても反応しない。




 ……命令するものは、誰もいない。




 ……ここがどこかも分からない。




 ……頼れる妖精はもういない。




 ……これからは、自分で考えて行動しないといけない。




 ……だというのに、なぜか、『解放された』と思った。




 思考する死体となった青年の胸には、確かな『歓喜』があった。




 俺は、自由だ!




 解放された歓喜を胸に、目の前を通り過ぎた動く死体(ゾンビ)に後ろから襲いかかった。



妖精の輪(フェアリーサークル)》の発動を確認。


・強制転移 : 朽ちた地下遺跡群 《オールドパラダイス》

・種族変換 : 人間 → ゾンビ


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― 新着の感想 ―
[一言]  ん~、潜入っつうか、もう取り込まれちゃってる感がすごい。  ヤタの反撃でゾンビ化したわけですか。  妖精、怖い。
[一言] これはこれで、一つの短編小説のようですね! 面白かったです!
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