第五十七話:森の廃村
マップを確認すれば、廃村はもうすぐ。けれど、その廃村に近づくにつれて、トールくんの口数は減り、厳しい表情へと変わっていった。
そんな顔もかっこいいとは思うけれど、何を考えているのか、どんな気持ちでそんな顔になっているのか、気になって、聞こうとして、出来なくて口を閉ざす。そんなことを何度か繰り返した。
『到着、だ』
ヤタの声にはっとなり、沈みがちな顔を上げる。
そこには、廃村とは思えないほど立派な、丸太で出来た塀に囲まれた村。
塀に使われている丸太は、まだ新しい物のように思えた。
地面をよく見てみれば、新しそうな足跡がたくさん。
そこら辺も、廃村とは思えないほど。
村の中には、きっと誰かいるだろう。
……そう、思えたのも少しの間だけだった。なにせ、村の中からは、何も聞こえないから。
例えば、足音。
例えば、何かの作業する音。
例えば、人の話し声。
例えば、子供の遊ぶ声。
傷一つない新しそうな村でありながら、人のいる形跡がまるで感じられない。
村の中に、足跡はあった。たくさんあった。
……なのに、肝心の人は、村人は、どこにもいなかった。
それが、村中探して出した結論。
最近、結構な人数が訪れたのは確かなようで、けれども、住んでもいないようで。
「ねえ、トールくん? これは、どういうことなんだろうね?」
「……ミコト、移動しようか。こっちへ」
言われるがままに移動した先は、村の中心部の、他より大きめの家。
「入ろうか」
まるで、自分の家のように気負いなく入っていくトールくんに続いて、僕もその家へとお邪魔した。
玄関から入ると、すぐにリビング。右手側にテーブルやソファなど、くつろげる空間がある。
正面奥にはキッチン。
左手側に、二階への階段と、ドア。……ドアの先は、トイレやお風呂かな。
「間取りや内装も変わっていないなんて……」
呆然としたトール君の声に、我に返る。
「トールくん、ここは? この家は?」
「……うん、なんというか、その…………おれの家。……ああその、正しくは、以前におれが住んでいた家」
「以前に、住んでいた?」
「そう。……もう、6年になる。この家を出て、街へ行って、戻れないまま。……もう、6年になるんだ……」
そこから語られた内容に、絶句した。
※
父は、その実力と実績によって平民から騎士へ取り立てられ、実力だけで長にまで登り詰めた実績から、この開拓村の村長を任されるほどの人物で、
母は、そんな父と冒険者時代からずっと連れ添い、三人の子を産み育てた人物で、
姉は、母に似て美しく、争いを好まず、家族を愛する優しい人物で、剣の才能には恵まれなかったけれど、魔法の素質があったようで、ちゃんと伸ばせばそれなりの術士には成れただろうと言われていて。
弟は、人見知りで大人しい性格だったものの、格闘の才能があったらしく、その技術は、当時6歳にしてゴブリンを一人で殴り倒すほど。
開拓村は魔物の領域にあり、厳しい環境だったけれど、優しい家族と仲良く幸せに暮らしていたという。
……けれど、6年前の夜。武装したゴブリンを主力とした、オーク、オーガ、トロールの混成部隊に襲撃され、村は壊滅。村人は、伝令として一人村を離れたトールを除いて全滅。
父は、村人……共に開拓してきた仲間たちや家族までもが倒れ、最後の一人になっても戦い続け、敵を皆殺しにしたあと、死んだ村人全員を埋葬したのちに自害したらしい。
らしい、というのは、トールは村の惨状を人伝に聞いただけのようで、伝令として一人で森を走り抜けたトールは、追手や遭遇する魔物を一人で倒し、傷付きながら街へ着いた時には心も体も限界を越えていて、開拓村への襲撃を告げたあとは気絶。気がついた時には、全てが終わったあとだったという。
※
何事か、うまく言い表すことが出来ない衝動に駆られ、気がついた時にはトールくんのことを強く抱き締めていた。




