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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
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第七話:絶対コロスマン

 絶対に相容れないモノとの邂逅

 建物の外に案内される。

 振り向けば、神社のような大きな木造家屋。

 正面に草原。丈の短い草が多いけれど、ポツポツと花も生えており、緑の中に赤や黄色が自己主張している。

 右手にはずっと遠くに広い森。大分遠いけれど、ここからじゃ果てが見えない。

 森の広さや、木の高さにも少し驚くけれど、遥か高みに鳥らしきなにかが……。……あれ?鳥じゃなくて何だろ? 火吹かなかった?

 左手には、はげ山。むき出しの岩肌が、なにか威圧感を放っているよう。

 森の火吹き鳥より危険な感じがする。


 建物からすこし離れた位置で振り返るヤタ。

『この辺でいいか。準備しろ』


 やるのか。

 薙刀を両手で構えて呼吸を整える。

 ここは、あまりにもリアル。出てくる敵はきっと、想像以上に危険だ。

 嫌なら、このゲームをプレイし続けることはできない。


『先触れ:ヤタが申請。チュートリアル・バトルモード、起動』


 草原に円が描かれ、その中に光が走る。魔方陣が描かれていることを理解した。


『では、いくぞ? ゲート・オープン』


 魔法陣の中に、一瞬、光の柱が生まれ、光が消えた後にいたのは……。


 身長、一メートルくらい。

 頭には一本の小さな角。

 緑色の汚い体に、汚い腰布を巻いただけの姿。


 これが、ゴブリン。


 ……これが、敵。


(近くから、レベルの低いやつを引っ張って来た。気を付けろよ? いくらチュートリアルといっても、本物の戦闘だ。気を抜くとヤられるぞ)


 ヤタの声が、直接頭に響いてくる。

 引っ張って来たってことは、幻じゃなく本物の敵。……本物の、害悪。


 急に景色が変わったからか、辺りを忙しなく見渡していたゴブリンが、こちらに気付く。


 ニチャアと、気持ち悪い顔の気持ち悪い口を、三日月のように気持ち悪く開く。


 ……ああ、本当に、気持ち悪いヤツ……


 極上の獲物を見付けたとばかりに、ヨダレを垂らしながら走り寄るゴブリン。

 気のせいでなければ、腰布が……


 無言で、無心で、薙刀を突き出す。

 ゴブリンは相当にアホなのだろうか? 自分から薙刀に刺さりに来た。

 胸を貫かれた汚い小鬼は、光の粒子に変わって、弾けて消えた。

 その場には、銅製の硬貨数枚と、汚い小石に汚い布、角っぽいなにかと、鞘に納められた、半端な長さの剣が一本。


『お見事。ドロップアイテムを収納しよう。手で触れるか、一メートル以内に近寄って、収納、と念じればいい。……しかし、いきなりレアドロップか……』


 銅貨5、小鬼の魔石1、小鬼の角1、ゴブリンソード1を入手。


「……ヤタ、次」


『うん? どうした?』


 どうしたんだろうね? コイツらは、皆殺しにしなきゃいけないと、『私』の中のナニカが騒いでいるんだよ。


「ヤタ、次」


『お、おう』


 どこか怯んだ様子のヤタ。すぐに光の柱が生まれ、また、薄汚い略奪者が。


 薙刀を振るう。首が飛ぶ。光が弾ける。


「ヤタ、次」


『お、おい、どうした?』


「次! 早く!」


『私』が叫べば、妖精は、あの怨敵を一匹ずつどこからか引っ張ってくる。

 隙だらけ。薙刀を一閃。

 まだ、まだ、こんなんじゃ足りない。

『私』の恨み辛みは、『皆』の無念は、こんなんじゃ晴れない。弔いには、まるで足りない!

 もっとだよ! 一度に二匹でも三匹でもいいから!



 薙刀を、振るう、振るう、振るう、振るう!




『ミコト、もう打ち止めだ。一旦休め』


 気が付けば、大きく肩で息をしていた。

 全身にかいた汗で、身体が冷えきってしまっている。髪は顔に張り付いているし、巫女服は、水をかけられたように、体に張り付いて、しかも少し透けている。


「ふわっ!?」


 自分の状態に気付いて、薙刀を落としてしまう。


「な、なんで……?」


 汗で透ける身体を隠すように抱きしめ、相棒の姿を探す。


『何でってお前、あれだけ殺れば当然だろ? レベルとかアイテムとか、確認してみろ。……ああ、神殿に風呂がある。食事も用意する。まずは神殿に戻るぞ』



「……ふう。僕、疲れてたんだね」

 ライオン像の口から流れ出るお湯を見ながら、何気なく呟く。

 腕の筋肉がガチガチに固まっていて、痛い。お湯に浸かりながら、慎重に揉みほぐしていくと、少しずつ、疲労もお湯に溶けていくような気がした。


 十分に暖まってから風呂を出て、脱衣所の姿見で今の僕の姿を確認してみる。


 ……変なところは、ない。

 傷もないし、綺麗なものだった。



 ……そう思うあたり、相当におかしいということには、気付いていなかった。



 焼きたてのパンと、干し野菜の入ったスープと、ハムエッグをペロリと平らげて、鍵のかかる寝室に。

 長い髪がしっかり乾いていることを確認して、ベッドに横になる。


「んー、ヤタ?」


(なんだ?)


 姿の見えない相棒に声をかけてみれば、頭の中に直接声が聞こえてくる。

 なんとなく、近くにはいる感じだ。


「なんでもないけど、どこにいるの?」


(神殿の中にはいるから。心配すんな。神聖な結界があるから、ゴブリンもワイバーンもマウンテンゴーレムもこの神殿には入ってこれない)


 気になる言葉が混ざってたけど、ここは安心らしい。

 ふあぁぁ。なんだか眠くなっちゃった……。


(スタミナの回復には、寝るのが一番だ。おやすみ、ミコト)


「おやすみ、ヤタ」


 眠気には抗えず、そのまま眠りに落ちていった。




・リザルト

 ゴブリンの魔石×231

 小鬼の角×231

 小鬼の骨×106

 小鬼の頭蓋骨×17

 汚い腰布×192

 鬼の腰布×36

 鬼の反物×3

 折れた鉄の剣×7

 粗末な木の槍×8

 錆びた鉄のナイフ×6

 刃こぼれした鉄の鉈×10

 粗末な石斧×4

 こん棒×19

 粗末な木の弓矢×3

 小鬼の鉈×6

 ゴブリンソード×4

 デミ・スレイヤー×1

 契約の結晶 (ゴブリン)×3

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうもリンゴです。絶対コロスマンまで読ませていただきました。男の子のジョブが巫女になる。斬新ですね。 [一言] 最後で笑いました。やりすぎです。みごとな殺戮マシーンですね。この狂気の理由は…
2020/09/28 20:47 退会済み
管理
[良い点] いったい何が彼女にそこまでさせた!? 何かが動き出した…… [気になる点] 231体の殲滅はすべて一対一だったのかしら? 相当な時間がかかりそう…… [一言] 展開要素のチラ見せがうまい…
[良い点] これがVRゲーム小説なのですね。 勉強になります。 私の中ではアバターが侍魂の羅将神ミヅキで再現されております。
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