第七十一話:閑話:八日目
AEO開発スタッフの視点。
第1次βテスト終了を記念した祝賀会の翌日、前の日に引き継ぎは済ませたものの、やはり状況が気になって現場に顔を出してしまう。
岩崎と梅原は……。
やっぱいないか。休みだしな。
ソファでぐったりしてるヤツは、まさか泊まりで仕事したのか?
デスマするようなスケジュールではなかったはずたが……?
「あ、主任。どうしたんすか? 嫁さんたちはお休みでいないっすよ?」
開発スタッフの一人が苦笑混じりに茶化してくる。こいつも疲労が見えるな。
「うるせぇ仕事しろ。……進捗は?」
「えーと……。問題なさそうですね。部長から『巻きで』と言われているんで、スケジュール前倒しになりそうっす」
作業を一切止めずに二台のモニタを交互に見ながら自分の仕事と進捗確認をしていた。
……聞いたのは俺だが、やらかすなよ?
「そんな顔しなくても、やらかさないっすよ。ミスった方が時間ロスしますし」
「いや悪い。作業に戻ってくれ。お疲れ」
「うっす。……あ、主任。時間あるなら部長と、鈴原さん小林さんの夫婦に会っといてください」
「分かった。……部長はともかく、二人に何か問題があったか?」
「ところ構わず砂糖吐きそうなんで、風紀は乱さないように釘刺しといてください。刺すなら包丁でもいいっすけど」
顔を上げて俺を見た一瞬だけ、闇に堕ちたような目をしやがる。
なんて物騒な。
「俺じゃ返り討ちにあうのがオチだよ」
アバターの姿そのままの鈴原さんにパンチしてみたが、片手でいなされたしな。
「主任も早く籍いれた方がいいっすよ。……彼女を間男に寝取られる前に」
……ああ、こいつも、わけありなんだっけ。
完全にドヨンとした表情になった男性スタッフに、「落ち着いたらな」と声をかけて、部長……の前に鈴原さんの部屋にいってみようか。
あれこれ考えながら社員寮の方に足を運び鈴原さんの部屋に着いたとたん、帰りたくなった。
……だってさあ、二人して愛を語り合ってる真っ最中だったんだぜ?
ドア越しに聞こえてくるんだよ。小林さんの声が。
昼間っから。……昼間っからだと!?
これはもう、部長が相手でも鼻息荒くなっても仕方ないのでは?
「部長! スケジュールと仕様の変更は事前に指示書を提出してくださいと何度言ったら分かってもらえますかね!? それと、スタッフに意味なくデスマさせないでくださいっ!! まだスケジュール的に余裕があるでしょう!? 部長の事情は汲むようにスタッフに周知してますけど、デスマが必要なら俺を通してください。ちゃんとスタッフに事情を説明してから仕事してもらいますから!
……こら部長、聞いてるんですかっ!?
なんで目ぇそらすんです!?」
おいコラオッサン、巻きで、じゃねぇよほんと。
スタッフ潰すなら俺から先に潰せよアホウが。
俺なら、倒れても他の誰でも代わりは勤まるが、スタッフが一人倒れたら、どんだけの損失だと思ってやがる?
その損失、取り戻せないんだからな?
この後ちゃんと、鈴原さんに釘刺しといた。
小林さんは顔を真っ赤にしてずいぶん恥ずかしがっていたから、鈴原さんの方から無理に迫ったのかとも思ったが……。
二人して、普通にのろけやがった。
確かに、砂糖吐きそう。




