第七話:絶対コロスマン
絶対に相容れないモノとの邂逅
建物の外に案内される。
振り向けば、神社のような大きな木造家屋。
正面に草原。丈の短い草が多いけれど、ポツポツと花も生えており、緑の中に赤や黄色が自己主張している。
右手にはずっと遠くに広い森。大分遠いけれど、ここからじゃ果てが見えない。
森の広さや、木の高さにも少し驚くけれど、遥か高みに鳥らしきなにかが……。……あれ?鳥じゃなくて何だろ? 火吹かなかった?
左手には、はげ山。むき出しの岩肌が、なにか威圧感を放っているよう。
森の火吹き鳥より危険な感じがする。
建物からすこし離れた位置で振り返るヤタ。
『この辺でいいか。準備しろ』
やるのか。
薙刀を両手で構えて呼吸を整える。
ここは、あまりにもリアル。出てくる敵はきっと、想像以上に危険だ。
嫌なら、このゲームをプレイし続けることはできない。
『先触れ:ヤタが申請。チュートリアル・バトルモード、起動』
草原に円が描かれ、その中に光が走る。魔方陣が描かれていることを理解した。
『では、いくぞ? ゲート・オープン』
魔法陣の中に、一瞬、光の柱が生まれ、光が消えた後にいたのは……。
身長、一メートルくらい。
頭には一本の小さな角。
緑色の汚い体に、汚い腰布を巻いただけの姿。
これが、ゴブリン。
……これが、敵。
(近くから、レベルの低いやつを引っ張って来た。気を付けろよ? いくらチュートリアルといっても、本物の戦闘だ。気を抜くとヤられるぞ)
ヤタの声が、直接頭に響いてくる。
引っ張って来たってことは、幻じゃなく本物の敵。……本物の、害悪。
急に景色が変わったからか、辺りを忙しなく見渡していたゴブリンが、こちらに気付く。
ニチャアと、気持ち悪い顔の気持ち悪い口を、三日月のように気持ち悪く開く。
……ああ、本当に、気持ち悪いヤツ……
極上の獲物を見付けたとばかりに、ヨダレを垂らしながら走り寄るゴブリン。
気のせいでなければ、腰布が……
無言で、無心で、薙刀を突き出す。
ゴブリンは相当にアホなのだろうか? 自分から薙刀に刺さりに来た。
胸を貫かれた汚い小鬼は、光の粒子に変わって、弾けて消えた。
その場には、銅製の硬貨数枚と、汚い小石に汚い布、角っぽいなにかと、鞘に納められた、半端な長さの剣が一本。
『お見事。ドロップアイテムを収納しよう。手で触れるか、一メートル以内に近寄って、収納、と念じればいい。……しかし、いきなりレアドロップか……』
銅貨5、小鬼の魔石1、小鬼の角1、ゴブリンソード1を入手。
「……ヤタ、次」
『うん? どうした?』
どうしたんだろうね? コイツらは、皆殺しにしなきゃいけないと、『私』の中のナニカが騒いでいるんだよ。
「ヤタ、次」
『お、おう』
どこか怯んだ様子のヤタ。すぐに光の柱が生まれ、また、薄汚い略奪者が。
薙刀を振るう。首が飛ぶ。光が弾ける。
「ヤタ、次」
『お、おい、どうした?』
「次! 早く!」
『私』が叫べば、妖精は、あの怨敵を一匹ずつどこからか引っ張ってくる。
隙だらけ。薙刀を一閃。
まだ、まだ、こんなんじゃ足りない。
『私』の恨み辛みは、『皆』の無念は、こんなんじゃ晴れない。弔いには、まるで足りない!
もっとだよ! 一度に二匹でも三匹でもいいから!
薙刀を、振るう、振るう、振るう、振るう!
『ミコト、もう打ち止めだ。一旦休め』
気が付けば、大きく肩で息をしていた。
全身にかいた汗で、身体が冷えきってしまっている。髪は顔に張り付いているし、巫女服は、水をかけられたように、体に張り付いて、しかも少し透けている。
「ふわっ!?」
自分の状態に気付いて、薙刀を落としてしまう。
「な、なんで……?」
汗で透ける身体を隠すように抱きしめ、相棒の姿を探す。
『何でってお前、あれだけ殺れば当然だろ? レベルとかアイテムとか、確認してみろ。……ああ、神殿に風呂がある。食事も用意する。まずは神殿に戻るぞ』
「……ふう。僕、疲れてたんだね」
ライオン像の口から流れ出るお湯を見ながら、何気なく呟く。
腕の筋肉がガチガチに固まっていて、痛い。お湯に浸かりながら、慎重に揉みほぐしていくと、少しずつ、疲労もお湯に溶けていくような気がした。
十分に暖まってから風呂を出て、脱衣所の姿見で今の僕の姿を確認してみる。
……変なところは、ない。
傷もないし、綺麗なものだった。
……そう思うあたり、相当におかしいということには、気付いていなかった。
焼きたてのパンと、干し野菜の入ったスープと、ハムエッグをペロリと平らげて、鍵のかかる寝室に。
長い髪がしっかり乾いていることを確認して、ベッドに横になる。
「んー、ヤタ?」
(なんだ?)
姿の見えない相棒に声をかけてみれば、頭の中に直接声が聞こえてくる。
なんとなく、近くにはいる感じだ。
「なんでもないけど、どこにいるの?」
(神殿の中にはいるから。心配すんな。神聖な結界があるから、ゴブリンもワイバーンもマウンテンゴーレムもこの神殿には入ってこれない)
気になる言葉が混ざってたけど、ここは安心らしい。
ふあぁぁ。なんだか眠くなっちゃった……。
(スタミナの回復には、寝るのが一番だ。おやすみ、ミコト)
「おやすみ、ヤタ」
眠気には抗えず、そのまま眠りに落ちていった。
・リザルト
ゴブリンの魔石×231
小鬼の角×231
小鬼の骨×106
小鬼の頭蓋骨×17
汚い腰布×192
鬼の腰布×36
鬼の反物×3
折れた鉄の剣×7
粗末な木の槍×8
錆びた鉄のナイフ×6
刃こぼれした鉄の鉈×10
粗末な石斧×4
こん棒×19
粗末な木の弓矢×3
小鬼の鉈×6
ゴブリンソード×4
デミ・スレイヤー×1
契約の結晶 (ゴブリン)×3