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Another Eden Online  作者: 平民のひろろさん
1ー1 第一次βテスト
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第五十四話:閑話:賢者 シオリ

 おきて、おきて、ニンゲン。


 おきて、おきて、ヤツが来る。


 おきて、シオリ、ヤツが来る!


 ……無口な妖精 インデックス


 六日目。


「ん、んん……?」


 何かが頬に当たる感触で目が覚めた。


「……いんでっくす……? ふぁ……。なに? どうしたのよ?」


 何かは分からないけれど、インデックスが必死になって頬をぺちぺちはたき、起こそうとしてくれていたみたい。

 元々朝は強くないので、寝起きすぐでは、ふやけた声とあくびが出てしまう。


 そんな私よりも寝坊助(ねぼすけ)なのが勇乃進(ゆうのしん)……いつもは(ゆう)と呼んでいる……で、なんとか早起きを頑張って、勇を起こしに行っている。

 それも、隣の家だから可能なのであって、家が離れていては……。


 バキン、と、何かが壊れたような音。


 完全に目が覚めた。隣のベッドで呑気に寝ている二人を乱暴に揺さぶりながら、小声で警告を発する。


「侵入者よ!玄関の(かんぬき)が壊されたわ。野盗かもしれない! 起きて!」


 二人に必死さが伝わったのか、野盗と聞いた段階で目を覚まし、ベッドから飛び出して武器を手にした。


 私もステータス画面を操作して、杖を手にし胸当てを装備した段階で、ドアに剣が突き立てられ、内側から掛けた鍵を壊された。


 壊れたドアを蹴り開けて寝室に侵入してきたのは……


「おはよう諸君。良い朝だな!」


 ……なぜか、上半身裸の、エロガキだった。


 ……あの、何やってるの?


 カティとティアの二人からは、小さい悲鳴が聞こえてきて、エロガキは、口元をつり上げていった。


 ……ああ、もう……。


 無言で杖をエロガキに投げつければ、驚いたような顔になって慌てて杖を払い除けていた。


 で、私は、


「ふっ!」


 気合い一発。股間を蹴りあげた。


「おっ!? ぐふっ!?」


 その場に(うずくま)るエロガキを、追加で突き飛ばす。部屋から出るのに邪魔だから。


「二人とも、こんなバカ放っといて、いきましょう」


 ほんと、イタズラの度が過ぎる。

 相棒が蹴飛ばされたにも関わらず、ケタケタと笑う妖精を無視して、ため息吐きつつ、二人の手を引いて早足で家を出れば、復活したバカがニヤニヤと笑いながら追いかけて来るのが見えた。



「………………シオリ?」



 聞きたい人の声が聞こえたのだけれど。




「…………勇!?」



 今、このタイミングでは聞きたくなかったなぁ……。

 意外なほど小心者な勇のことだから、この状況、絶対誤解するでしょう。


「あ……その、人、は……?」


 ほんと、なんでそんな、浮気現場に出くわしたような、絶望的な顔になるのかな?


「エロ魔人。襲われそう。ヘルプ」


「え? その、手遅れじゃ……?」


 こっちは、勇が告って来る前から、勇一筋だっていうのに。


「良いタイミング。助かったわ」


 引っ張ってきた二人の手を離し、勇の胸に飛び込もうとしたときのことだった。


「《トリックステップ》」


 あと一歩のところで、エロガキに横からかっ拐われた。


「人の女に手をだぐふっ!?」


 何か言いながら顔を寄せてきたので、(かかと)で足を踏んづけて、(ひじ)を腹に叩き込んで、頭突きで(あご)をカチ上げてやった。いい加減にしろこのバカ。


「え? ……その、人の、女って……?」


 状況についていけず、呆然としている勇。


 こらこら、大人になったら結婚してくれって言った相手が、傷物にされるところだったんだけど? なんでボケッとしてるわけ?


 ……だんだん、腹立ってきた。いい加減、目を覚ましてほしい。


 ぼーっと突っ立っている勇に駆け寄り、飛び付いて、半開きの口に唇を押し付けてやった。


 周囲からどよめきと叫び声が聞こえて、ようやく他にたくさん人がいることに気付いたけど、構うものか。こっちは、煮え切らない上勘違いをしまくる幼馴染み相手に、10年も(こじ)らせてきたんだから。


「勇、あんたからしてくれるのを待ってたけど、もう待てない。待たない。好き。ずっと愛してる」


 その返事がまた、腹立つもので。


(しおり)? 前に俺が結婚してくれって言った時、お金がないやつはダメだって……」


 ああやっぱり。何か変だと思ってた。


 勇からは、小さい頃から何度も告白されている。


 幼稚園の時は、いいよ。大人になったら。と返事した。


 小学生の時は、分かった。大人になったら。と返事した。


 中学生の時は、就職して収入が安定したら。と返事した。


 このバカ、『付き合って』じゃなく、『結婚して』と言うものだから、いつなら結婚できるか現実的な話をしたのに……。


 そこを確認しない私もバカだった。

 ずっと、付き合ってるつもりだった。

 けれど、告白を私が蹴ったって思っているのなら。


 ……もう、勘違いのしようのないくらい、態度と言葉で伝えてやるから。


 もう一回キスをして、しっかりと勇の目を見て、想いの丈をぶつけてやった。


「幼稚園の頃からずっと好きだったわよ。結婚しようと言ってくれて、嬉しかったんだから。小学生の頃、からかわれても離れなかったのが嬉しかったの。中学生の頃、身長も体格も違う先輩に絡まれたのを助けてくれた時、この人と、勇と結ばれるんだと思ったわ。勇が思うより、私は勇のことをずっとずっと愛してる」


「お、俺も、栞のこと、小さい頃から、本気で、ずっと嫁にしたいと思ってたんだ。俺だって、ずっとずっと愛してるよ!」


 今度は勇の方から、乱暴にキスをされて、ガチンと歯が当たって、抱き合ったまま痛みに悶絶する羽目になった。


 ……でも、私と勇なら、これくらい締まらない方がいいのかもしれない。


「バカ、好き、愛してる」


「ごめん、俺も好き。愛してる」


 今度はゆっくり、慎重にキスをしてくれた。


 周りからは、拍手喝采、口笛の嵐。


「ず、ずるい! あたしだって!」


「うちも、うちも!」


 叫びながら駆け寄ってきた知らない少女二人も、離れろとは言わないし引き離そうとしないあたり、祝福はしてくれてるっぽい。

 それなら、《正妻》として、余裕のあるところを見せた方が良いのかな?




 こうして、


 魔物のうろつく森の中、

 無人の開拓村で、

 知らない人たちに囲まれて、


 私と勇は、やっと恋人になった。


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― 新着の感想 ―
[一言] リア充爆誕( ˘ω˘ ) 何てリア充が多いゲームなんだ( ˘ω˘ )
[良い点] おおお、なんとも熱烈……!おめでとうございます! [一言] こんばんは。 >『付き合って』じゃなく、『結婚して』と言うものだから なるほど、確かに誤解しそうですね。実際にありそうなすれ違…
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