第五十九話:閑話:姫騎士 アキラ
別のβテスターの場合。
ぼくの拠点が砦みたいと思ったところから、砦の広場は演習場みたいだね。そう口に出した時、そう設定されたらしい。
『アキラ、次いくわよ?』
「いいよーティータ。じゃんじゃんきて」
『なら遠慮なく。《コロッセオ》、ランダムバトルモード、起動』
演習場の中心部に大きな魔法陣が描かれ、ドーム状の空間として区切られる。
魔法陣が淡く輝き、陣の内側の指定された箇所から、魔物が召喚された。
体長2mを越す、二足歩行のトカゲ、リザードマンだ。
ランダムといいつつ、妖精は出現する魔物を決定できるみたい。そのため、ここ数日はリザードマンをメインに、たまに違う魔物を文字通りランダムに召喚してもらっている。
魔法陣の内側が、戦闘領域となっていて、ドーム状の黒い光の壁が、そのまま物理的な壁として機能していて、戦闘が終了するまではその領域から脱出は不可能になっている。
《戦闘開始》
視界に映る半透明の文字を合図に、リザードマンが突進してくるが、こちらも最速で距離を詰め、飛び上がり、上下逆さまになりながら両手でリザードマンの頭を掴み、飛んだ勢いを利用して体を捻り、首を折って頭を捻り切った。
《勝利!》
視界に映る半透明の文字を合図に、黒い光の壁が消え、リザードマンはドロップへと変化した。
「……うしっ、尻尾ゲット!」
『どうでもいいけど、グロいわよ?』
「せっかくうまくいったのに!?」
望みのドロップ品を手に入れ、さらにアクロバティックな動きが成功して喜ぶぼくに、呆れた妖精のツッコミ。
つい叫んじゃったけど、仕方ないんじゃないかな?
※※※
二日目、改めて拠点を全体的に確認して、
『砦の広場は演習場みたいだね』
そう呟いたとき、演習場から黒い光が放たれ、ぼくはパニックになってしまった。
『何が起きたか、調べてみるわよ?』
アワアワしているぼくに、呆れたティータの声。突然のことに驚きは収まらなかったけれど、相棒の妖精と一緒なら少しだけ落ち着いて調べることができた。
……で、その結果が……。
『ふむ。ログを見てみなさい』
「えーとどれどれ……」
・拠点を整備します。
・《闘技場》が解放されました。
・・《バトルモード》
・・《ランダムバトルモード》
ティータに言われて見てみれば、拠点の設備が解放されたみたい。
詳しく見てみると、
《バトルモード》
・プレイヤー同士が対戦できる。
・対戦時にお金やアイテムなどを賭けて、勝利者が総取り出来る。
・双方が賭けた品の価値の差が著しく乖離している場合、双方が拒否してバトルを取り止めることが出来る。
・バトルを拒否した場合、一定時間バトルモードの申請を受け付けなくすることも可能。
《ランダムバトルモード》
・ランダムで召喚された魔物と戦闘できる。
・戦闘で勝利しても、確定ドロップとお金は手に入らない。代わりに、ランダムで一個だけドロップ品が手に入る。
・戦闘で敗北しても、死亡しない。
・戦闘中に武器防具が壊れても、終了時に戦闘前の状態に戻る。
・妖精のサポートがある場合、バトルする魔物を指定できる。ただし、通常の戦闘で既に撃破した魔物に限る。
こんな感じだった。
これってつまりさ、いちいち魔物を探し歩く必要なく、好きなときに好きなだけ戦闘が出来るってことじゃない?
そう思ったあとは、ぼくの行動は早かった。
まずは、《闘技場》の愛称を《コロッセオ》と名付けた。
次に、ティータが使う、《チュートリアル・バトルモード》は通常の戦闘扱いになるため、ティータを急かして戦闘戦闘。
そして、キングなどの上位種を除いてこの周辺の魔物は全部の種類召喚した、とティータからお墨付きをもらってからは、《闘技場》の《ランダムバトルモード》で戦闘戦闘。
そうやってしばらく戦闘を繰り返すと、だんだんはっきりとしてくるものがあった。
「やっぱり……。これは、勝つる!」
『なにが?』
ウザそうなティータに、現状を比較させると、目を見開いて感心の表情。
『あんた……これは、計算通りなの? だとしたら、アキラのくせに信じがたいけれどすごいわね。信じがたいけれど』
そこまで言わなくてもいいじゃない。
そんなティータを感心させたのは、ドロップを比較した結果。
《チュートリアル・バトルモード》では、魔石などの確定ドロップを始め、素材とお金が手に入る。
それに対して、《闘技場》での《ランダムバトルモード》では、ドロップは一回の戦闘につき一個のみ。けれど……。
『まさか、レア度が高いドロップ品を、《ランダムバトルモード》で引き当てるとはね……』
比較した場合、ドロップ品の総数は《チュートリアル・バトルモード》が圧倒的。しかし、レア度が高いドロップ品に限定した場合、《ランダムバトルモード》の方が数倍確率が高くなっていた。
例えば、100回戦闘して、こんな感じ?
※《チュートリアル・バトルモード》
・トカゲの尻尾×2
※《ランダムバトルモード》
・トカゲの尻尾×8
ちなみに、トカゲの尻尾の情報をペタリ。
※
・トカゲの尻尾 : リザード系の魔物の尻尾。栄養が蓄えられている場所でもある。
使用した場合、スキル《身代わり》、《キャスリング》のどちらかを使用可能。一回きり。
《身代わり》 : 一度だけダメージを肩代わりしてくれる。
《キャスリング》 : スキル使用時、対象と場所を入れ換える。
※
アホだよね。ダメージ無効か短距離転移で強制回避かを選べるとか。
でも、これをたくさん獲っておけば、回避不能の状態でも何度でも完全回避が出来るし、損はない。むしろ、得しかないよ!
ゴブリンやオークを倒すのが飽きたとか、あのいやらしい目で見られるのが嫌なのもあったけど、この《トカゲの尻尾》は、何万個でも集めておきたい便利さだよね。
……で、6日目の現在まで、《ランダムバトルモード》で戦いまくっていたわけ。
『《ランダムバトルモード》だと、お金が手に入らないこと、忘れてないでしょうね?』
「わ、わ、忘れてないよ?」
ティータの冷静な言葉に、キョドりながらも、ちゃんと答えられた、はず。
お金大事。
他の妖精とトレードして食料などを手に入れているんだけど、初日ぼくが気絶している間に服や鉄製品と交換したらすっからかん。
交換レートも上がってしまった今では、お金もドロップ品も最低限しか持っていないんだよね……。
『どうだか……。ま、ほどほどにしておきなさいよ? リザードマン系に設定しておくから、自分のペースで殺りなさい。……そうそう、上位種は、火のブレスとか吐くけど、そういうのは出ないようにしといたから』
「ありがとう! ティータ優しい!」
場を離れようとする妖精さんを捕まえて、感謝の頬擦りをすれば、またイラッとした声をぶつけられるわけで。
『また殴られて気絶したいの?』
「ごめんなさい!!」
速攻で土下座しましたとさ。まる。
運営からメールが届いています。
※各プレイヤーに通達。
仕様の変更について。
(一部抜粋)
・トカゲの尻尾 : スキル《キャスリング》を削除。
・トカゲの尻尾 : 再使用時間を設定。6時間。
・拠点における《闘技場》でのドロップ率の調整。




