第七十話:帰宅
トールくんの手が離れる。
あ……。と名残惜しげな声が出るものの、とりあえずは無かったことにした。
「ミコト、その子のこともあるし、今日はもう帰らないか?」
そうだね。と、反射的にうなずこうとしたので、ちょっと考えてみて、やっぱり帰ることにした。
この子、髪を撫でてみても頬をぷにぷにしてみても全然起きそうにないし。
……白い髪の少女が起きないこと。それ自体はいいのだけれど……。
「えっと、この子、どうやって運ぼうか?」
「俺が背負っていくよ。戦闘は、ジョンとメグがいればよほどの相手じゃないと大丈夫だろうし」
そうだね。と、反射的にうなずこうとしたけれど、この子は女の子なんだし、やっぱり僕が背負っていくよ。と言おうとしたところで、ヤタがめんどくさそうに口を開いた。
『ゴーレムを召喚すればいいだろ。拠点にいる骨の片割れを』
「……えっ? ゴスケさん、召喚できるの?」
『できるぞ。生産して名前をつけた段階で、契約も済んでいる。スキル《召喚》に《ゴーレム》が増えているはずだし、お前実際召喚したから、知らんとは思わなかったが……』
……えー……すっかり忘れてたよ……。
確認してみれば、ちゃんとスキル《召喚》の中に《ゴスケさん1号/2号》が増えているし、ログにも書かれていた。
それどころか、召喚したことがログにしっかり書かれてたよ……。
『あー、犬どもは待機状態の《帰還》と《召喚》をしたことなかったから、忘れてたんだろうけどな』
……えーと、なんか、ごめん?
『まずはやってみろ。スキルの使用に必要なMPと、現在のMPの確認を忘れるなよ? 下手するとまた倒れるからな?』
心配性だなぁ。と思いつつも、僕は実際にやらかしたから、なにも言えないね。
MPをちゃんと確認してから、スキル《召喚》を使用。対象は、《ゴスケさん1号》。
「《召喚》、《ゴスケさん1号》!」
地面に金色の魔法陣が現れ、ワイバーンの骨から造り出された、二足歩行の竜、の、骨格模型のようなスケルトンゴーレムが姿を現す。
……なぜか、指をピンと延ばし両手を左斜め上に向けたポーズをとっていたけれど。
『……どうでもいいが、その名前なんとかならなかったのか?』
もう、そんなのいいじゃないのさ。
「ゴスケさんゴスケさん、そろそろおうちに帰るから、この子をね、そっと運んでほしいんだ。できるだけ揺らさずに」
ゴスケさん1号は、なぜか片足立ちになり両手を上げてYの字を体で表現するようなポーズをとった。
……えっと、了解ってこと?
「じゃ、じゃあ、お願いね?」
上げた両手を今度は下げて、荷物を抱えるようなポーズをとる。
……なんのポーズだろう?
『キレてるよって言ってやれよ』
「……うーん? 何がきれてるの?」
『さあな。知らないならそれでいいだろうさ。おう、骨、伝わらないから無駄なポージングはやめろ』
今度は両手両ひざを地面に着いてしょぼんとしていた。
……えっと、なんか、ごめんね?
まあ、気を取り直して、まずは無人の開拓村へ。
そこからは、ポータルゲートで拠点へ。
帰ろう。《僕たちの家》に。




