第六十六話:探しにいこう
「探しにいこう」
トールくんが落ち着いたあと、敷地内を一周。牛や鶏と戯れて、畑の雑草を引き抜いて、増えるキノコにビビって、それなりに時間は経った。
けれど、僕も、トールくんも、モヤモヤした気持ちは晴れないみたい。
それなら、いっそのことと、家族になってくれた人に打ち明けてみた。
「見つかるかは分からないけれど、探さなきゃ、見つけることはできないと思うよ」
僕のことを、姉さんだと思えたと言っていた。
なら、弟くんと思える人にも出会えるかもしれないから。
……もしかしたら、ゴブリンを見た時に僕の中から沸き上がった衝動は、トールくんのお姉さんのものなのかも。
それなら、弟くんの魂が宿った人や、転生した人にいつかは会えるのかも。
そう思えば、なにもしないよりは、探してみた方がいいと思えたから。
「だから、いこう? 僕たちの弟くんを探しに」
あてもないし、見つかる保証もない。
けれど、二人でなら、見つけることができるんじゃないかな。
「ああ、そうだね。いこう、おれたちの家族を探しに」
少し涙ぐむトールくんに握った拳を差し出せば、優しく微笑んで拳をコツンと合わせてくれた。
※※※
「ところで、探すといっても、どこにしようか?」
首をかしげてみれば、
「おれがいた街か、森の中かだね」
森の中? なんで? と、反対側に首をかしげる。
「人のこと、人間のことを研究していた学者の手記を読んだことがあるんだけどね」
えっ? 研究資料? と問えば、図書館にあったんだよ、と教えてくれた。
それによると、人は、死ぬと世界へと還り、次に生まれてくるまで待つものと、妖精に姿を変えて世界を巡るものとに分かれるのだという。
ただ、世界に還る場合がほとんどで、成人していない子どものごく一部が妖精になるのだという。
なぜその事が分かったのかなど不明な点が多いため、後の研究でこの話は、
『小さいうちに亡くなった子どもは、妖精になって家族に寄り添う』
というおとぎ話、つまり、創作ではと結論付けられていたらしい。
まあ、つまり、その。
「森にしよう」
なぜかは分からないけれど、今の僕にはそうした方がいいと思えたから。
……ずっと近くでおとなしくしていたワンコ二匹のしっぽが、シャキーンとつき上がった。
※※※
さて、昨日来たばかりの無人の開拓村なう。
そこから、ちょっとだけわがままいって、村内の墓所まで案内してもらった。
6年越しに来たというお墓は、きれいに整備されていて、雑草の一つも生えてなかった。
当時は、お墓はほとんどなかったというけれど……。
今は、たくさんのお墓があり、日に焼けた板に、少し薄くなった名前が記されていた。
「ドリー、ルカ、ジャン。……開拓村は、子どもは少なかったけれど……。それでも、どこかの家で子どもが生まれる度に、ささやかだけれど祝ったんだよ」
トールくんは、そう、寂しそうに言う。
そして、一番奥の、少しだけ見映えがいいお墓の前で立ち止まった。
お祈りの作法とかは分からないので、トールくんを真似て片ひざをついて、合掌して祈ろうとした時、トールくんの組まれた指に強く力が込められているのが分かった。
「トールくん」
なので、その手に、僕の両手をそっと重ねて、二人で静かに祈りを捧げた。
気がつけば、トールくんの手から力が抜けていた。
泣いても笑っても、今日は過ぎ去り明日が来る。
明日になったら、生きてくためにまた稼がにゃならん。
……ある農民のつぶやき




