第六十話:閑話:七日目、24:00
運営より、メールが届いています。(一部抜粋)
運営より、各プレイヤーに通達。
第一次βテストも、予定されていた七日間が経過しました。
ただ今をもって、第一次βテストを終了いたします。
お疲れさまでした。
プレイヤーのみなさんは、引き続きこのAEOの世界をお楽しみください。
では、今後もスタッフ一同、一層努力していきますので、楽しんでいただければ幸いです。
開発室主任 : 赤井。
「ふう……」
嫌な気分になりながらも、βテスター全員にメールを送り終わった。
メールの内容からいって、ため息の一つも出ようものだ。
とはいえ、他人はそうは思わないらしい。
「お疲れ、赤井くん。まずはこれで一区切りだね」
「これは、部長。お疲れさまです。ようやくここまでこぎ着けました」
疲れた表情を隠すことなく、頭を下げる。
紫髪の部長は満足そうにうなずいたようだが、俺には、とても納得など出来そうにない。
「第一次βテストも順調に見える。次のスケジュールはどうなっているかね?」
「次は、得られたデータを反映させるための調整期間に七日、その後、第二次βテストへ移行します。期間は同じ七日。参加人数は100名。サーバーへの負荷も考慮して、これが最大数です」
「うむ。正式サービス開始まで、よろしく頼むよ」
バンバンと肩を叩いて、激励……でいいのか? 結構痛いから、体罰に思えるのだが……まあ、激励でいいのだろう。
「そうそう。既に日付が変わったので、本日だな。第一次βテストの終了祝いと次への英気を養うために、ささやかながらパーティーを開くことにした。ドレスコードなど無い身内だけの打ち上げだ。時間は昼12:00。参加したまえ」
「了解しました」
マジか。休みになってはいるが、こっちは一週間家に帰ってないから、やること盛り沢山だぞ? そんな中で、身内だけの打ち上げだとか。
まだ正式サービス開始してないんだが、何考えているのやら。
……それに、俺は、この展開に納得などしていないんだがな。
第一次βテスターに選ばれた者は、30人中20人が一般人で、残りの10人はメーカー側が事前に交渉を済ませた人たち。
サクラと呼ばれても仕方がないかもしれないが、この10人は全員、家族と別れを済ませて、AEOのゲーム世界に骨を埋める覚悟が出来ている連中だ。AEOに対する意気込みが、普通の人間とはまるで違う。
むしろ、俺を始めとした開発スタッフよりも本気で取り組んできたのを間近で見てきたのだから。
だからといって、この30人中、運営側のスタッフ2人を除く28人は、地球への帰還が叶わないというのはいかがなものかよ?
そこは、俺が全く納得していないところだ。
帰還させる理由がまた、面白くない。
《AEOでアバターを得た者が地球に帰還するとどうなるか?》
それを確認するためだけに、AEOの世界に骨を埋める覚悟を済ませた者を、強制的に連れ戻すことになっているのだから。
「ちっ……面白くねぇ……」
しかしながら、たとえ地球に帰還できなくとも、あちらへ行った者たち全員、メリットばかりに思う。なにせ、多くが病気で余命宣告された者や事故で体を動かすことが出来ない者たちだからだ。
そんな、ベッドの上でしか生きることが出来なかったり、残りわずかの命しか待たない者、無職の一人暮らしなどを中心に選ばれたβテスター30人。
その中には、両親や家族のいる健康な男女も含まれていて。
それもまた、俺が納得していないところだ。
だがしかし、そんな者たちにも、病気や怪我などによる障害が取り除かれることになった上に、若い健康な身体と、戦う力を手に入れることになるのだから、皆喜んで受け入れたそうだ。
特に、三次職の四人は、望む力を手に入れたようだ。
誰かを守れる力。
誰かを支える力。
誰かのそばにいるための力。
そして、誰かと繋がる力。
未来ある若い子達を、開発の主任たる俺自身よく分かってないことに巻き込んでしまって、ほんと、ため息ばかり出てしまう。
「……はぁ……パーティーとか、クソくらえなんだが……」
ちょっと岩崎とか呼んで、愚痴っとくかな……。梅原のやつは……まあ、寝てるだろうからな……。ちょっと叩き起こしてくるかな……。
運営より、メールが届いています。(全文)
運営より、各プレイヤーに通達。
第一次βテストも、予定されていた七日間が経過しました。
ただ今をもって、第一次βテストを終了いたします。
お疲れさまでした。
プレイヤーのみなさんは、引き続きこのAEOの世界をお楽しみください。
また、テストの終了をもちまして、条件を満たしていないプレイヤーについては妖精の直接支援を打ち切ります。
以後は、メール機能を利用した間接支援をご利用ください。
詳細は、以下にまとめておりますので、必ず確認してください。
では、今後もスタッフ一同、一層努力していきますので、楽しんでいただければ幸いです。
開発室主任 : 赤井。
※以下も必ず確認してください。
以下の条件を満たせなかった場合、妖精の支援を打ち切り。
・妖精との友好度/好感度が一定以上。
・妖精が中位以上に進化。
・妖精に名前を付ける。
・運営による判断。
※妖精の支援を打ち切られた場合、質問、意見、要望等はメールにてお願いします。
以下の条件を満たせなかった場合、拠点を撤去。
・拠点での睡眠回数が一定以上。
・拠点の掃除/整理による綺麗度が一定以上。
・拠点の設備レベルが一定以上。
・拠点周辺の土地を一定以上整備。
・運営による判断。
※拠点が撤去された場合、街で宿屋を利用するようにしてください。
その際にトラブル等あった場合は、運営は関与しないものとします。




