第七十五話:襲撃イベント
鶏と戯れて……というよりは集られて、ようやく解放されたと思ったら、今度は牛が寄ってきて、もうもう言いながら頭とか鼻とかこすり付けてきたので、1頭1頭顔や背中を撫でてあげる羽目になった。
12頭を3人で分担して撫でたわけだけど、手で牛の背中をなでなでかいかいするのはけっこう大変で、ブラシが欲しいと思ったよ。
……どういう形のブラシがいいのかな?
牛舎に戻っていく牛たちを見ながらそんなことを考えていると、ヤタ、ジョン、メグ、ゴスケさんたちが、一斉に西の方を向いた。
『WARNING! WARNING! 《襲撃イベント》が発生しました。《迎撃ユニット》が起動します。《迎撃設備》は該当ありません』
警報が鳴ったあと、勝手にステータス画面が表示され、ログに文字が表示されていく。
『《襲撃イベント》 : 危険度 : 高。
襲撃者 : はぐれワイバーン。
分類 : レイドボス(移動型)』
『……はは……運営のクソども、ここを潰す気か……?』
急に俯いてブツブツと呟くヤタが、かなり怖いんだけど……?
『…………ミコト!』
「ぴゃっ?」
首だけぐりんとこちらを向いたヤタの目が、なんだかギラついているように見えて、悲鳴みたいな変な声が漏れてしまう。
『はぐれワイバーンは、群れからはぐれて《魔の森》の外に出てきた危険な個体だ。平地とかならその機動力を存分に発揮できる』
「待って、ヤタ。《拠点》には結界が張られているから、魔物は侵入できないんじゃないのっ?」
『《畑》や《牛舎》が拠点にあると、《襲撃イベント》が発生して魔物でも拠点内に侵入してくるようになる。ただ、ワイバーンみたいな大物は、《拠点》のレベルが上がらないと発生しないはずなんだが……。まあ、運営が故意にイベントを起こすような例外はあるってことだ。今回みたいにな』
「そんな……。じゃあ、畑とか、鶏や牛たちは?」
『ヤらなきゃヤられるだけだ。だから、ヤるぞ』
西の方から飛来するナニかは、みるみる内に大きくなり、
『カウント、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、《襲撃イベント》スタート!』
『ギャオオォォォウッ!!』
挨拶代わりの飛竜の咆哮が、物理的な衝撃となって僕たちを襲った。
※※※
結論、1分と経たずに戦闘は終了しました。
もちろん、僕たちの勝利で。
『WINNER! 《襲撃イベント》防衛成功!』
ゴスケさんたちが変なポーズを取ったら、ワイバーンがゴスケさんたちに突進してきて、
『くらえ、《ダブル》《ウインドアロー》』
ヤタの両手から放たれる不可視の風の矢がワイバーンの両目に突き刺さって視覚を奪い、
「オラァッ!」
飛竜のブーツを装備しているミナトにカウンターで顎を蹴り上げられ、
『『いきますワーン!』』
飛竜爪の小太刀を装備したジョンとメグが両翼を斬り飛ばし、
「……ふぅぅ……斬っ!!」
飛竜牙の太刀を装備したトールくんが、無防備なワイバーンの首を斬り落とした。
……僕? みんなに大急ぎで《付与》したけど、それだけ。
あっという間だったよ。
こうしてみると、ワイバーンは意外と大したことないと思うかもだけど、今回のは《はぐれワイバーン》で、体が成長しきってない若い個体だから弱かったのだという。
ヤタが言うには、本来なら、ゴスケさんたちの挑発スキル《ポージング》で挑発しても、突っ込んで来るとは限らないのだという。
若くて血気盛んで無鉄砲な《はぐれ》だったから、こんな簡単にいったのだと。
あと、《特効》付きの武器はハマれば強いってさ。
他にも、メタがどうとか言ってたけど、よく分かんなかったよ。
「ふい~。突進してくるデカブツ相手にカウンターは、なかなかおっかねぇな。だが、なんとかなった」
飛竜の小手を装備した両拳を打ち付けているミナトを見ると、ホントそうだよね、とため息が出てくる。
「ミナト、おつかれさま~」
「お、おう。……いやなんで頭を撫でる!?」
声を上げるわりには、頭を撫でたり髪を手櫛で梳く僕の手を払ったりしないけど?
「頭なでなでは嫌だった?」
「…………嫌じゃない」
不満そう、というよりは困った感じのミナトがかわいい。
『『撫でて欲しいですワーン』』
ジョンとメグも駆け寄ってくるので、こっちの二体はミナトと協力してワシャワシャやる。
「みんなお疲れさま。なんとかなったね」
「トールくんもおつかれさま~。カッコよかったよ~」
「…………う、うん、たしかに、カッコよかった」
ジョンとメグを撫でたあと、近くにきたトールくんの左腕にしがみつく。
「ほら、ミナトもっ」
「えっ? ええぇぇ……。し、失礼します?」
僕に言われて、戸惑いながらもトールくんの右腕にぎゅ~っとしがみつくミナトを見て、今度はなぜかホッとした。
……さて、ワイバーンをまるごと手に入れたけど、どうしよう?
※リザルト
・はぐれワイバーンの死体(状態:最良)×1




